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怪談、ね。私は繰り返したが、誰の耳にも入っている様子はなかった。
それがあったとして、何がどうなると言うのか。私たちが帰れるようになるのか。その視点から見れば、どうだっていい話に違いない。
「怪談、というにはお粗末さ」しかし加美西は期待通りとも言えよう言葉を吐いた。「死者は常に、生きようともがいている。彼らは、身体が死んでしまっただけに過ぎず、精神は今も生き続けているのだからな。実体を持ち、社会的に復活したい。じゃあ彼らには何が必要か?」
加美西の話を聞きながら、あの、首吊り縄の一帯を思い出していた。なぜあれだけの縄が吊るされており、死体が無かったのか。
いや、まさか。そんな、ゾンビ映画でもあるまい。
「こんなところに来る連中は、俺たちみたいに外れたやつか、もっと外れたやつらだ。来ることを誰かに連絡するような、真っ当な人間じゃない。お誂え向きなんだよ。成り代わるには」
「でもその話だと、身体は抜け殻じゃないといけないんですよね」
「お前」泊のほうへ視線が向く。「さっき、どんな気分だった。桜庭に殴りかかったとき。カッとなって、わけわかんなくなっただろ。魔が差した、という言い方でもいい。その、魔、ってやつが、これの正体なんだ。今、首筋を撫ぜる風が入り込むように、ちゃんと囲われたかのような小屋の、ちょっとした隙間。それだけで、入り込めるんだよ」
怪談話に毒されているだけだ。
私は反論を寄越した。これこそ、詭弁だ。真実か嘘かを審議するほど、信じるに値しない下らない方便だ。
加美西はまだ、まだ余裕そうな顔をしている。
「定家、今度はお前か?」




