(9)
「そう言えば今日初めて早く学校に来たら
テニス部が朝練しててさー
啓太郎のやつ上条先輩に怒られてた!」
話題を反らすように真希奈は雫に話し始めた。
その目は動揺を物語っている。
雫はそれも見逃さない。
「真希奈…」
雫が真希奈に問い詰めようとしたその時、
よく通る声が教室中に響き渡る。
「藤ヶ崎おはよう!今日も早いな〜」
テニス部の朝練を終えた啓太郎が雫に声をかける。
啓太郎こと篠塚啓太郎は
真希奈の幼馴染である。家も近く、真希奈とは
家族ぐるみで仲が良い。中学時代からテニス部
で活躍し、高校でも男子テニス部に所属している。
「ぉ、おはようございます。」
雫は珍しく恥ずかしそうに返事をする。
(いつもならハキハキ話すのにな)
真希奈は心配そうに雫を見ている。
「真希奈!?何でこんなに早く
教室にいるんだ…?」
啓太郎は遅刻魔の真希奈が
すでに着席していることに心底驚いている。
「私が早めに来ることがそんなに珍しい
からって啓太郎は朝からうるさいなぁ…」
真希奈は大声な上によく通る声で
話す啓太郎に疲れた様子で返事をしている。
「また好きな人でも出来たんだろー?
(どうせフラれるのに)」
「小声でどうせフラれるとか言うな!!
モテない啓太郎に言われたくない!」
啓太郎と真希奈は顔を突き合わすと、雫が
入る隙もない早さで言い合いを始める。
「真希奈よりはモテるから!」
「モテているのに彼女がいない人に
言われる筋合いはない!」
「そ、それは…」
(…お前のことが好きだからだよ!)
口が裂けても言えない言葉を啓太郎は
飲み込む。
「お、お二人とも落ち着いて下さい…
もうすぐHR始まりますよ?」
わずかに出来た隙から雫が2人の間に入り
言い合いを制止させる。
2人はあっという間に黙り込み、
啓太郎は自分の席に着こうとする。
(早起きしたのに…何も良い事なかった…)
真希奈は早起きしたことを早くも後悔し始めた。
机の上に突っ伏し窓の外を眺める。
…がその後悔が吹き飛ぶほどの出来事が
真希奈の身に起こる。