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青みがかった黄色いピンク  作者: 高嶋ともつぐ
第四章 冬野香織
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#10 モテたい男の占いには裏がある

身長200センチの友達ほど背が高くなりたくないが今使っているベッドから足が少しはみ出るくらいにはなりたいので『小学生の時に使っていた30センチの竹ものさし1つ分』魔法を使って背を伸ばした。


前の彼女にフラれた理由は背の低さの他に優しさが足りなかったからなので『すごく不細工な人』に『少しだけ不細工だね』と言えるくらい優しくなる魔法をかけた。


幼稚園児の頃にテレビが全部生放送だと思っていたのにテレビで見た人をすぐに近所で見かけてしまい、人は分身できるのかと本気で思ってしまったことがあったが今の僕がモテないなんて『分身すること』くらいありえない。


その近所で見かけた芸能人がただのそっくりさんだったということは誰にも言わずに秘密にしておく。


女子が好きなものといえばハダカデバネズミとカバディとパンケーキと占いなので僕は魔法を使って女性の未来を占ってモテようと思う。


自分の恋愛に関する魔法は使えないので僕の恋愛は占えないけど、その他大勢の過去と未来と現在が何もかも分かってしまう占いを僕はすることが出来る。


ショッピングセンターの片隅ではなくショッピングセンターの近くのビルで占い師を始めたが『三連単の神様』と呼ばれている僕のおじいちゃんの競馬予想以上に当たるのに客が全然来なかった。


でも始めてかなりの時間が経った時、小場さんというオバサンが『オーバーさんじゅう』の娘を連れてやってきた。


「娘に彼氏は出来ますか?」


僕は彼女を作るために占いを始めた占い師で、略していうと『彼女作るため占い始めた占い師』なのだが母親の前で娘を口説くことは出来ないので普通に占った。


「職場の同僚に今年中に告白されますよ」


イスに放置された腹話術人形のような娘の前で母親はスポーツの試合に勝った時のような豪快なガッツポーズをした。


僕が一人で占いをしている空間にいた人の中にその娘の喋る姿を見たことがある人は母親以外に誰一人いなかった。


占いが終わり親子は帰って今度は僕が何年か前に用無しだと言われた洋梨のようなシルエットのおじさんに似ている男性が来た。


客が女性ではなかったのでテンションは世界一高低差があるジェットコースターくらい急降下した。


「『ラッキー運』を占ってください」


ラッキー運という言葉を今までに二度しか聞いたことがなかったので意味は分からなかったが占ってみた。


「あなたが『何食べたおじさん』に前日の夜に何を食べたのか聞かれることが減ります」


僕が占いの結果を言うと洋梨おじさんは上京してきた沖縄出身の人に離島と本島のどっちに住んでいたのかを聞くみたいな感じでこう聞いてきた。


「本当ですか?」


「本当です」と僕が言うと洋梨おじさんはニコニコニコニコニコニコニコニコしてすごく喜んでいた。


山手線で1駅なのに間違えて逆回りに乗ってしまい乗り換えずにそのまま一周したくらい面倒くさがりな僕も昔の職場にいた『何食べたおじさん』に前日の夕食を聞かれなくなった時は嬉しかったのでニコニコするのも分かる。


そして長い長い1秒の沈黙の後、短い言葉で洋梨おじさんがこう言ってきた。


「その腕時計カッコいいですね。僕この時計ずっと欲しかったんですよ。いくら払ったら売ってくれますか?」


僕がしている安っぽい腕時計に食いついてくるのは昔、友達の家に行った時にいた何でも食べちゃう犬とこのおじさんくらいだ。


今、流行りの『装飾男子』の僕は両手首、両足首に計4つの腕時計をつけているが売りたくない。


でも『占い師の僕に「売らないし!」と言わせる遊び』をしているところなのかもしれないので「売らないし」とは言わずに話を変えた。


「ラッキーカラーを言いますね」


「ニワトリですか?ダチョウですか?」


おじさんは『ラッキーカラー』を『ラッキー殻』と間違えていたがそんな間違いをする人なんて、頭頂部の毛を自分で剃って「僕、ハゲちゃいました」とハゲ自慢をしてくる人くらい少ないと思う。


もし僕が『ラッキー殻はダチョウの卵です』と言ったとしたらどこでダチョウの卵を取り寄せるのだろうか。


「今日のラッキーカラーはウグイスです」


「分かりました」


占いが終わり、おじさんは帰っていったがこのままでは林の中にウグイスの卵の殻を探しに行き兼ねないので『ウグイス色』と言わずに『ウグイス』と言ってしまったことをすごい少しだけ後悔した。


少し経って『ミス・テリアス』というミスコンテストがあったら2位くらいになりそうなミステリアスで綺麗な女性が客としてやってきた。


客の女性は冬野香織ちゃんという名前だったが冬によく食べる石焼き芋みたいないい香りは全然しなかった。


すると自称人間の冬野香織ちゃんはこんな的外れなことを言ってきた。


「あくまでも個人的な考えですけど占いって当らないですよね」


冬野香織ちゃんが『あくまでも』と言ったのか『悪魔・デーモン』と言ったのかは定かではないが僕の占いは当たるのだ。


「冬野香織さんは暇潰しにスチール缶潰しを頻繁にしますね」


「合っています」


『おはようございます』と挨拶された時に『おはようございます』と返さずに『ウン』と返していた時期が僕にはあったが冬野香織ちゃんの今の表情は僕が『おはようございます』に『ウン』と返した時のみんなの表情に似ている。


中学生の時に友達とテレビ番組の話になって「テレビ壊れたから見てない」と言ったら友達に「嘘をつくな」と言われて信じてくれなかったように冬野香織ちゃんも信じていないかもしれないのでもう一回占った。


「お母さんにキャラ弁を作ってと言ったらキャラメルが敷き詰めてある弁当だったことがありますね」


「すごい。二年前に逮捕されたストーカーの男でさえも知らない情報ですよ」


テレビで僕の好きな女優が言っていた好きな男性のタイプが僕そのものだった時の僕みたいに冬野香織ちゃんは笑顔だった。


笑顔の理由は『何でも分かってしまう占い師に出会ったから』なのか『実は今こっそりと携帯音楽プレイヤーで落語を聞いているから』なのか分からないがどっちでもいい。


そして前世が『50年間、味噌汁かけご飯だけを食べて生活した人』だった冬野香織ちゃんが僕にこう言ってきた。


「これからの運勢を占ってください」


会ってから少ししか経っていないが僕が冬野香織ちゃんを好きな気持ちはコップ満タンを100パーセントだとするとジュースを注いでいる時に考え事をしていてコップからジュースがかなり溢れてしまった時くらいの150パーセントだ。


一番嫌われることは回文でいうと『くどくど口説く』ことなので『くどくど口説くことはダメ、くどくど口説くことはダメ』と自分に言い聞かせて、くどくど口説くことなく口説くことにする。


「あなたは僕と結婚する運命です」


自分に関わる恋は占えないので、もちろんこれは嘘だが僕は沖縄に旅行していないのに行ってきたと嘘ついて近所で買った『ちんすこう』を友達に渡すような嘘つきではない。


「本当ですか?嬉しいです」


生卵をテーブルに打ちつけてヒビを入れようとしたが力が強かったのか割れすぎてしまい卵の白身が全部テーブルに出てしまった時くらい予想外の反応を冬野香織ちゃんがした。


「私と付き合ってくれますか?」


まさか冬野香織ちゃんの方から告白してくるなんて思わなかったので中学生の頃お札のシワを伸ばそうと思って分厚い漫画雑誌に挟んでいたのにそれを忘れて「何で財布にお札がないんだ」とかなり慌てた時と同じくらい慌てたが僕はもちろんこう言った。


「付き合いましょう」


『あなたは僕と結婚する運命です』という僕の占いが嘘であることと新潟県の形が本州に似ていることを冬野香織ちゃんは知らない。

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