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一定の距離を保ち各々思い思いの格好で座り込むと、先刻までの苛々も多少なりとも緩和されたようで、言葉に和気が宿る。何かに囲われただけで得られる安堵感。そしてそれを抱く人体の安易さ。限定された領域であれば視野が確保されると言うのも、不思議な話だ。
桜庭はリュックの中から菓子パンをいくつか取り出し、私たちのほうへ勧めた。今更ながら、ここまでの途上の疲弊感と空腹感が一度に襲ってきて、素直な感謝を述べることにした。
「しかし存外冷えるな」
「もう冬も近いからな」野間口は言いながら身体を擦り、暖を取っている。「このまま全員が眠ってしまって、平気だろうか」
室温に反し、手のひらの汗を顔中に塗りたくるように、緩慢に左手で撫ぜてから、
「あれ、やってみるか」
桜庭は誰にともなく声を投げた。
「あれ?」
「あれだよ。四隅にひとりずつ置いて、一定時間ごとに起こして回る。そうすればみんなが寝てしまうってことは無いだろう」