#103 料理上手は憑依上手?
最近は料理ばっかりしてる気がするけど、食材を使うやつだけではなく、人を料理するみたいなやつとか、状況を料理するやつとかも、少しはしていて、とにかく料理は好きだ。
卵料理が好きで好きで死ぬほど好きで、生まれてきてから五万個ほどの卵を割ってきたのだが、誰かに腹を割って話したことよりも遥かに多いことは確実で、【『買って出る』という言葉が読んでいた小説の中盤に出てきたのだが、ずっと『買って出る』よりも『刈ってDEL』寄りの漢字を使うと思っていたから、えっ?ってなったことがあって】それと同じくらい世の中に思った以上に卵が浸透していないことに、えっ?てなっている。
信号のない横断歩道に人がいたので車のブレーキを踏んだら、対向車線の車が全然止まらなくて、このままじゃ太陽も沈むよと思いながら、このまま人生と同じように車道でも進めないのかと、悲しくなったことがあったが、卵料理をこだわりすぎて、このままじゃ太陽も沈むよ!みたいなときがたまにある。
今は卵をオーバーアクションで壁に打ち付けて、天井に近い場所から大きなお皿に卵を落として入れているところで、誇大に割り入れているということで、この技は【コダワリ】と名付けることにする。
アルコールで胃を損傷しちゃったからね、と言われた後に、転倒して、と付け加えられたら、胃がキリキリとなるくらいの驚きを感じてしまうと思うが、そんなことも、それ以外のことも、卵なら優しく包み込んでくれる気がする。
今は誇大に割った、こだわりの卵で、こだわりのだし巻き玉子を作ろうとしているところで、【僕はスマホでフリック入力じゃない入力をしているのだけど、たまにというか頻繁に『は』という文字が余計に何処かに入り込んだりして困っていて】『は』という言葉に敏感になっているので、だし巻き玉子を作るよと言ったときに、『はっ?』と言うような人は、今はいらない。
僕の好きな食べ物は、今日の2位がだし巻き玉子で、昨日の7位がクロックムッシュで、昨年の886位がペスカトーレだったのだが、今の暫定1位は【電子レンジでチンできるものを買って、それをチンしたら、立ち位置が定まらなくて、少しずつ手前に動いてきて、終いにはピューと悲鳴をあげ始めたので、急いで助けたという、あの伝説のウインナー】だ。
【二人きりで夜の街へ繰り出したのだが、まだ告白をしていなくて付き合うに至っていない男女の同伴をデートと呼んでいいかなんて、ペスカトーレをコングラチュレーション的な言葉として使っていた僕には分からないよ】と昔思ったことをペスカトーレという言葉で思い出した。
僕のこだわりのだし巻き玉子は、裸足で巻いてゆく【ハダシ巻き玉子】ではなく、駄菓子を薄焼き玉子で巻いてゆく【ダガシ巻き玉子】でもなく、ダシを取るための鰹節や昆布を何の加工もせずに、そのまま薄焼き玉子で巻くタイプのものでもなく、ごくごくごくごく普通のものだ。
だし巻きを作っている今も、左右5個ずつ計10個の耳が欲しくて、2個は音楽をイヤホンで聞くために使いたくて、2個はラジオをイヤホンで聞くために使いたくて、2個はピアスや耳の穴にぶっ刺すタイプのアクセサリーなどの装飾用に使いたくて、1個は耳栓の耳触りを感じる用に使いたくて、1個は耳掻きの耳触りを感じる用に使いたくて、1個は通話するときのイヤホン用に使いたくて、最後の1個は緊急用に空けておきたい。
こだわりのだし巻き玉子とはいっても、女性のタイプのように、【大人しげに暴れる人・イヤホンで言動を指示されていない変人・僕の劣っているところが優れていて、優れているところが劣っている正反対の人・体重が三桁を越えていない僕が持ち上げられそうと感じる人】というような具体的なものがあるわけではなく、たぶん端から見れば、こだわりではなく、普通だろう。
だし巻き玉子は、少し水を卵液に入れればなんかいい感じになると聞いたことがあるけど、僕はそれをやらず、知り合いの【河合衣子ちゃん】は【河合衣子ちゃん】という名前なのに、可愛い子ちゃんと呼ばれてはいなかったな何てことを思いながら作った。
ダシとかって入れすぎることとかあるから、少し濃くなっちゃうときがあって、そんなときにダシが自由自在に出し入れ出来ればいいなって思ったりすることが何回もある、ダシだけに。
僕が好きな女性ソロシンガーはカラオケ登録曲数が最多みたいで、質問の応答をそのシンガーの曲名だけでしろと言われたら可能としか言いようがないけど、その女性ソロシンガーの曲名で、ある女優さんの魅力を語ってくれと言われても言葉が足りないと思ったことがあるし、今は、僕が好きな女性ソロシンガーのカラオケ登録曲にだし巻き玉子という曲もあるんじゃないかと思ってきている。
ハガキが一枚すっぽり入ってしまうくらいのサイズの玉子焼き用フライパンみたいなものを熱して、油して、液を流して、巻いて、【スマホを弄りながら短くて太いポッキーを食べていたとき、ついポッキーをタッチペンとして使いそうになった僕】が、ポッキーではなく菜箸を持ちながらそれを繰り返して、だし巻き玉子を作った。
スプーンとフォークを両方使いたいときがあるけど、先割れスプーンは食べづらいので、普段は普通のスプーンで、何かを刺したい時にだけ、持ち手の先端を引っ張ればスプーンにフォークのような隙間が生まれるものが欲しいと思いながら、箸でイエローキューブを一口いった。
しつこい、しつこい、しつこい、しつこい、しつこい、とずっと思っていて、頭の中にいる、しつこすぎる“しつこい”という言葉によって、失恋という本来は“しつれん”と読む漢字の読み方を変えると“しつこい”とも読めることに気付いてしまい、付き合ってすぐに『失恋』なんて縁起が悪いから頭から無くしたいのに、しつこくて無くならないみたいなことが過去には起きていたが、だし巻き玉子を食べている今は、ちょうどいい、ちょうどいい、ちょうどいい、ちょうどいい、ちょうどいい、みたいなことをずっと思っている。
悪戦苦闘30分という、歯に挟まったホタテの紐を取るのにかかった時間以上に無駄なものなんて何にもなくて、彼女の掘っ立て小屋に住まわせてもらってるヒモも、僕とある女性が付き合うことも無駄ではないと思ったこともあったけど、結局玉子焼きは歯に挟まりにくいからいい。
ドラマ初出演で『埋めた自尊心を掘り返すように』という高視聴率ドラマに関われて、とても嬉しいが、もうすぐクランクアップで寂しく、ドラマ初出演での演技は「どらまはつしゅつえん」と早口で言うことくらい難しく、僕が一番苦手な「料理教室講師調理中」という早口言葉の「講師調理中」と似た言葉の『高視聴率』が取れるなんて思ってなくて、たぶん僕の力は関係ないだろうみたいに過去に思ったりしたこともあった。
昔はそんなに料理教室講師調理中という言葉を何とも思っていなかったのに、今はすごく思っているように、だし巻き玉子も昔はベスト10には入っていたけれどそんなに好きではなかったのに、今はとてつもなく好きになってきている。