王都へ帰還
「いてぇーー!」
痛みで目が覚めた。左腕が動かない。骨が折れているかもしれない。
上体を起こして辺りを確認する、周りは真っ暗だった。日時は夜になっているようだ。
「生きている?」
周りを見渡す。魔人の姿は見られなかった。そもそも気を失ってどれくらい経つのかさえ分からない。
なんとか動く右腕で、道具袋から回復薬と傷薬を取り出し。応急処置をする。
もう一度場所を確認する。ここはヘトロス荒野のようだ。周りは魔人と戦って出来たであろう、傷跡が地面に出来ていた。
なんとか立ち上がると、ヘトロス荒野の入り口に向かって歩き出した。奇跡的にも魔物に襲われなかったようだ。
ここにいたら、そのうち襲われてしまうだろう、そう思い歩き出す。
歩きながら、周りに魔物がいないかを確認しながら進む。
正直何も考えられなかった。痛み・裏切り・恐怖いろいろなものが胸の中で渦巻き処理できなかった。
ただ帰らなければと思い。王都に向かって歩いていた。
ヘトロス荒野の入り口に着いたのは夜明けの薄明かりの中だった。
誰もいなかった。陣地がそのまま残っていたが、だが誰もいなかった。水も食料もなかったので、近くの川に行くことにした。
川に行き、水を飲み汚れていた傷口を洗い。治療しなおす。
それが終わると、立ち上がり近くの都市まで歩き出した。
川原からすぐ近くの木にたどり着いたときだ。意識がふっと途切れそうになった。
なんとか踏ん張る。まだここで意識を失うわけには行かない。
まだここは魔物が出るところだ。こんなところで倒れたら。魔物に食い殺されてしまう。
そこからまた都市を目指して歩く。ただ呆然となにも考えず・・・・・
どれくらいたっただろうかやっと都市が見えてきた。
「やっと・・・」
そうして門の前まで歩いて。やっとついたっと思ったときだった。
そのまま意識を失い倒れた。
___________________________________________
気づくとベットで横になっていた。体には包帯が巻かれ手当てを施されていた。
上体をおこし、周りを確認する。病院のようだった。部屋にいくつものベットが置かれていて、ベットには人が横になっていたり、上体を起こしている人がいた。
俺が起き上がるのを見て隣の人が通りを歩いていた。女の人に声をかけていた。
「おーい。倒れていた人、気づいたよ。」
その女の人は起きている俺に気づき、こちらに歩いてきた。
「大丈夫ですか。自分のこと分かりますか?」
「はい。自分のことはちゃんと分かります。」
身体に問題ないか聞かれたのと、記憶がしっかりあるかの確認だろうことをされた。
「では、どうして門の前で倒れていたのですか?あなたの格好を見るに王国兵ですよね?」
「・・・・」
もう軍隊はここ通り過ぎていったはずだなのに魔人がでたことを伝えていない?
俺が着いても平常どおりと言う事はここには魔人が来なかったのだろう。でも魔人がヘトロス荒野に出たことを伝えるべきだった。
他にこの情報を知らずに入る冒険者がいるかも知れないからだ。なのになぜ?
「郊外訓練の軍隊はここ通過して王都に戻ったのですよね?何か聞いていないのですか?」
「特には何も?ヘトロス荒野に行かれるときは寄られたのですが、帰りは素道理で帰っていかれました。特に何も聞いていません。」
「郊外訓練で軍がここに寄ってから何日たっていますか?」
「えっと・・。あの日から9日経ちますが」
だとすると、魔人と遭遇してから6日がたつ、早馬なら王都まで一日で着く。正直に話すことにした。
「ヘトロス荒野に魔人!!しかも一人で戦われたのですか。」
「ええ。援護に来る予定の勇者も一緒に撤退していきましたよ。俺を残して・・・」
その話に、周りから恐怖が伝わってくる。魔人に対する恐怖だろう
「わかりました。すぐに領主様に連絡いたします。起きたばかりで体もつらいと思います。横になっておやすみください。」
そのまま横になり、体を休めた。
話をしただけなのだが、横になってすぐ眠くなり寝てしまった。
さらに次の日の朝、配られた朝食を食べてベットで横になってこれからどうするか考えている。
昨日、声をかけてきた女子がこちらにやってきた。
「お体の具わいはどうですか?」
「おかげさまでだいぶ良くなりました。」
「お体に問題なければ、領主様がお話したいと申しておりまして、よろしければ昨日のお話を詳しくお聞きしたいそうです。」
「分かりました。」
女子に連れられて、領主が待つ部屋に移動した。
「失礼します。」
女子が挨拶して一緒に部屋の中に入る。入ると高そうな服を着た。30前半ぐらいの男性がいた。
「始めまして、領主のケベルと言います。体調がまだお悪い中ご足労頂いて申し訳ない。ただここの領主として、あなたから聞いたことがとても重大だったので直接お話をお伺いしに参りました。」
俺が入ると、挨拶と呼んだ理由を話してきた。
その後、座って俺が異世界人であることと、魔人の話を詳しく説明する。
「やはり、魔人がヘトロス荒野に現れたのですね。昨日のお話を聞いて疑問に思っていたことがいくつか解決しましたよ。ほんとうなら郊外訓練が終わった後も帰りにここテイルに寄ると言われていたので、そのときも夕食会をとお誘いしていました。が、軍はここを素道理で王都に帰還、具体的な説明もありませんでした。ですので、不安に思った私は各都市に馬を走らせ、変わったことがあれば連絡をくれるよう伝報を出しました。そしてそれは王都にも・・・しかしどこからも連絡はありません。そもそも外周都市では魔人・獣人が攻めてきた場合。すぐに王都・各都市に早馬でこのことを伝える義務があります。それなのになんの連絡もない。郊外訓練に行った軍が急いで王都に帰ったので獣人が攻めてきたのかと思いました。だがその連絡もない。昨日のあんたの話を聞いて。冒険者ギルドに依頼して、ヘトロス荒野入り口の調査を依頼しました。結果はあなたの言っていたことを裏付ける内容でした。入り口には郊外訓練を実施するための軍の陣地がそのまま残されていました。訓練ですので王都に引き上げるなら陣地を撤去するはずです。それがそのままになっていた。幸い魔人がこちらに攻めて来る気配がありませんが、軍の守備部隊を一撃で粉砕した魔人です。この都市もそうは持たないでしょう・・・」
領主は俺の話を聞くと、謎は解けたと解説してくれた。
そして、王都に対する疑惑。俺と同じくこの都市も時間稼ぎに見捨てられたと見れる。
「もし、軍から魔人がヘトロス荒野に現れたと聞いたら、この都市の防衛を軍にお願いされると思ったのでしょうね。」
「当たり前です。その為の王都の軍です。もしもの場合、王都から各外周都市に援軍を送ってもらう決まりになっています。こちらとて王都にその分の税を納めています。いざのときに助けてくれないのであれば税を納める必要なんてないのです。」
その通りだった。王都に税を納めている以上、協力していく必要がある。
「魔人・獣人が襲撃してきても、王都から今回のような大規模な軍が援軍で来ることはありません。まず第一に王都から国境の外周都市にすぐ応援がこれないことです。今回も訓練に来られるとき二日かかったと思います。もしすぐ援軍を出してくれても200人規模の小隊です。王都からの理由として、すぐに動かせる規模としてはこれが精一杯だそうです。それと軍事物資ですかね。だいたいは外周都市同士で連係し、防衛の軍を出し合うのです。ですが今回の王都軍の行動はあきらかに、ここテイルを見捨てた行動です。」
早馬で王都まで一日、それから準備して向かうのだ。確かに大規模な軍を援軍に向かわせることは不可能だ。
「近隣の都市にこの事実を連絡し、王都に抗議します。お話有難うございました。おかげでヘトロス荒野に行こうとしていた、冒険者を止めることができました。」
「もし王都に誰か行かれるのであれば、自分も一緒に連れて行ってもらえないでしょうか?さすがにこの状態だと一人では王都に行けないので。」
「まだ王都に移動するなど駄目です。」
俺が王都に帰る意思を示すと、ここに連れ着た女子が反対してきた。
「体力も完全に回付されていません。傷だってまだ塞がったばかりです。あと一週間は安静にしてください。」
「馬車でなら行けるでしょう?すませんが馬車で王都まで乗せていってもらえませんか。運賃が必要なら出します。お願いできませんか?」
「王都に帰らなければいけない理由があるのですか?」
「心配しているかもしれないやつがいるので早く帰ってやりたいのです。」
「分かりました。馬車なら大丈夫でしょう。」
「ですが!」
「体のことは本人が一番分かるはずです。その本人が馬車なら大丈夫といっているのです。これ以上止めることはやめましょう」
「体のこと気にして頂いて有難うございます。ですが馬車なら大丈夫です。座っているだけですし。」
俺の体調を気遣ってくれていた子にお礼を言って部屋から出た。
それから、領主が準備してくれた馬車に乗って王都に帰ることに。
それから二日かけて王都に到着した。到着し王都を見ると1ヶ月以上ぶりな感じがする。魔人との戦闘で死ぬところだったのだ。今回のことで王宮にいることをやめることにしたのだ。報酬の白銀一枚をもらい。王都の町で暮らすことにした。キャメリアさえよければそこでメイドとして働いてくれるように頼もうかと思っている。今回の件で王宮の態度ははっきり分かったのだ。これ以上一緒に行動するのが嫌になった。
やっとのことで王宮の門に到着し、テイルの使者と馬車を降り門に向かった。
「止まれ何のようだ。」
いきなり門の手前で、槍を横にして通せないようにした。
「都市テイルから領主様の預かりし伝報を王様に届けに参りました。」
「俺は騎士団兵のサトウです。俺は分かってますよね?通してください。」
俺を無視して、テイルの使者から伝報を受け取り中身を確認し、使者に話しかけた。
「テイルの使者殿、お疲れ様です。テイルからの早馬の伝え。承っています。誤解があったようですので、こちらに騎士団長ガロ様が説明に来られます。しばしお待ちを。今使者殿が来られたことを伝えに行かせましたので。」
使者に話し終えると、俺を睨んできた。なんだ?
「お前は王宮出入り禁止だ。仲間を見捨てやがって、そのせいでどれだけの負傷者が出たと思っているのだ?」
門兵の言っていることが分からなかった。
「何言ってるかさっぱりわからん。俺が仲間を見捨てた?俺は騎士団長と天野に見捨てられたんだよ。俺が魔人を足止めしている間に俺を見捨てて逃げたのは騎士団長のほうだ!」
あまりの仕打ちに頭にきて怒鳴り返していた。
「なんだその態度は、お前のせいで守備隊にいた。マジュラは重症なんだぞ。お前が軍を混乱させた性でどれだけの負傷者がでたと思っているんだ。それを誤りに着たかと思えばなんだその嘘は。そもそもお前一人で魔人の足止めなど出来る訳がないだろうが。そもそも魔人が出たなんて聞いていない。魔人が出たと嘘を言っているのだろう?恥を知れ!!」
「あ!」
隣にいた使者も門兵の言っていることが間違ってないと思ったのか、俺に疑いを向けてきた。
「それじゃ郊外訓練に行ったやつに聞いてみたらいいじゃないか。郊外訓練に行ったやつらは全員魔人を見ているのだから。」
「郊外訓練に行ったやつらから魔人が出たなんて話は誰も聞いていない。郊外訓練で魔人が出たなら王宮はもちろん、テイルに連絡が行くはずだ。ヘトロス荒野に一番近い都市はテイルだからな。そんな話王宮で耳にしたことがない。」
使者は完全に俺のことを疑いの目で見ていた。
そこからは俺と門兵の言い合いの騒ぎになる。俺は”魔人は出た”と”仲間を見捨てていない”を主張するが分かってもらえず、逆に門兵は”裏切り者”と”嘘つき”で言い合いになった。
門兵と言い合っているとそこに元凶である。騎士団長ガロが現れた。
「何の騒ぎだ。テイルからの使者が着たと聞いてきてみればこの騒ぎはなんだ。」
「指示のありました。元王国兵のサトウが王宮に入ろうとしていまして、しかもヘトロス荒野で魔人を一人で戦い足止めをしたなど嘘を言っていまして。それで騒ぎになってしまいまして。」
門兵から事情を聞いた騎士団長はこちらを見て言ってきた。
「よく王宮に顔を出せたものだ、魔人大陸に住む強力な魔物が出たときお前が大声で叫びながら逃げた性で軍は大混乱におちいったんだぞ。そのせいで負傷者が256名・重傷者38名もでた。幸いに勇者天野が場を落ち着かせ魔物を倒してくれたからよかったものの、天野がなんとかしなければ軍は全滅だったのだぞ。本来ならそれだけ軍に損害を与えたのだ。打ち首のところ。国王様から同じ人間族であることと、今回はレベルの低い者を訓練に参加させたこと、軍の混乱をおさえられなかった私のミスでもある。だから、王宮出入り禁止だけという。王様の温情に感謝するのだな」
「はぁ?」
こうもあっさり嘘を言われ、頭の中が真っ白になってしまった。
「騎士団長ガロ様はお前と違って、重傷者の家に行って謝罪をされているのだぞ。」
「これは軍団総隊長をまかされ、あんな失態をしてしまったせめてもの償いだ。」
「騎士団長!!」
もう絶句だった。
「おい騎士団長、約束の白銀一枚もらおうか。それでこんな王宮こっちから出てってやるよ!」
「お前はなにを言っているのだ。白銀一枚?そんな約束した覚えはないぞ。」
そうだ、俺は魔人と戦っていないことになっているのだ。
魔人と戦う前に約束した内容が”有効”であるわけがなかったのだ。完全にはめられた。
そこに、テイルの使者が話し出した。
「騎士団長ガロ様、今回の件について領主様は大変王都に疑惑を持たれています。確かに今の話は納得できる点はありました。人間が一人で魔人と戦えるはずはありません。おっしゃる通りです。ですが、なぜ強力な魔物を倒された後にヘトロス荒野入り口の陣地もそのまま状態で王都に帰還され、テイルを何の連絡もせず、急ぎ王都に帰還されたのですか?」
この質問に対して平然とガロは
「申し訳ない。やはり訓練と軍に怠慢があったせいだ。質問ついてだが、今回急遽、獣人が襲ってきたと仮定し、急ぎ王都に帰還する訓練を実施したのだ。最後に負傷者も多数出たそれもあり王都に急ぎ帰還することにしたのだ、それで陣地はそのままの状態で帰還した。これから回収班を向かわせる所だ。テイルには伝令をだすはずだったのだが、手違いで伝令が行っていなかったようだ、すまない。」
「ですが、重傷者がいたのなら、テイルで治療されたほうがよかったのではありませんか?」
「王都に急遽帰還する、訓練に切り替えたと言ったはずです。重傷とはいえ王都までは問題ない状態でしたので、それと軍には救護班もいました。こちらの訓練もかねて決断しました。この話を書簡にまとめてあります。こちらを領主様にお渡し願いますか。」
「・・・分かりました。」
使者は”分かりました。”とは言ったが全部の説明を納得しているわけではなかった。
そして俺は・・・・
「俺一人を見捨てて、勇者と王都の軍を守るってか」
今更だが、周りを見渡した。俺を睨む王国兵が何人もいる。だが、睨んでいるやつらは今回の郊外訓練で留守番をしていたやつらだ。そして、こちらをちら見して顔をそらすのは郊外訓練に参加していたやつらだ。そういうことかよ・・・・
そして、見渡した中に天野がいた!!
「おい天野!よくも見捨ててくれたな。そんなんで勇者と胸を張って言えたな!」
「・・・・」
天野は俺の顔を見て、びっくりしていたが視線をそらし歩き出した。
「おいなんとか言えよ!」
俺のその態度に、門兵に止められ。ガロには「外につまみ出せ!」と指示が出され。俺は
門兵に両脇を抱えられ、王宮外の道まで引きづられて
「二度と顔出すな。裏切り者」
こう門兵に言われ、道に転がされた。