(8)
真希奈は昨夜の出来事が夢ではなく、
現実であることを実感する。
「今日は二度寝しなかったな。」
アラトは真希奈を見ながら感心している。
「アラトが言ったんじゃん。身だしなみに
時間を使ったらどうだ?って。」
真希奈はむすっとしながらもブラシで
セミロングの髪をとかしてゆく。
毛先は外にはねている。このくせは
どんなにとかしても直らない。
(もういいや…)
諦めて学校へ行く支度を始める。
いつものドタバタと階段を下って行く音は
今日は聞こえない。
今日は雨降らないわよね?と母は心配する。
「いってきまーす!」
(いつもは走っているから…なんか変な感じ。)
真希奈が学校までこれほど余裕を持って
向かったのは初めてである。
アラトは真っ白で大きな翼を
小さく折りたたみ、真希奈の横を歩く。
ブロンドのストレートヘアーは、
太陽の光が当たり金色に輝いている。
「今日1日は、真希奈の様子を見ようと思う。
それと仲間も探そうと思う。
さすがにこちらの世界には来ていると思うから。」
アラトは不安な表情など一切せず、いつも通りに
淡々と話す。
「じゃあ一旦失礼するぞ。」
そう言うとたたんでいた翼を一瞬で広げ
あっと言う間に上空まで飛んで行ってしまった。
(はやっ…もう見えないや…)
◇◇◇
真希奈は余裕を持って自分の席に着く。
その光景に周りは驚きを隠せない。
「真希奈…??どうされたの…??」
いつも静かな雫が大声で心配して駆け寄ってくる。
その瞳は今にも泣きそうなくらいに潤んでいる。
「何でもないよ?たまたま早く目が覚めて…」
「昨日から私にキューピッドって?などと
お尋ねになるし…本当に大丈夫…?」
「あーあれは…」
真希奈はとっさに口を紡ぐ。
(危ない…!口が滑りそうになった…アラトに
他人には言うなって散々言われたんだった…)
「…テレビで観たんだ!雫はそういうの
詳しそうだなーって思って!」
真希奈は何とか取り繕った。と思っているが
真希奈は嘘をつくのが超絶に下手である。
雫はそれを見逃さない。