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青みがかった黄色いピンク  作者: 高嶋ともつぐ
第一章 安西幸之助
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#02 奇跡という言葉はいつかゴミ箱に捨てられる

水深200メートルから1000メートルまでの深海に生息しているリュウグウノツカイのような顔をした老人と知り合いになった。


老人とは水深1000メートルの深海から1000メートル上に行ったところにある地上でネットを使って知り合った。


『ネットを使って』といっても僕が仕掛けた網に深海魚みたいな顔の老人がかかったわけではない。


短くいうとインターネットで僕が老人に釣られてしまったのだ。


『不思議な力が手に入る』という深海魚でも嘘だと思うであろう言葉がサイトに書いてあった。


釣りエサだと99.99パーセント分かっているのに0.01パーセントの望みを捨てない魚のように僕はその言葉に食い付いた。


もし騙されていたとしても三年間くらいしか落ち込まないので平気だ。


病気が治るならドクターフィッシュに足の角質を提供する覚悟だってある。


治るなら何でもするがトマトは死んでも食べたくない。


テスト前の『勉強やってない自慢』くらいトマトが嫌いで見るのも嫌だ。


老人は写真でしか見たことがなくてあまり情報はないがトマトを食べながら行う『トマト魔術の達人』でないことを願いたい。


老人はネットでは『老人』と名乗っていたのでトイレの詰まりを解消する道具の正式名称と同じで老人の正式名称を知らない。


体調は良くないが僕・ブルドッグ顔おじさんは深海魚顔老人と初めて会うことになった。


初めてなので胸がバクバクして口から心臓が飛び出そうになっていた。


心臓は心臓でも自分の心臓ではなくて会う前にバクバク食べた牛の心臓の『ハツ』を戻しそうになったのだ。


初ハツを食べた時に牛乳かけご飯を食べた時以来の衝撃を受けてたくさん食べてしまったのだ。


待っていると遠くの歩道をシロクマが歩いているのが見えた。


スキューバダイビングをしていたら海にいるはずがないエイリアンと遭遇したくらいありえないことなので驚いた。


しかし近付いてきたらそれはシロクマではなくて黒いクマが目の下にできた全身白の老人だった。


老人だと気付いたのは1キロメートル先くらいに近付いてからだった。


シロクマではないとわかって僕はそっと双眼鏡を下ろした。


通行人の大きすぎる胸を凝視してもう一度老人を見たら意外に近くに来ていた。


まさにだるまさんがころんだ状態である。


僕からだいたいリュウグウノツカイ一匹分の距離まで老人が来たところで話しかけられた。


「私は安西幸之助です。久慈さんですか?」


「そうだよ」


顔はリュウグウノツカイなのに名前は略すとアンコウになるのがおかしかった。


僕の疑問は新品の箱ティッシュの一枚目を取った時の次のティシュのようにすぐ口から出てきた。


「『不思議な力が手に入る』ってどういうことなの?」


今まで情報を隠して明かさなかった『情報覆面オールドマン』が喋り始めた。


「私は魔法使いなんですよ。今は年老いて魔法が思うように使えなくなりましたけどね」


「魔法使い?」


疑いたくはないが保温と保冷が出来る優れものの容器を長年使っているだけの『魔法瓶使い』なのではと思ってしまった。


今まで会った怪しい人ランキングの一位になるくらい老人は怪しい雰囲気だった。


中国といえば『何かに挟まる人が多い』とイメージするように、魔法使いといえば『ホウキで飛ぶ』というイメージがあった。


でも中国の人口からすると何かに挟まっている人なんてごくわずかしかいないのだ。


そして老人は魔法使いだがホウキで飛んでこなかった。


マスコミュニケーションが我々の脳みそに入れた情報という入れ墨はずっと消えずに思い込みを引き起こしているのだ。


老人は今、魔法が思うように使えなくなったみたいなので魔法使いだと確かめるやり方とか仕方とか手立てとか手段とか方法とかは全くないが信じるしかない。


でも花粉症の人が一日で使うティッシュ並にお金が必要だったら諦めようと思う。


なぜならお金はないが友達からの借金はおっかねえほどあるからだ。


「お金ないんだけど?」


「お金はとりませんよ。私の最初で最後の弟子になってくれればそれでいいので」


タダだったので安心したが最初で最後の弟子と聞いて深海に潜っている時くらいの圧力に僕は襲われた。


僕は魔法使いになると決心したがスキューバダイビングの時の酸素くらい大事なのに聞くのを忘れていたことがあった。


「魔法で自分の病気は治せるの?」


「治せますよ」


老人が魔法を使えないのに病気で体力が落ちた100キロのベンチプレスも挙げられない僕に魔法が出来るのか不安だった。


でも努力は『ターゲットの女性を好きになってしまった詐欺師』のように裏切らないと信じて頑張ろうと思う。


『飛べない鳥のペンギン』と同じ類いの『魔法が使えない魔法使い老人』との特訓の日々が始まった。


「久慈さんは才能がありますね。私以上の魔法が使えるようになるかもしれませんよ」


普段は高級な保湿ティッシュくらい優しい老人だが怒るとクリオネの捕食する姿くらい怖かった。


それから僕は今何時なのかを時計を見ないで言ってだいたい当てたりお店のカレーの隠し味を当てたりが出来るようになった。


そして時間はかかったが遂に病気を治す魔法に成功した。


自分の病気を魔法で治せたことにクリオネが貝の仲間だと知った時と同じくらい驚きそして喜んだ。


肉体的にも精神的にも水中で息を止めて一分たった時くらい苦しい時期があった。


第77回ミスターミスった人生コンテストのファイナリストになった夢を見たこともあった。


でも今こうやって僕はずっと抜け出せなかった渦潮からやっと抜け出すことが出来た。


七寝転び八起きという言葉を胸に頑張ってきた甲斐があった。


魔法が使えるようになって僕の人生は179度変わった。


いや、540度変わったといっても過言ではない。


本当に本当に諦めないで本当に本当に良かった。


しかし老人は僕が病気を治せるようになる前にひとつの意味で天国へと行ってしまった。


普段は泣かない僕だが老人が亡くなった時は琵琶湖の水くらいの涙が出そうになった。


老人の最後の言葉は「魔法は誰にも教えずに良いことに使ってください」だった。


その後ご飯を鼻で食べようとしたりジュースを目で飲もうとしたりしたくらい老人が亡くなったのがショックだったが老人の言葉を守ってこれから頑張ろうと思う。

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