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青みがかった黄色いピンク  作者: 高嶋ともつぐ
最終章 久慈雅人
109/110

#109 ラーメン伸びずに幸せ延びて

ラーメン屋で野球を見ていたら、ランナーがいっぱいたまって、ホームランバッターがビュンビュン飛ばして、ものすごい点が入って、野球が急展開をみせていて、[好きなところなんて山程あるよ!と言ってしまったものの、国土交通省的なところが正式に定めている山の数も知らずに、そんなことを言ってしまい後悔しかない]みたいなことが、昔あったような無かったような、みたいなこともどうでもよくなるくらい、のめり込んでいた。


野球に夢中で、ラーメン丼の中は箸から伝わる感覚と、僅かに視界の端の端の端から伝わる視覚情報だけを便りに食べることを進めていたから分からなかったが、普通にのっている煮たまごの他に、ラーメンの底に隠れる煮たまごがもうひとついて、これも急展開だなと思った。


野球の球は王を求めると書くけど、僕はラーメン王とか、ベースボール観戦の王様みたいな肩書きや称号はいらなくて、ノックして入らなくてはならないドアが大理石だったら、色んな意味で汗が出てくるだろうけど、ラーメン王みたいなそんな肩書きを与えられた日には、もう蚊も止まれないほどの汗を流すことだろう。


僕がある女性のことを欲しているのは事実中の事実なのだが、僕がある女性を欲しているという事実の種類は、箱ティッシュの残りの枚数が分かる、ティッシュカウンターが欲しいと思っている事実とほぼ同じ種類の事実である、みたいに思っているときが前にあったらしくて、僕はカウンターでティッシュペーパーを使っている今、それを思い出した。


店内を見回すと、カタカナが多くて、ミソラーメンとか、トンコツラーメンとか、シオラーメンとか、そんな風に書いてあって、縦書きで『ー』という伸ばし棒が横になることはあまり無いが、このラーメン店は縦書きでも横棒で、なぜかミソラーメンのことを『ニワーフヌン』と読んでしまっていた。


無駄にしっかりとした硬い素材で出来ているテーブルの角に膝をぶつけたある女性は、僕の呼び掛けに一切答えることなくただただ痛がっていて、昔、賞味期限の下に書かれた製造年月日のせいで、期限が過ぎていると誤解され、母に流しに捨てられた牛乳のような気持ちになったことが懐かしくなった、それはミソラーメンの件で思い出した。


あっという間にラーメンは完食して、スープも全部飲み干していて、もしも僕が大食いでフードファイターと対決した場合、フードファイターが1.5キロ食べた頃に、僕は1.5切れをやっと食べきっているだろうみたいに思っていたが、1.7キロは食べられそうだと思い始めていた。


オーバーオールで大葉を覆う、というダジャレ映像がたまに頭に再生されるし、スローロリスがリスっぽくなかったら、今の僕はいないだろうと何回も思ったりしたし、僕が復讐ドラマの主人公だとしたら、決め台詞は「されたら仕返し。0.7倍でね」になるだろうけど、僕は今はラーメンのことしか考えられなくなろうとしている。


スーパーで売っているラーメンの賞味期限の欄に9.30と書いてあると思っていたら、製造記号のDが賞味期限に近寄りすぎていて本当は9.3Dで、そのことに随分気付かなかったことがあって、同じくらい、もうどうすることも出来ないと思った日もあったけど、今こうやってラーメン食べられてるからいい。


美味しすぎて、食べているときの記憶が全くないというのは過言だが、それくらいの美味しさに触れることが出来てとても幸せで、最近は『お言葉に甘えまして』と言おうとして、『サケトバに甘えまして』と言いそうになったり、浅漬け大根が、片付け代行に聞こえてしまったことがあったりして、そんなことが起こっているうちは、幸せだよなと思った。


何も泳いでない丼のプールを見つめて、替え玉をするか、追加ライスをするか、餃子を入れて餃子スープにするかとか、『地下の近くにいる千佳さん』というタイトルの本を本屋で見かけたけど、地下の近くとは一階のことだろうか?などなど、色々考えたけれど、もう一杯今度は期間限定味噌ラーメンを頼むことにした。


ラーメンはカーテンと同じ発音でいいんだよなとか、ガーデンと同じ発音でいいんだよなとか、バーゲンと同じ発音でいいんだよなとか、他にも発音系のことで、支笏湖[しこつこ]とか、本栖湖[もとすこ]のように、四文字の言葉の構成が、①何でも⇒②母音O⇒③母音U⇒④母音O、という流れになっている言葉が好きかもしれないとか、考えていた。


軽くフードファイター気質が溢れてきたある女性を見て『私、会社を立ち上げました。大所帯アイドルグループの人数にも満たない小さな会社ですけど』と、ある女性が最近、僕に言ってきたときの姿が僕の中から軽く溢れてきて、ギャップに萌えたりしたことを思い出した。


ある女性と頻繁に逢うようになって、ラーメンを頻繁に食べるようになって、ある魔法小説のタイトルを『情熱の青い雪』に改名した方がいいのではないかみたいに思うようになって、僕の人生は変わったことがあった気がするけど、そんなこと考えている場合ではなく、頼んだ味噌ラーメンのことを考えようと思った。


ラーメンを作っている店長的な人が、何の囲いもなく見えてしまう感じのラーメン店で、店長みたいな大将みたいな人の坊主がかなりキマっていて、まさにプロって感じで、まさにプロ坊主と呼ぶに相応しい感じだった。


今思い出したのだが、プロポーズの計画はもう完璧に仕上がっていて、どれくらい完璧かというと、クイズ番組で『今、何問目?』『あと何問ある?』『今、何問目?』『今、何問目って何回言った?』『今、何問正解してる?』という誰でも間違えてしまうような問題構成くらいの完璧さである、みたいなときがあった。


ある女性の愛の名言がこの場に登場し、今幸せな未来へ飛び立とうとしている僕に、緊張という名の緊張が搭乗しているが、『先々場所が休場、先場所が九勝』と相撲の実況の人がテレビで言っていても、どっちが『休場』で、どっちが『九勝』なのかごっちゃになってしまうように、プロポーズの緊張のドキドキとある女性が好きすぎるドキドキが、ごっちゃになっている気がする、と思ったことがちょっと前にあった気がした。


その思い出した事柄がなぜか、今までのように簡単には抜けず、深酒した翌日の午前中の酒みたいに、ずっと身体を支配しているような感覚になって、味噌ラーメンのことなんてどうでもよくなるくらいで、内輪だけで『なんでい?』という言葉が流行ったときくらい『なんでい?』と思っている。

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