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ナナシは鍵開けを覚えるらしい。

「ルナ、しっかり教わってないのに出来ると思ってるの?」


 アジト内にある新人を育成する迷路で絶賛鍵開けに挑戦中。


「……ルゥは出来る」


 ルナは自分が出来ることは他人も出来るという考え方の人物だということがここ数日一緒に過ごして知っている。


 と同時に彼女が自分が出来ないことも他人なら出来ると思っている。


 つまり他人なら何でも出来る。


 出来ないことがない、そんな風に思っている。


 そのためか、いやそれは関係ない。彼女は絶対に指導係なんてものにしていい人物ではない。これは断言できる。


 生まれたばかりの人間にこれ出来るだろみたいな、ノリでいろいろと押し付けてくる。本当に困った。


「……お腹空いた」


「向こうで食べてきなさい、それまでに開けておくから」


「わかった」


 と言いつつも鍵開けが成功する補償はない。


 よくロックピックをカチャカチャやって開けているイメージがあるのだが、実際にやってみると奥が深いというか難しいというか。ロックピックから伝わる感覚が徐々にではあるが、それでもはっきりと感じ内部の構造が見えるような錯覚を感じ始めた頃。


 日数にしてほぼ一年は使っていたような気もする。


「実際は半年くらいかな……」


 そんな言葉を漏らしながらも誰に教えられるわけでもなく、ただひたすらに鍵開けの技術だけを身に着ける半年間。


 雨も日も風の日も指先が凍るような極寒の日もただひたすらに鍵開けを身に着ける努力をした。


 それはもう……



 実際にところルナが当てにならないため同じように新人教育をしていたラウさんの指導を盗み見ていた。


「アイカ、鍵開けのコツは音を聞くことだ。解錠できそうな場合は若干音が違うからそれを意識してやってみな」


 なんてことを言っていたのでやってみた。針金が折れないように気を付けながら角度を何度も変え挑戦していると鍵が開くであろう場所は力を入れずともいとも簡単に鍵が開いた。


 ラウが言っていた音がどうとかというのはやってみたらよくわかった。歯車がかみ合うというのだろうか鍵を開けられる角度で差し込んだとき僅かだがカチッと本当に僅か、そんな音が聞こえた。


 全神経を研ぎ澄まさないと聞こえないくらい本当に小さな音だった。


「……ナナシ、出来た?」


「出来ましたよ、ほら」


「……合格?」


「だから何で疑問形なんですか……というか合格かどうか聞かれても判断するの、僕にはできませんよ。まったく」


「……メロウに頼む?」


 ナナシはそうしてくれとお願いすると全神経を集中させ、鍵開けをしたせいで物凄く疲れていた。一目を閉じれば一瞬で眠りに誘われるくらいには疲れていた。



「やあ、ナナシ君。また会ったね」


 眠気に襲われ眠ってしまっていたのだが、どこかで聞いたことがある声で目を覚ます。あたりの様子を確認すると今まで鍵開けの練習をしていたアジトではなく生活感の感じない部屋というか空間だった。


「……神様?」


「そうそう、神様。よく覚えていたね、というか覚えていて当然だよね。それだけ珍しい体験だからそう簡単に忘れられるはずもないよ。それにもし忘れていたらショックだね。わたし様は悲しくなってしまうだろうね。それはもうフラれた想い人が実は自分の親友といい感じだっていうくらいショックだね」


「その例えは嫌過ぎるのでやめてください」


「そうかい?わたし様的には分かりやすくしてみたつもりだけど気に入らないのかい?ま、いいよ。それは気にしない。あ、そうそうナナシ君に伝えることがあったんだ。君が元いた世界でまた一人ナナシ君が今いる世界に流れてったよ。ちなみにそっちに呼んだのはわたし様じゃないからね。これは事故だよ、突発的な事故ってやつさ」


「……それで僕はどうしたら?」


 神様はくるりと回る。


「別に何もしなくていいさ。その子を助けるも助けないも君次第さ。それに君は救世主じゃあない。だからさ、別に見て見ぬ振りをしてもいいさ。それは自由。わたし様的にもあまりお勧めできない救出になるからね」


 またくるりと回る。


 すると、一枚の紙がナナシの前に落ちてきた。


「……これはっ!」


「おっと、個人情報見ちゃいけないよ。ナナシ君」


 すぐにある人物の情報が書かれた紙を目の前の少女に取られてしまう。


「……彼女はどこにいるんです?」


「どこにもいないよ、まだね。彼女は半年後、君のいる世界に生まれるだろうね、記憶を引き継いだままね。つまり転生ってやつだよ。場所はわたし様の力でも分からないね、生まれてしまえば場所の特定は容易だよ、なんせ神様だからね。紙に書かれてことは全部これから彼女に起こることだよ。それは変わらない、運命ってやつだからね」


 ナナシは拳を強く握りしめた。爪が掌に食い込むほど強く。


「君の記憶はあの衝撃のせいで不完全だろ?なんでそんな風に、泣いているんだい?」


 ナナシはいつの間にか涙を流していた。


「死ぬ前にただ一人僕を好いてくれた彼女だからです」


 顔も名前も思い出せない。ただいたという記憶だけが残っている、そんな状況でも。かつて自分を好いてくれた人間がこちら側に来ているのにこれから起こることに巻き込まれるならそれだけは。


「それだけは絶対に阻止したい」


「不思議だね、彼女はたぶん君の記憶はないよ。それに自分の関する記憶、両親、友人、主に人間関係に関する記憶が消去されている。君が彼女と会ってもたぶん彼女は気付かないだろうし、それでもこれから起こるであろう『これ』に君は自ら関わろうっていうのかい?」


「神様、僕はやらないで後悔するよりもやって後悔します」


「なら、わたし様が言うことはないさ。そうだ、これから『あれ』に関わるなら君に餞別をあげるよ。別に大したものじゃないよ、予言をあげる」


 ナナシはその言葉に耳を傾ける。


「今から約一年後、ホークブロットを目指すといいよ。きっと面白い出会いがあるから」


「ホークなんちゃらって場所のこと分からないですけど……」


「それは君が調べることじゃないか、何でも教えたらためにならないでしょ。君は君に指導してくれている人にも言われていたよね。手取り足取りは流行らないからね。厳しくしないと人生つまらないじゃないか、ってね。君も覚えておくといいよ、異世界に旅立つ人たちの多くが強くてニューゲームを望む中、自分で調べて学んで覚えると言い切った偉大な先人がいたんだよ!」


「はぁ……そうですか」


 ちゃんと聞かないとダメだよとかなんかといいながら校長先生の話を思わせるようなローグトークが続いたとか続かないとか。


いつも読んでくださってありがとうございます。

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