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青みがかった黄色いピンク  作者: 高嶋ともつぐ
第四章 冬野香織
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#11 サンシャインのように明るい正社員に

打率4割のバッターはプロ野球で一人も現れていないが『惚れさせ率9割の美女』は僕の前に一人現れて今付き合っている。


現在は冬野香織ちゃんとふたりで喫茶店にいて白い陶器に口をつけて茶色くて苦い液体を食道経由で胃の中に流し込んでいる最中である。


「ティラミスとミルクレープ、どっちを頼んだ方がラッキーですか?」


「ショートケーキだね」


何度も何回も幾度も冬野香織ちゃんに占うように頼まれているが占いを信じていなかった以前の冬野香織ちゃんとは別の人で違う人で別人だ。


高校生の時にレンタルビデオ店の自転車置き場で、見た目が優しそうな高校生によく分からないことでキレられたほど僕は運が悪いがそれ以上に冬野香織ちゃんは運が悪いみたいだ。


「私は職業に恵まれてないのでどうしたらいいか占ってください」


冬野香織ちゃんは店が潰れたり上司にいじめられたり社長をぶん殴ったり店長を張り倒したりと何も悪いことをしていないのに何度も職を失ってきたみたいだ。


「僕が選んだ企業を受ければ絶対に採用されると思うよ」


「プロアルバイターから正社員になれるんですね」


プロアルバイターという言葉は響きがかなりカッコよくて『すごい職業』と思いがちだが意味はフリーターと一緒で非正規な雇用形態で働いている人だということを忘れてはいけない。


「ショートケーキのイチゴは最初と最後どっちで食べるのがラッキーですか?」


「真ん中だね」


データ容量が1バイトくらいありそうな冬野香織ちゃんがケーキを食べながら今までにやったバイトを話してくれた。


「自転車のサドルの実演販売のバイト。

真っ暗な倉庫で大量の札束をひたすら数えるバイト。そして靴2足しか持っていない自慢を一時間聞くバイトなどをやりましたよ」


靴2足しか持っていない自慢を一時間聞くバイトは有名なので聞いたことはあるが他は全く分からなかった。


トーク中に冬野香織ちゃんが食べているショートケーキが横転していたが先生のことを母上と呼んでしまうことよりよくあることだ。


『ガシャン』


コーヒーをお湯で割ったものが少し残った陶器のコーヒーカップを落として割ってしまった冬野香織ちゃんの表情は押されて土俵を割った力士のようだった。


今の状況を短く説明すると猫の額ほどの広さの喫茶店で冬野香織ちゃんがカップを落として「キャッ」と驚いて周りの人は「ワーワー、ギャーギャー、ニャーニャー」騒いで猫を被っていそうな店員が「猫の両前足も借りたいよ」みたいな表情で割れたコーヒーカップを片付けている横で猫みたいな瞳の子供がひなたぼっこをしている猫のように床に寝転んでいるところだ。


冬野香織ちゃんにどうやったら採用されるかを聞かれたり、なぜ庭の木が枯れたか聞かれたりしていると冬野香織ちゃんの友達らしき女性が喫茶店に来てすぐこんなことを聞いてきた。


「香織。今、何食べた?」


普通は会ってすぐの時に『ごきげんよう』とか『元気だった?』とか『ごき元気?』というあいさつをするものなので少し驚いた。


冬野香織ちゃんの食生活は好きな芸能人の身長と同じくらい僕も気になるが僕が友達だったら一言目ではなく二言目に聞くと思う。


たぶん僕の昔の職場にいた前日の夜に何を食べたのか聞いてくる『何食べたおじさん』の娘だろう。


「ショートケーキを食べたよ」


「じゃあ私も食べるわ」


その後、世界中の人が見たいと思っているであろう冬野香織ちゃんの友達のショートケーキを食べるシーンを見届けることなく冬野香織ちゃんが面接の練習をしたいと言ったので冬野香織ちゃんの家に行った。


「じゃあ始めるよ。まずは自己紹介してください」


僕は昔の面接の時に『自己紹介をして』と言われて面接に来る途中に偶然目撃した交通事故を紹介してしまったことがあるが冬野香織はどういう自己紹介をするのだろうか。


「私は人間じゃないです……あっ間違えた『私は良い人間じゃないです』と言おうとしたのに緊張して『良い』を抜かしてしまいました」


漢字のテストで答えが分からなくて黒板や掲示物から答えの漢字があるか探している人と同じで、こういう言い間違いをする人はよくいる。


居酒屋で友達に『美味しいから食べてみて』とあまり好きではない鶏皮を勧められて断った時に言った『皮いい』と同じくらいのテンションで『可愛い』と心の中で言った。


「ずっと気になっていたんですけどリクルートの対義語は海ルートで合ってますよね」


小学校の時の国語のテストでカンニングした漢字を解答欄に書いたがその漢字が独特すぎてカンニングがバレそうになったその時の漢字くらい独特な間違いだ。


「違うよ。調べてみれば?」


こんなバカが世の中にいたのかと驚いた。リクルートの対義語は海ルートではなくて『空ルート』なのにね。


ある事柄について調べた事実を記載した文書は『調書』だが僕は面接練習で次に長所を聞いた。


「長所を教えてください」


「くしゃみをしたら「イヌが吠えたのかと思った」と言われたことがあります」


牧羊犬の代わりとして羊の群れの誘導は出来そうだがこの長所は銀行強盗をやるので刃物を持って来いと言ったのに刃物ではなくて葉物野菜を持ってきた仲間くらい役に立たない。


「あとはコンパスを使わないでコンパスで描いたような綺麗な円が描けます」


僕はこの言葉に驚き、そして驚き、さらに驚いてしまった。


フリーハンドで美しい丸が描けていたらコンパスに頼りきりだった僕の人生も少しは変わっていただろう。


これが本当なら冬野香織ちゃんはサークルアーティストとして『フリーハンド業界』のトップになるのも夢ではない。


競馬が趣味の僕のおじいちゃんは三連単ばかりで『単勝』に興味はないが僕は冬野香織ちゃんの『短所』に興味がある。


「では短所はなんですか?」


「行き当たりばったりの旅で見つけたレストランの料理で何回も『食あたりぐったり』したほど運が悪いことです」


輪ゴムを指で弾いて3メートル先の壁に止まっているハエに命中させるのと同じ確率で僕も『食あたりぐったり』になることがあるので親近感が湧いた。


僕は『かき氷』より氷の上に殻付きの牡蠣を乗せた『牡蠣氷』の方が好きなので『食あたりぐったり』は仕方ないのかもしれない。


『食あたりぐったり仲間』として僕・久慈雅人は冬野香織ちゃんの就職活動を応援している。

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