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青みがかった黄色いピンク  作者: 高嶋ともつぐ
第一章 安西幸之助
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#01 困難がストーカーのように付きまとう

上空3000メートルを飛行中のヘリからパラシュート無しで放り出されたくらいの絶望に僕は陥った。


そうなったのは全部リストラクチャリングのせいだ。


ちなみにリストラクチャリングとは会社をクビになることである。


「久慈君。あなたには会社を辞めてもらいます」


そう言われたがそれに返す言葉たちは部屋に閉じこもっていてなかなか出てきてくれなかった。


頭が真っ白でお先真っ暗で顔は真っ青になった。


蟻ほどは働いていないがナマケモノほどだらけてもいなかったのでリストラクチャリングを受け入れられなかった。


でも学生の時に授業で『賢い』という字を『かしこい』ではなくて『かたい』と読んでしまったので馬鹿であることは認める。


リストラクチャリングとはもう二度と会いたくないので縁を切ることにする。


名前が長いのでこれからはリストラクチャリングをリストラと略すことにする。


クビというものは人を抜け殻にしてしまう。


僕はクビになってからは夜に寝られなくなってしまった。


日中に十分なほど寝られているが原因はストレスだと思う。


そして落ち込みすぎて大嫌いなトマトも喉を通らなくなった。


そんな時に友達の経営する会社に誘われた。


「久慈ちゃん。うちの会社に来ないか」


「本当か?是非お願いするよ」


空に放り出されたが落ちた場所が森林で木が衝撃を吸収して助かったくらいの奇跡が起きた。


嬉しすぎて僕の心は何回もジャンプしたりガッツポーズをしたりしているようだった。


これで自分の部屋の壁を一日の4分の3見つめる生活から4分の1しか見つめない普通の生活に戻れるだろうと思っていた。


しかし初めての仕事の直前に『普通の生活様』は僕を置き去りにしてお逃げになってしまった。


なぜかというと悪の組織が胃に住み着いていることが分かったのだ。


「久慈さん。あなたの胃にガンが見つかりました」


「そんな……」


これが制限時間10分のかくれんぼだったら9分50秒で見つけたようなものだ。


僕は病気のせいで会社は辞めざるを得なかった。


木の上に落ちて助かったと思っていたら猛獣が現れて囲まれたくらい運がなかった。


僕はまさに鉛筆で紙に描かれた人間。


ガンという消しゴムでそのうち消される運命なのだ。


僕の人生は長い長い滑り台でずっと下降し続けている。


良いところがあまりない僕に幸せは近寄って来ない。


僕の良いところは四つ葉のクローバーより見つけ出すのが大変だ。


ダメなところは鳥取砂丘の砂の数ほどある。


それは病弱で馬鹿で貧乏で性格が悪くて不細工で背が低くて手の小指が異常なほど短いところなどだ。


お金は野球チームが野口さんだけでギリギリ組めるくらいしかない。


顔はブルドッグをさらに不細工にした感じ。


性格はドーベルマンとライオンを足して1で割ったみたいで相手にたまに噛みつく。


身長は高校の時に同級生と並んだら薬指と小指くらい違った。


小指が異常なほど短い僕なのでみんなが想像しているより1.1倍くらい背の差がある。


こんな取り柄のない僕がいなくなっても誰も目から温かい汁を出さないに決まっている。


今は40歳だが日本発天国経由地獄行きの列車に乗る日は近い。


余命は半年なので連続ドラマが2クールも楽しめる。


でも悪化したら俳優の圧巻の演技を見られずそのまま生きることからあっかんべーされるだろう。


猛獣に囲まれたら誰もが諦めてしまうと思うがそれと同じで僕は病気が治らないだろうと諦めていた。


そんな時に入院生活史上初の身内以外の訪問者がやって来た。


それは元同僚で元やせ形で元子供の宇野真帆さんである。


宇野真帆さんはブタとウーパールーパーを足してウーパールーパーを引いたような顔をしている。


「久慈さん。久し振りですね」


「えっ、そ、そうだね。別に来なくて良かったんだけどね」


いつも厚化粧の宇野真帆さんがすっぴんだったので僕は驚いて22度見した。


化粧禁止法でも出来たのかと思ってしまうくらいすっぴんでいることは珍しかった。


宇野真帆さんはこの世界が始まってから初めての僕・久慈雅人の女友達である。


僕が会社を辞める時に唯一お粥のような優しい言葉をかけてくれたのが独身で一度しか彼氏がいたことがない宇野真帆さんだった。


「運が悪かっただけですよ。頑張っているの私には伝わっていましたよ。相談は何でも乗りますからね」という言葉をかけてくれた。


優しいが少しお節介なおばさんというイメージが宇野真帆さんにはある。


僕は宇野真帆さんが大好きでも好きでも嫌いでも大嫌いでもない。


極々極々普通の気持ちだ。


いつも宇野真帆さんはライオンが獲物を狙っている目で僕を見ているので僕が好きなんだと思う。


宇野真帆さんには何でも話せるので僕は弱音という受け止められないようなボールを投げつけた。


「僕はもうダメだ。このまま死ぬのを待つよ」


そう僕が言うと真珠のネックレスをしたブタ顔の宇野真帆さんがゆっくりと喋り始めた。


「シマウマではなくてライオンになってみてください」


「ライオン?」


最初はスワヒリ語を聞いたときと同じで意味が理解できなかった。


でも説明を聞いて友達に進められた砂糖を入れて納豆を食う方法を試した時くらい納得した。


「久慈さんの病気が治る可能性は0ではないはず。


ならばシマウマのように逃げていないでライオンのように立ち向かってください。


挑戦する権利があるなら挑戦しない理由なんてないですよ」


宇野真帆さんは52歳のおばさんということもあってなかなかいいことを言う。


もし日本インプレッション大賞があったら最優秀名言賞を受賞するだろう。


話を聞いていたら涙が頬を流れて川ができた。


何かに感動したのではなくてあくびをしたことで出たあくび汁である。


僕はあくびを隠すために布団を被ることも考えたが必死で寝ている向きを変えた。


僕は宇野真帆さんに後ろ向きだが宇野真帆さんの言葉で前向きになった。


「泣かないでください」


そう宇野真帆さんに言われたが涙のわけがあくびだということは鼻が裂けても唇が割れても言えない。


宇野真帆さんの言葉の通りにやれることはやれるだけやって、その結果『やったやった』と喜んでやりたい。


僕を囲んできた猛獣をやっつけてくれる救世主は果たして現れるのだろうか。

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