(10)
「すみません、1年x組本城真希奈さんって人
いますかー?」
見知らぬ男子生徒が真希奈を呼び出す。
真希奈は机に突っ伏していたが
急に起き上がりその声の元へ駆け寄る。
その表情は先ほどまでの疲労感はどこへやら、
というような喜びに満ち溢れているものである。
「私が本城真希奈ですが…」
真希奈はドキドキしながら相手の表情を窺う。
「急にごめんね?廊下でこれを拾ってさ。」
相手は鞄から取り出し真希奈に差し出す。
(な、なんだ…告白とかじゃないのか…)
真希奈はがっくり項垂れたものの
相手に差し出された物を見て、目を見開いた。
「これ…私のハンカチだー!
落とした事にも気付かなかった…」
それは真希奈が今日持ってきていた
お気に入りのハンカチだった。
「ハンカチにも名前を書くなんて
几帳面なんだね。」
「これはお気に入りなので…
拾ってくれてありがとうございました!」
真希奈は照れながらも笑顔でお礼を伝える。
「じゃあ、もうすぐHR始まっちゃうから」
相手は軽く手を挙げて去っていく。
真希奈はハンカチを握りしめ、
その後ろ姿を見つめていた。
その様子を雫と啓太郎は
こっそり眺めている。
「あれ…絶対恋に落ちたな…」
啓太郎はまたかと言わんばかりの呆れ顔だ。
「ですわね…今度は実ると
良いのですが…」
雫は不安と期待が入り混じっている、
複雑な表情を見せる。
真希奈はスキップしながら席に戻り
拾ってもらったハンカチを見つめ、
顔を赤らめる。
(早起きして良かった〜!)
真希奈は今日初めて心の底からそう思えた。
…しかし重大な欠点に気付く。
「な、名前…聞き忘れた…」