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しばらくして、加美西から帰還の号令が出された。桜庭、泊は揃って名残惜しそうな顔を浮かべたが、それぞれ思い残すことのないよう最後の一押しを済ませると、雰囲気に順応した。
「可笑しいな」
加美西の出したコンパスは、言葉は、目標を定めない。
「方角がわからなくなったのか」
携帯を取り出した野間口はそれが用を成さないことを確認したようで、鼻を引くつかせるとポケットに捩じ込んだ。
「樹海で方角がわからなくなるなんて。都市伝説じゃなかったんですね」
泊は呆けた声音で呆けた感想を漏らす。ついでにと言わんばかりに、また撮影を再開させる。楽観的と言うよりは、馬鹿だ。
「困ったな」桜庭は蓄えたあごひげを擦ると、「写真を撮っているうちにどちらから来たかわからなくなっている」
「定家はどうだ。覚えているか」
声を掛けられるが、返す言葉も無い。
我々はどうも、遭難に陥ったと言うことらしい。