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青みがかった黄色いピンク  作者: 高嶋ともつぐ
第五章 河合和香
16/110

#16 劣等感関連の言葉でレッドカード

値段5万円の吸引力がすごい掃除機でアゴを吸引していないのに河合和香ちゃんは吸引されたかのようなアゴをしているがアゴも含めて河合和香ちゃんのことを愛している。


生まれた時に3500グラムくらいの大きな赤ちゃんだった人はアゴがしゃくれやすいのだと僕は勝手に思っているので河合和香ちゃんも大きい赤ちゃんだったのだろう。


河合和香ちゃんの前でアゴ関連ワードを何回も言ってしまうと別れることになるので『身長』ではなく『伸長』でもなく『新調』でもなく『慎重』に僕は喋ることにする。


僕はジャガイモやさつまいもなどのイモに疎い『イモうと』だが喫茶店でこれから河合和香ちゃんの妹と会うことになっている。


『喫茶デガージュ』というお店で『朝専用の缶コーヒーを夜に飲んでもいいのか』というテーマで8時間ホットミルク1杯だけを飲みながら語り合っていたが結論が出そうになった時に妹が来た。


「こんばんは河合伊代です」


「どうも久慈雅人です」


河合和香ちゃんと妹の河合伊代さんは難しい言葉でいうと『胡瓜二つ』で顔がよく似ているが妹のアゴは姉とは違ってしゃくれていない。


僕の父はレモン50個分のビタミンCが入った飲料を飲むよりもレモン50個を丸ごと食べてそこからビタミンCを取りたいタイプの人間でかなり個性的だが河合伊代さんの髪型もパイナップルみたいで個性的だ。


名前を呼ばれたのか容姿を褒められたのか分からない時があるという河合伊代さんは店員に特製炊き込みご飯を注文した後に僕にこう言った。


「実は久慈さんとは前に会ったことがあるんです」


「そうだっけ」


大好きな曲のイントロがどんなメロディーだったのかがなかなか思い出せなかったのに壁にヒジをぶつけたらすぐに思い出したことがあったので今ヒジを強く押してみたが河合伊代さんに会ったことは思い出せなかった。


僕のヒジに『思い出しスイッチ』などなくてメロディーを思い出したのは偶然だったのかもしれない。


「久慈さん嘘ですよ」


「驚いたよ」


ニュース速報がテレビ画面の上の方に出る時の音みたいな河合伊代ちゃんの笑い声が喫茶店に響き渡ったが笑っている時の河合伊代ちゃんはかなり可愛く感じた。


合唱祭で僕が歌っているのを見ていた友達が揺れすぎだよと僕に言ってきたことがあったが僕の心が揺れることは絶対にない。


「こちら特製炊き込みご飯です」


「おいしそう。みんなで分けて食べましょう」


『炊き込みご飯』とは炊き込んだご飯という意味で店員の多喜子さんがご飯を食べている客を見つめていてくれるサービスがついたメニューの『多喜子見ご飯』ではない。


「ご飯に『おこげ』があるよ姉ちゃん」


飯のことは『ご』を付けて「ご飯」と呼び、コゲのことは『お』を付けて「おこげ」と呼ぶが姉のことは『お』を付けずに「姉ちゃん」と呼ぶことを気にせずに僕は炊き込みご飯を美味しくいただいた。


「これは『あごだし』を使ってるよね。あっ……」


カラオケで同僚と一緒に歌うことになり知らない曲を知らないと言えずに誤魔化しながら歌ったことがあったが今は誤魔化すことが出来なかった。


「ポイントカード出してください。アゴと言ったので1ポイントですね」


アイスには賞味期限がないということを忘れて10秒間くらい賞味期限がどこに書いてあるか探してしまったことと河合和香ちゃんにアゴ関連ワードを言ってしまったことを反省している。


「姉ちゃん許してやりなよ」


「一度なら仕方がないから」


酢豚のお肉を柔らかくしているのはパイナップルのタンパク質分解酵素だが河合和香ちゃんの物腰を柔らかくしているのはパイナップルヘアの妹なのかもしれない。


名前が長いので河合伊代さんのことを心の中では『パイナップル河合』と呼ぶことにする。


「姉ちゃん、滑舌に関するエピソード聞かせてよ」


「『友達の誕生日に花束をあげるんだ』と友達に言ったら『生卵を揚げるの?』と言われたことがあります」


友達は河合和香ちゃんが誕生会のメーンディッシュとして卵を約200℃くらいの高温の油で揚げた黄身がとろりと半熟で美味しい料理のフライドエッグを作るのだと勘違いしたのだろう。


河合和香ちゃんは相変わらずアゴは気にするのに滑舌は全然気にしていないので「ひとつは隠したがもうひとつは隠していない」という意味のことわざの『手隠して尻隠さず』がピッタリだ。


『手隠して尻隠さず』とは手相をペンで描いても効果があると知って結婚線をペンで描き足して買い物に行ったがお釣りを貰う時に店員にペンで描いた結婚線が見えてしまい慌てて隠したが少し経ってジーパンのお尻の部分が破れていることに気が付いた僕の体験から生まれた、ことわざである。


喫茶店での食事が終わって『金属工場勤続三十年』の父と『吉祥寺の聞き上手』と呼ばれていた母を親に持つ河合二姉妹に僕は奢ってあげた。


「ポイントカードはおもちですか?」


切り餅は確かにポイントカードと同じ長方形だがポイントカードが薄く切った餅なら財布の中でベチャベチャになってもおかしくないので『ポイントカードはお餅ですか?』という店員の問いかけに「いいえ」と答えようとした。


でもよく考えてみて「ポイントカードはお持ちですか?」という質問を「ポイントカードはお餅ですか?」という質問だと思わせるように仕向けた『引っかけ問題』なのだと解釈してポイントカードを渡した。


「こちら当店のポイントカードではないようですが」


河合和香ちゃんの前でアゴと言ってしまった動揺を引きずってしまい『喫茶デガージュ』のポイントカードではなくて間違えてアゴポイントカードを出してしまった。


「間違えました。こっちでした」


僕は学校の教室で野球ごっこをしていたらバットの代わりに使っていたリコーダーが振った時にスポッと抜けてしまい窓ガラスに当たって割れた時くらい慌てて、アゴポイントカードをしまい本物を渡した。


「おめでとうございます。10万ポイント貯まりましたのでプレゼントがあります」


「本当ですか?」


「プレゼントは炊き込みご飯にも使用している『粉末あごだし』です」


プレゼントを隠さないと先に店を出て待っている河合姉妹に「何かプレゼント貰ったの?」と聞かれて「あごだしだよ」と言わなくてはいけない状況になるので小さい鞄に無理矢理押し込んだ。


スーパーマーケットで『あごだし』と『かつおだし』のどっちを買うか悩んで『かつおだし』を買ったことがあったので『あごだし』に恨まれているのかもしれない。


僕たちを別れに導く『あごだしの呪い』から逃れることは簡単ではないだろう。


今いる喫茶の名前に使われている『デガージュ』という言葉の意味を知ってしまったがその時の驚きは不安によって掻き消された。

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