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青みがかった黄色いピンク  作者: 高嶋ともつぐ
第五章 河合和香
15/110

#15 かちゅぜちゅが悪くて聞き取れない時がある

寿司100貫を一週間で食べきることくらい河合和香ちゃんと付き合うことは簡単だと思っていた。


その通りで僕は喫茶店を10店舗はしごした中の9店舗目で告白をして河合和香ちゃんと簡単に付き合うことができた。


でも『簡単』という漢字を見ないで書くことよりも簡単にはいかないことが僕には待っていた。


「これは私の取扱説明書です」


一生懸命に何かをずっと書いていたので写経をしているか喫茶店への悪口を書いているのだと思っていたが取扱説明書だとは1パーセントも思わなかった。


おそらく利き手だと思う右手で河合和香ちゃんは書いていたが利き手ではない左手や利き足ではない左足で書いたかのようなヘタな字だった。


取扱説明書が書かれた紙は正式名称が『紙のような布巾』だと僕が勝手に思っている『紙ナプキン』でそこには次のようなことが書かれていた。


********************


《河合和香の取扱説明書》


◎あなたは私の前でアゴを連想させる言動をしてはならない


【禁止されているものの例】


・アゴクイをすること


・『顔が逆三角形だね』と言うこと


・『大昔』という言葉を英語で言うこと


※もしアゴを連想させる言動を5回した場合には別れることになるだろう


********************


僕の大好きだった薄いハムカツを製造している会社が厚いハムカツにリニューアルしたこととアゴが余計に気になってしまう内容の取扱説明書を河合和香ちゃんが僕に渡したことは逆効果だと思う。


「何これ?」


「これからパソコンで製作して印刷しようと思ってたんですけど急だったのでまだ出来ていなくて『何これ?手書きじゃん』と思われても仕方ないです」


先生が真面目な話をしている時に咳が出てしまい隣の席の女の子に笑っていると勘違いされて嫌われたことがあったが河合和香ちゃんも勘違いしている。


自分の取扱説明書を渡すことが珍しいので「何これ?」と言ったが『何これ?手書きじゃん』とは思っていなし文字の書き方で性格が分かるので、むしろ手書きの方が嬉しい。


アゴ関係の言動5回で別れなければいけないなんて、面接でスーツの上着を脱ぐように言われたのに上着とワイシャツが繋がっているタイプのスーツを着てきてしまい脱げない時くらいのピンチだ。


でもピンチはチャンスなので大嫌いな同僚にイタズラを仕掛けた時くらい楽しんでいこうと思う。


後日シンプルなデザインの一拍子揃った取扱説明書と手が込んだデザインの一拍子揃ったポイントカードを喫茶店で渡された。


僕はケースにCDを入れる時にCDのタイトルが逆さや斜めにならないように入れるくらいの几帳面だがすごく手の込んだポイントカードを作ってきた河合和香ちゃんもきっと几帳面だろう。


僕がアゴ関連の言動をひとつ言ったらこのマイナスポイントカードに『河合』という漢字の一部がネコのシルエッ卜になっているハンコがひとつ押されるわけだ。


商品名に『おいしい』という文字が入っている食品を全ての人がおいしいと思うとは限らないがアゴがしゃくれているのをいじられることも全ての人がおいしいと思うとは限らないのだ。


「◎×#@¥℃」


「うん」


河合和香ちゃんが何を言っているか分からなかったが逆再生すると意味のある言葉になるかもしれないので聞き返さないことにした。


でも卓球の試合の時に顧問の先生に『可愛らしく行け』と言われたので可愛くぶりっ子でスマッシュをしたら可愛らしくではなく河合らしくだったことでお馴染みの河合和香ちゃんの滑舌が悪かっただけかもしれない。


たまに100人が同時に喋っているのと同じくらい河合和香ちゃんの言葉が聞き取れないことがあり滑舌が前から気になっていた。


「飛行機のワーストクラス乗りたいですよね」


河合和香ちゃんがそう言った時に喫茶店にいた何人かの客が外敵を監視している時のミーヤキャットみたいにキョロキョロしていた。


ワーストクラスという言葉を聞いたことがないがたぶん椅子が木で出来ているシンプルな椅子で料理が小さい塩むすび一個でキャビンアテンダントがタメ口なのだろう。


でも河合和香ちゃんは『乗りたい』と言っていたのでワーストクラスではなくて飛行機の中で大量の焼豚と共に生活する『チャーシューと暮らす』でもなくて飛行機の一等席の『ファーストクラス』だと思う。


「ファーストクラスだよね?僕も乗りたいよ」


「もしかしてかちゅぜちゅ悪いですか?」


「少しね」


滑舌という言葉は言いづらいので僕でも『滑舌』と上手く言えないことが『ドアを開けて外に出ようとしたら着ていたTシャツが内側のドアノブに引っ掛かってしまうこと』と同じくらいよくある。


その後は河合和香ちゃんに「お店でフライドポテトを頼んだらフランクフルトがきたんですよ」という話や「小学生の頃に『シロナガスクジラを見に行った』と言ったら『血を流すクジラ』だと勘違いされて引かれたんです」という話をされた。


『かぐや姫が値切ってきたので仕方なく安値で売ったがその後経営がうまくいかなくなってしまって家具屋悲鳴』というダジャレくらいその話はつまらなかった。


アゴのことは気にしすぎなのに滑舌の悪さは全然気にしていないのはテレビを見ていたらリアクションを求められるワイプに全く動かない番組のマスコットキャラクターが長い時間抜かれていたことくらいおかしい。


「プレゼントがあるんです」


河合和香ちゃんがそう言ってきたがプレゼントは『一時間アゴ関連の言動をOKにする券』だろうか。


「つまらないものですけど」


つまらないものと言っていたのでたぶん便秘薬か鼻に貼ると鼻腔が広がるテープなのですごく嬉しい。


「開けていい?」


「いいですよ」


開けたら鼻腔が広がるテープではなくて漫画だったがマンガという文字を並び替えると『ガマン』になるのでこれで我慢しようと思う。


「ありがとう」


「私が気に入っているストーリー性のある漫画の1巻と7巻です」


1巻を読んでから7巻を読んでも『何でこの人は死んだことになっているんだ』などの疑問がたくさん出てきて、たぶんつまらないと思うので「つまらないものですけど」という河合和香ちゃんの発言は合っているだろう。


僕は想像するのが大好きなので1巻と7巻だけでも夢に頻繁に出てくる『階段を100段以上昇らないとたどり着けない100人以上の行列がいつも出来ているお寿司屋さん』に実際に行けることくらい嬉しい。

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