人は盗賊に会うらしい。
一作品目と違って量が多めで疲れる。
自称神は落ちていく少年を見ながらくるりと一回転をする。
「何やらご機嫌ですね、神様」
「そうだね、そうだよ。わたし様はご機嫌だよ、それは見れば分かることだし、いちいち口にするようなことでもないよね、君」
ゴスロリチックな少女、自称神の隣に清楚系のメイドの姿がある。
「生まれて数千年程度の君には分からないかもしれないけど、あえて言うよ。わたし様はとても退屈なんだよ。退屈しのぎに人間で遊んでもいいじゃないか。君もあれだよ、遊んでみるといいよ。退屈だと背が縮むからね」
「退屈だと縮むものなのですか??」
「そりゃあ、縮むだろうさ。そうじゃなきゃ、わたし様がグラマスな生き物になっているはずだからね」
全く似合っていないお色気ポーズに苦笑しながらメイドは尋ねる。
「どうしてあの少年なのです?」
「どうしてってたまたまさ。理由はないよ、こればかりは運が悪かったとしか言いようがないね。どこかのつまらない神様みたいに招待状送ったり、自分勝手に殺したりしないからね、わたし様は」
楽しそうにくるりと回る。
「でもね、これは間違ってはいけないよ。わたし様は、というよりは神ってやつはみんな暇だからね、不確定要素っていうのが大好きなのさ。村人Aが勇者コテンパンにしたら面白いだろ、そういうやつさ。約束された将来ってつまらないって思わないかい?」
「それはわかりかねますが」
「君らって人生楽しんでなさそうだよね、まあ、どうでもいいよ君らは」
ため息をつきながらも今送り込んだ少年の様子を確認することにした。その顔は新しいおもちゃを手入れた子供のように輝いていた。
───
「う、また落ちるって」
気が付くと周囲はどこまでも続いていそうなほど遠くまで見える。都会育ちの少年からしてみれば初めてみる光景だった。
「それにしても広い。というか広すぎる……テンプレだと近くの町を探すんだよな。それでギルドとやらで仕事をもらう」
頭を掻きながら周囲を見渡すが、どうにも人がいるようには思えなかった。
「それにしても不親切だ。初期装備くらいくれてもバチは当たらないだろうに……現代っ子がどうしろと?」
少年は体を起こして、軽くストレッチをする。どこにも異常がないことを確認すると近くに落ちていた木の棒を拾い上げる。
「さてさて、神頼みでいこう。でも、神ってあれだよな」
先ほどまで一緒にいた自称神を名乗るゴスロリのことを思い出し、頼りがいがないなどやや失礼なことをつぶやきながら木の棒を倒す。
古来より人は道を決めるとき棒倒しで道を決めたという言い伝えがある。
少年もそれに準ずることにした。
と思ったのだが。
「……倒れないだと。あれか、神さんのこと頼りないとか思ったのがいけなかったのか。これはどうしろと?天に召されろと?」
少年が木の棒を空に向かって投げ木の枝がついている方向に向かって歩こうと決め、勢いよく投げたのだが、それは真っ直ぐ地面に突き刺さり木の枝がついている方は天を向いている。
「仕方ない。現状目の前にはそれなりに踏み固められた道がある。……コイントスで決めるか」
と思い財布に手を伸ばすのだが、それはあるはずもない。一文無しってやつだ。
「僕にどうしろと?」
当然、誰も答えてくれるはずもなく某金髪の鎖使いの理論に従い右へ行くことにした。
「未知の道を選ぶとき無意識に左を選ぶらしいから……右へ行けば安全と」
書物は偉大であると内心思いながら数十分歩く。道なりに歩く。
しばらく歩いているとどこからともなく悲鳴が聞こえる。条件反射で悲鳴が聞こえた雑木林の中へと駆けていく。
そこにはテンプレが……。
「おまえたち、あの商人から商品を奪いな!」
「姉貴、最高に輝いてるよ!!」
「姐さんに続けぇ!!」
盗賊っぽいけど、あれ?
少年の目の前には女性だけで構成された露出多めの集団が若い長身の男と屈強そうな男の二人組を襲っていた。
「……これは、どういう状況?」
木の陰からその様子を窺っていると女性集団の一人がこちらに気付いた。
「こっちにも商人の仲間がいるぞ!!」
女性の叫びにその近くにいた何人かが反応する。
「逃がすな。貴重な男だ」
姐さんと呼ばれていたスタイルのいい女性がそう告げる。ただ、一つだけ問題があった。何が問題であったかというと彼女らの言葉が分からなかったのだ。
少年からしてみれば彼女らの言葉は外国語。全く理解出来ていなかった。
「ボクカンケイナイヨ」
当然、日本語しか話せない少年が多少似非外国人風に喋ったところで通じるはずもなく、なすすべなく捕まってしまった。
「あの、お姉さん?僕美味しくないよ。食べても栄養にならないと思うよ」
日本語で話しをしている少年の言葉は当然、彼女らに伝わるはずもない。というより珍しいものを見るような顔をすると大声で何かを叫んだ。
「姐さん!!珍しい男です」
「ラウはいつも適当だから、本当に面白いの?」
ケラケラと笑う女性に、無言で少年を見る女性。
「面白いというか、知らない言葉を話します」
「わたしは荷台だけが欲しかったんだけど?ま、いいよ。『それ』もアジトに持っていこう」
荒縄で結構きつめに少年の身体を締め付けるとそのまま担ぐ。
「あの、お姉さん。きれいなお姉さん、聞いてます?なんで、亀甲縛りなんです?僕そんな趣味はありませんよ、というかMじゃないですよ。Sでもないですけど」
言葉が通じないことは確認していたが、身振りや手振りでも伝わることがあるのではと少年は必至にアピールをする。でもその光景は最悪なものだった。
想像してみてほしい。ビジュアルそこそこの男か亀甲縛りで叫んでいるのだ、というか喚き散らしているのだ。
到底勝ち組とか勝ち誇っていた人間には思えない。こんなやつが勝ち組な世界は間違っている。
そんな世界を作った神が……いえ、なんでもないです。
「『それ』うるさいね、黙らせておいて」
「「はい、姐さん」」
手下であろう女性たちが剣のようなものをちらつかせると、少年の意識はあっという間にシャットダウンした。
───
「あの子、ほんと面白いね。いいね、いいね。最高だよ。これ以上ないってくらいに最高だよ。何年か前の勇者なんて『ぼくは世界を救う』とか粋がっちゃって何の面白みもない勇者ぽいやつだったけど、彼はいいね。いかにも量産型って雰囲気がなんといえないね」
「神様、仕事しながらお菓子を食べないでください」
モニターの前でケラケラと笑う自称神のゴスロリに形式上の注意を促す。
「君も息抜きに彼を見るといいよ、あの子は運はよくないけど、悪運はいいからね。きっと前世が全うじゃない証拠だね、わたし様的には面白いから問題ないけど、きっと神でも怒らせたんだよ、くくくっ。男の子はちょっと抜けている方が可愛いからね、君もそうは思わないかい?メイドちゃん」
「そうでしょうか、あの男はただのケダモノです」
「きついね、厳しいね、辛辣だね。でもね、メイドちゃん。きっと君はあれだ。ちょっとでもかっこいいところ見るところりと堕ちちゃうちょろいんだと思うんだ、わたし様は」
メイドは冷たい眼差しでモニターに映るただいま連行中の少年を見ながら、
「あり得ませんね」
断言した。
いつも読んでくださってありがとうございます。