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青みがかった黄色いピンク  作者: 高嶋ともつぐ
第六章 飯田啓子
19/110

#19 言い訳はいいわけないが憎めない

相性100点ではないが僕と飯田啓子ちゃんは同じタイミングで椅子を座り直したり、ため息をするタイミングがピッタリ合っていたりしたので息が合っていると思う。


まだ付き合っていないが『月が似合っている』とよく言われているという飯田啓子ちゃんに電話でデートを申し込んだらこう言われた。


「両親はいますけどデートの場所は私の家でもいいですか?」


「いいよ。飯田家行こう」と飯田啓子ちゃんに言ったが後でダジャレだということに気付いて『狙って言った訳じゃない』と言うとしたけど言うとスベった言い訳をしているのだと思われるので言うのをやめた。


いきなり両親と会うのはスーパーに行く途中にある家の曇っている窓ガラスの向こう側に置いてある不気味な犬のぬいぐるみを見た時くらい怖いが何とかなるだろう。


飯田啓子ちゃんが電話で飯田家にはドレスコードがあると言っていたが普通の家にドレスコードがあるのは『音楽を聴こうと思ってイヤホンを耳に付けたが少し違和感があったので確認してみるとパーカーのフードに付いているヒモを耳に入れていた僕』と同じで普通ではない。


ドレスコードというのはLEDが使われている電飾ドレスをコンセントに接続する時に用いるコードのことではなくて『服装の規定』のことだ。


飯田家では服装が『動物指定』なので動物のイラストや模様などが必ず入っていなくてはならないが僕の知り合いの佐藤という苗字の人の数くらい服は持っているのに動物関連の服は一枚もなかった。


遠足の前に先生に『バナナはおやつに入りますか?』と聞く人がいるが僕は飯田啓子ちゃんに電話で『イソギンチャクは動物に入りますか?』みたいなことを聞いた。


「動物に入りますよ」と飯田啓子ちゃんが言ったので僕は久慈家では二人が持っているくらい人気があるイソギンチャクの写真がプリントされたTシャツを着て行くことにした。


飯田家には『立てヒザをしなくては食べることを許されない「立てヒザ食いそば屋」』くらい行きたくないが今さら行かないとは言えない。


世間では『ステーション』と呼ばれている『限定10食のステーキを食べられなかった時みたいなションボリ顔』をして駅で待っていた飯田啓子ちゃんと僕は合流して飯田家に向かって歩き出した。


「あらっ可愛いワンちゃん」


飯田啓子ちゃんがそう言っていたが前から歩いてきたおじさんが茶色い犬を連れていたのではなくて前から歩いてきたおじさんの横に風に舞った茶色いレジ袋がちょうど来ただけだった。


この間違いはテレビのインタビューに答えていた人の職業はブリーダーだったのに間違えてフリーターと読んでしまった僕より有り得ないことだ。


「違うんです。目が悪いのにかけているのはダテ眼鏡なのでよく見えなかったのと偶然おじさんの横にレジ袋が飛んでくるという誰でも見間違う出来事が起こったので仕方ないです。偶然って怖いですよね」


「そうか」


飯田啓子ちゃんに可愛いワンちゃんと見間違えられた『すごく可愛いレジ袋さん』が空の彼方に消えていったのを見届けた後に『近づいても飛びたたずに早歩きする鳥の歩くスピード』くらいでは歩かずに遅れそうだがゆっくりと歩いていった。


イソギンチャクTシャツの僕とヒョウ柄のトレーナーの飯田啓子ちゃんは女子高生の間で『急ぎん着』と呼ばれている『急ぎもせず時間通りに到着』をして家に入った。


「いらっしゃいませ」


飯田啓子ちゃんのお母さんが『コンビニ店員歴30年のベテラン』みたいに大声で挨拶をしてきて『口煩くて他のコンビニ店員に嫌われているのにそれに気付かず楽しく仕事しているベテラン店員』みたいな顔で迎えてくれた。


それなのに飯田啓子ちゃんのお父さんは厳しい顔で一言も喋らなくて今のところ『飯田家』はお母さんの愛想と家の外観が『良いだけ』だなと思ってしまった。


「これは裏庭で取れたリンゴなの」


表で取れた梨の『おもて梨』ではなくて飯田家の裏庭で取れたリンゴ、いわゆる『裏リンゴ』でおもてなしされた。


僕はゴルフ中継のスコアやナイスショットより打った時にめくれる芝の方が気になるが木になるといえば今食べているリンゴだろう。


僕が友達の椎名君を呼ぶ時に言う『おい、シイ』より少し優しい感じに「おいしい」と言った後に飯田父が初めて口を開いた。


「啓子。洋服が裏返しだぞ」


飯田父が『裏返しだぞ』と言った時に声が裏返っていて「あなたも裏返ってますよ」とツッコミを入れたかったが入れられないほどの場の空気だった。


「知らないの?裏返しに着るのが流行っているのよ。『無理矢理リバーシブル』ってやつよ」


飯田啓子ちゃんが言った「リバーシブル」は『知り合いが川で大きな桃を拾ったと聞いておばあさんは川に来たが流れてくる前におじいさんに帰るように言われてそのおばあさんは帰るのを渋った』という意味の「リバー渋る」ではなく『裏表兼用の服』という意味の「リバーシブル」だろう。


飯田啓子ちゃんの『トレーナー裏返しの言い訳』のことを考えていると飯田母が『裏返しエプロン』でやってきた。


「はい特製サラダよ」


飯田母がそう言ってサラダをテーブルに置いたが『サラダが盛られている皿は綺麗な皿だ』というダジャレと『レタスをちぎってドレッシングをかけただけのものはサラダではないですよ』という文句を言いたかったが言えるわけがなかった。


「今日はタコパよ。タコパといってもタコスパーティーではなくてタコ焼きパーティーよ」


タコ焼の食べ方は、丸く焼いた生地⇒ネギ⇒揚げ玉⇒干しエビ⇒紅しょうが⇒ゆでダコ⇒ソース⇒マヨネーズ⇒青のり⇒かつおぶしの順に口に入れて食べる『タコ焼口内製造スタイル』が好きなのだが今そんなことは出来ない。


この食べ方はシャンプーとリンスを自分で混ぜ合わせて『即席リンスインシャンプー』にしてから頭を洗う誰かさんよりはマシだろう。


みんなでタコ焼き器を使って作るかと思っていたが冷凍タコ焼きをレンジでチンしただけみたいだ。


さっき聞こえてきた電子レンジの音は「チン」という音ではなく「ピー」という音だったので『レンジでチンした』ではなくて『レンジでピーした』と言う方が正しいだろう。


デコピンには爪側をぶつける『ノーマルタイプ』と指の腹側をぶつける『指の腹タイプ』があるようにたこ焼きにも『ノーマルタイプ』と『揚げタイプ』があるが飯田家は『ノーマルタイプ』だった。


タコ焼きを一口で食べようとして口に入れたが熱すぎて口から飛び出てしまい飯田父のおでこに直撃するということはなくておいしく頂いた。


今までに飯田家のことで分かったことといえば母は料理が苦手で父は目が良くて

飯田家全員が『汚な好き』ではなくて『綺麗好き』だということだけだ。

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