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青みがかった黄色いピンク  作者: 高嶋ともつぐ
第四章 冬野香織
13/110

#13 信じ過ぎる女をとても信じ過ぎた

陸上男子100メートルの世界記録くらいの時間のガッツポーズを冬野香織ちゃんのお兄さんがしたのはボウリングでピンを5本倒した時だった。


そしてピンを5本倒したお兄さんはすごく嬉しかったからなのか僕が干してある敷き布団に見えたからなのか分からないが僕の背中を手で思い切り叩いてきた。


僕が『このままでは背中が破壊される』と思ったのはピンを1本倒しただけなのに喜び始めた時である。


「やった!1本倒した!」


『バシッ』


「お兄さん、痛いですよ」


「ハッ!」


『ガシャン』


冬野香織ちゃんはお兄さんの大声にビックリして手に持っていたウエストポーチをハンマー投げみたいな投げ方で投げて中に入っていた大切な陶器の小物入れとガラスの小物を割ってしまった。


お菓子の袋が開かなかったのでハサミで袋を切ったら切り離した部分に賞味期限が書いてあったことがあったのだが、そのお菓子メーカーと割れやすい陶器のものを持ち歩いている冬野香織ちゃんに『こうなることを予想して』と言いたい。


冬野香織ちゃんのボウリングの点は低いが『女子ウエストポーチ投げ』の芸術点は高かった。


僕はふたつのことを同時に出来ない人間なのでボウリングで歩きながら投げられずに止まってから投げてしまっていたがドラムを叩きながら歌ったりギターを弾きながら足でピアノを弾くことさえも出来ない。


背中を叩かれ過ぎて記憶が飛んだのでなぜか分からないが修学旅行の時に他の部屋だった友達に僕の寝るはずだったベッドを奪われて仕方なく床で寝た時くらい背中が痛かった。


「この求人が俺に合っているか占ってよ」


そう言ってお兄さんはヤギの小屋に一週間くらい放置したか梅雨の時期に一週間ほど雨ざらしにしたかのようなボロボロの求人雑誌を僕に見せてきた。


人差し指で指を指したのは『給料が10倍になるのも夢じゃない』という求人だったが0に10をかけても100をかけても0は0なのだ。


「この求人はお兄さんには合ってないよ」


「世界一当たる占い師さんありがとう」


「完璧の『璧』」と「壁掛け時計の『壁』」は似ているが違う漢字だということと僕が占い師ではなくて魔法使いだということはみんなに知られていない。


冬野香織ちゃんのお兄さんの体の上の方にある顔の中心の鼻の上にある目の下にある頬の下の口からこんな言葉が出てきた。


「大物司会者はほとんど俺と同じ身長なんだぜ」


『俺は大物司会者になる素質がある』と言いたいみたいだが僕の方が司会者に向いているし、ガラスの小物を破壊した『小物破壊者』を妹にもつお兄さんが『大物司会者』になれる訳がない。


一瞬だけど僕の方が司会者に向いていると思ってしまったので切腹は出来ないが腹を切る代わりに爪を切る覚悟はある。


ワインを一度も飲んだことがなかったのにコンビニで何となくボジョレー・ヌーボーを買ってしまい自転車で割れないように気を付けながら帰ったのに結局少ししか飲めなかったくらいワインが好きではないがお兄さんのこともあまり好きではない。


ボウリングデートをした日から『僕が語学留学に行ったとしたら何とか耐えられそうな期間』くらいの月日が経った。


冬野香織ちゃんは今もホラー映画が好きでたくさん見ているみたいだが少しの物音で過剰に反応することはなくなり僕の話す言葉にも無反応な時があるくらいかなり成長をした。


濁点を付けることが出来て小さくすることも出来る文字は『つ』しかないのかを考えながら自宅で料理を作っていると冬野香織ちゃんが来た。


ラッキーカラーである『楊枝の代わりに鉛筆で口の中を掃除をした時の歯のような黒色』のスカートを履いた冬野香織ちゃんをソファで待たせて料理の続きをした。


そして太巻きとはいえないほど細い太巻きと冬野香織ちゃんがリクエストしてきたコロッとしていない『コロッケ』を出した。


「美味しいです。天才ですね」


「よかった」


冬野香織ちゃんに美味しいと言ってもらえて『パンは何でも潰してから食べる友達が僕にパンをくれることになったが予想していた潰したパンではなくて潰していないパンをくれた時くらいホッとした。


コシヒカリといえば反射材を腰に巻いたおばさんの総称だが太巻きに使ったお米の名前もコシヒカリだ。


「これコシヒカリですか?」


「そうだよ。よく分かったね」


一キロ分の髪の毛を切ったのに次の日まで全く気が付かなかった父と違って冬野香織ちゃんはこのお米がコシヒカリだということに気が付いてくれた。


「こんなわがままな私のために色々してくれてありがとうございます。とてもふところが深いですね」


心が広くて包容力があるという意味の『懐が深い』なのか『太巻きとコロッケは奥が深い』を縮めた言葉の『太コロが深い』なのか僕には分からなかった。


『ガシャン』


「あっ、すみません」


「大丈夫だよ。ケガはない?」


冬野香織ちゃんが僕の大切な陶器の皿を落として割ってしまったが皿割れるより誰かにさらわれる方が嫌なのであまり気にしていない。


名前は思い出せないが10年近く使っている小型モーターで3枚の羽根をグルグル回転させて『扇』で扇いだような『風』を発生させる『機器』くらいお皿は大切だったが気にしない。


冬季オリンピックに冬野香織ちゃんは絶対出られないと思うが『陶器割りんピック』があれば確実に金メダルが取れるだろう。


気がついたら冬野香織ちゃんの対義語をネットで調べていたくらい冬野香織ちゃんが好きなので何でも許してしまう。


肌が弱くてカミソリで顔を剃っている時によく血が出るがその時にできた『血痕』のような色をした赤い糸で僕たちは結ばれていて『結婚』してくれると信じていたがダメだった。


「優しすぎるから別れましょう」


安全ピンが安全とは限らないように女性は優しい男性が好きとは限らないのだ。


50メートル走で10秒かかっていた人が急に50メートル2秒になったらおかしいように優しかった人が急に優しくなくなったらおかしいので『厳しくするから別れないで』とは言えなかった。


「わかった」


冬野香織ちゃんとは別れることになったが今ならズッキーニを『キュウリだよ』と言われて出されても気が付かないだろう。


長年使ってきたゴムみたいな素材で出来ている耳掻き以外の耳掻きは使いたくないのと一緒でずっと一緒にいた冬野香織ちゃん以外の女は考えられなかった。


冬野香織ちゃんは帰ったが別れたことに動揺しすぎて耳掻きを冷蔵庫に入れようとしてしまった。

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