表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ワンライ投稿作品

約束された未来

作者: yokosa

第110回フリーワンライ

お題:

一口だけ

本当は知ってた


フリーワンライ企画概要

http://privatter.net/p/271257

#深夜の真剣文字書き60分一本勝負

 本当は知っていた。上手い話なんて、あるわけないことを……


 *


「なあ、一口乗らないか? いい話があるんだ」

 十年振りに会った男が、いきなりそう切り出した。

 男は大学時代の友人、佐木だ。悪い男ではなかったはずだが、当時はしたたかさというか抜け目なさがあった。今の佐木はすっかり頭部も後退し、表情からは卑屈さが感じられた。

 突然佐木に呼び出された加茂は、そうでなくても少し構えていたが、警戒レベルを一つ上げた。下積みを終えてようやく独立したのだ。なるべくなら怪しいことには関わりたくなかった。

「悪いが俺は」

「まあまあまあまあ」

 断って席を立とうとする加茂の肩を佐木は押さえた。オープンテラスのテーブルの向かいに座っていた佐木が、そのまま中腰になって隣の席に移動するる。

「話だけ。な? 減るもんじゃなし。頼むよー」

 開業準備期間で今は暇と言えば暇だった。哀れを誘う佐木の物言いには、無下に断るのも憚られた。

 我が意を得たりと、佐木は使い古した鞄から妙な物を取り出した。木製の細工の真ん中に水晶がはめ込まれている。恐らくは天然ものではなくガラス玉だろうが。

「まず聞いてくれ。こいつは未来が見えるアイテムでな――とある爺さんから買い取ったんだが――おかげですかんぴんだ。着るものまでほとんど売った。まともなのは今着てるこれだけだ」

 そう言われると、加茂は急に酸っぱいにおいが鼻先をかすめた気がした。

「俺が事業で成功するのは未来視ではっきり見えたんだ。だがさっきも言ったように、元手がない。そこで資金援助を頼みたい」

 そら来た。加茂は今度こそ渋面を作った。何を言うかと思えば、未来が見える? そんな馬鹿な話。

 あのしたたかだった佐木がここまで落ちぶれたかと思うと、些か寂しく感じた。

「そんなこと言われてもな」

「信じられないか? そうかもな。お前も使ってみろ。必ず俺の成功した姿が見える。な?」

 言いながら佐木はガラクタを加茂に差し出す。佐木のその目は狂的な色を帯びていた。

 加茂は――

 佐木を突っぱねた。体を乗り出していた佐木が、ガラクタを取り落としかける。彼は慌てて保持しようとするが、かえってそのせいでバランスを崩し、佐木は椅子ごと転倒した。

「いらない。やらない。もう声をかけないでくれ。迷惑だ」

 きっぱり告げ、二人分の会計を置いて立ち去った。

 悲しくはあるが、正しい判断だ。佐木の様子は普通じゃなかった。十年前の友人は、もういなくなった。そう思うことにした。

(あんな胡散臭い話、誰が乗るものか。やっと独立出来たんだ。俺は地味でも着実に稼ぐんだ)

 ……正しい判断だ、とその時は思った。

 しばらくすると、加茂の事業は軌道に乗る前にあっさり頓挫した。加茂は失敗し、全てを失ってしまった。地位も、家財も、何もかも。

 着の身着のままの、その日暮らしに身を落とすことになった。

「おい、ひょっとして加茂じゃないか? 久しぶりだな」

 すっかり落ちぶれ、髪は伸び放題、垢だらけで浅黒くなった加茂を見分けたのは、誰あろう喧嘩別れして以来の佐木だった。

 そこは奇しくも、あの時に二人で入ったオープンテラス・カフェの前だった。

 あの時くたびれたスーツ姿だった佐木は、ピカピカの高級服に身を包んでいた。佐木は一発逆転に成功したのだ。

(未来視は本当だったんだ。それに引き替え、俺は、堅実だと思った道を行って失敗した……)

 加茂は全身の力が抜けて、テラスの手すりに崩れ落ちた。

 ――おい、おい。

「おい、加茂、大丈夫か?」

 体を揺すられて、加茂は辺りを見回した。加茂はテラスの椅子に座ったまま、手すりに寄りかかっていた。

 我に返って体を改める。彼は吊るしの三つ揃いを来ていた。少なくともボロをまとっているわけではなかった。佐木の姿も高級服ではなく、“あの時”のまま、くたびれたスーツだった。

「い、今のは? 俺はいったい」

「……ははあ。見たんだろ、未来を。どうだった?」

「お前は成功していたよ……」

「そうだろ? でもその様子じゃ、どうやら見たくないものを見たらしいな」

 佐木の一言で、落ちぶれた未来の姿がフラッシュバックした。加茂は急いで佐木に向き直る。

「乗るよ、乗る。俺も一口乗る」

「一口? そんなけちくさいこと言うなよ。男だろ。ばーっと賭けろよ。成功は約束されてるんだぜ」

「わかった。まとまった金を用意する。次に会う時でいいか?」


「勿論、待ってるぜ」

 佐木はウィンクして加茂を見送った。まったく上手く行った。

 先ほどまで大事そうにしていた木細工を、無造作に鞄に放り込んだ。もう用済みだ。未来の見えるアイテムなどと言ったが、嘘っぱちだった。

 ただ、まんざら偽物というわけでもなかった。

 実は木細工は未来視の出来るアイテムではなく、対象に幻を見せるアイテムだった。暗示をかけ、使用者の思うとおりの幻を見せる代物だ。未来で成功する佐木と、零落する加茂の姿を、意識誘導して体験させたのだ。

 幻視アイテムは大枚をはたいて老人から買い上げたが、その甲斐あって大儲けは確実になった。家財も何もかもなくしたが、これから全て買い戻せる。

 佐木は漏れそうになる笑いを堪えきれず、「いひひひ」と笑った。ついには大声を出して笑い始め、勢いをつけすぎて椅子ごと倒れてしまった。


 佐木倒れた拍子に、は派手に体を打ち付けた。手すりを支えになんとか痛む体で起き上がる。

「おい、ひょっとして佐木じゃないか? 久しぶりだな」

 そう声をかけてきたのは、テラスの向こうに座る加茂だった。先ほど会った時とは打って変わって、品のいい高級ブランドで身なりを固めている。

 道路側から手すりに身を預ける佐木は、元の姿も想像出来ないほどボロボロの姿だった。何も持っていない。あの木細工も。

 幻を見せるアイテムが、幻のように消えていた。



『約束された未来』了

 使ってると思ったら使われていた。何を言ってるかわからねーと思うがうんぬん。

 ……やー、こっち更新するのは随分久しぶりな気がしますね。幻の見えるアイテムを俺も使ったのかも知れない。

 いや、すいません。最近ずっと週末は友人と進化するモンスターを追いかけたり、第一次大戦の戦場を駆けたりして、サボってました。

 あ、でも、まったく書いてなかったわけではないです。よそで何本か投稿してました。良かったらプラフィールにあるURL先サイトの方もよろしくお願いします。げへげへ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ