魔人との戦闘
魔人と対峙する、少し前。
「サトウコウイチ魔人と対峙したときに、勇者は俺だといってから戦ってくれ。」
ガロさんが魔人のところに向かおうとした俺にそう言って来た。
「どうしてですか?」
「お前が勇者じゃないと分かれば、お前を無視して勇者をあぶり出そうとするかもしれないからだ。」
「わかりましたよ」
そう言って俺は歩き出す。まったくやってられない。
「遊撃部隊・後衛部隊は怪我人を救助!救護部隊に至急連絡!全軍撤退する!」
ガロさんから各部隊に指示が飛んだ。
ガロさんの声は聞こえているはずの魔人は、にやにやしながらその様子を眺めていた。
そして俺と目が合う。魔人に向かって歩く俺の姿を見つけたからだろう。周りが撤退作業に入っているのに無視である。
「アマノ!今後のことで指示がある聞いてくれ。」
「はい!」
ガロさんが天野を近くに呼び寄せた。近くで話しているせいか話し声は聞こえなかった。
そして魔人と対峙した。特に威圧をされていないのに、冷や汗が止まらない。膝が笑っている。手が震える。
こんなとこで死んでも嫌だった。やりたくなかった。この世界に来て俺は自分のことを一番に考えると決めていたのに、こんな事は勇者がやることだ。
なのに今俺の目の前には
「お前が勇者か?」
「俺が勇者だ!」
魔人と、たった一人で戦闘を開始しようとしていた。
「お前ほんとうに勇者か?見た目はレベル低そうだし、装備もそこらへんのやつより悪いし、俺の足止めのつもりか?そこらへんの雑魚で足止めされると思ったら大間違いだけどな!!」
そう言って、持っていた剣を横に振った。
もし始めの攻撃を見ていなかったら、この攻撃で死んでいただろう。魔人が剣を振った瞬間に地面をころがって、残撃を避けた。
攻撃をかわしてすぐに、先読みスキルを発動。すると上から攻撃が来るのが分かった。転がっている状態から横に飛んで避ける。
すぐに”先読み”を発動。今度は攻撃がこないことを確認。盾を構えながら立って魔人と対峙した。
味方の方に目線を一瞬向けると、魔人の攻撃の二次災害が出ていた。さっきの攻撃による被害者が出たようだ。
ガロさんが早く魔人から離れるように指示を出している。なぜか天野も手伝っていた。怪我人も大事だが、こっちは俺が何とかできなくなった瞬間終わりなんだぞ。
味方のことも気になったが、はきりいって魔人と対峙しているこの状況で、味方を気にする余裕がなかった。早く応援が来てくれることを祈っていた。”早く来いよ天野!!”
「味方を気にしている余裕なんてあるのかな? くくく」
そうですよ。ありませんよ。いいですね。魔人さんは余裕で。
「とりあえず雑魚ではないことは分かった。だがそれだけだ。まあ俺を楽しませてくれればそれだいいよ。」
魔人がそう言うと再び戦闘が始まった。
魔人が攻撃してくる。それに合わせて攻撃の軌道をそらす。そらした軌道にできた隙間に体を入れる。攻撃されているときに”先読み”を使って次の攻撃を理解する。
その攻撃に合わせ、盾・剣を使って攻撃の軌道をそらす。魔人の攻撃はまともに食らったら一発で死んでしまう。はきり言って今はなんとか魔人の攻撃を避け続けている。理由があった。
本来であれば、魔人と俺のレベル・能力値・スキルどれをとっても魔人の足元にも及ばないだろう。天野でさえまともにやりあえないだろう。
だが俺は魔人の攻撃をなんとか避け続けている。
一つ目に魔人がまだ本気を出していないこと。
二つ目に俺が先読みスキルを持っていたこと。
三つ目に魔人の攻撃が大振りだった。攻撃が単調で雑だったこと。
四つ目は速さで到底かなわないはずだが、先読みスキル・魔人の攻撃を”最小限の動き”で
かわしていることによって速さでかなわないところを補っていた。
五つ目は五行結界を天野にかけてもらっていること。残撃を軌道を変え攻撃を避けているがその余波もすごい。五行結界がなければ余波で吹き飛んでいた。
これのどれか一つでも抜けていたら、確実に死んでいた。
それを思うと攻撃を避けながら冷や汗が止まらない。次から次と攻撃が来る。それを俺は攻撃を流しつつ避ける。
「おお!!けっこうやるじゃねかーーー。楽しくなってきたぜ」
そういうと攻撃速度が上がってきた。まずい・・・
「ひさしぶりだぜ。こんだけ戦いが持つのは。たいがい瞬殺だったからな。いいねお前!!」
そう言って、連続で攻撃を繰り出してきた。
縦・横・斜めと剣を振っていく。そのたびにすさまじい残撃が発生する。その余波も五行結界でなんとか耐えているが、物理的にではなく精神的に蓄積がすさまじい。
一分が一時間に感じてならない。そしてなりより、天野!!援軍に早く来い。もうもたねよ。
どれくらいっただろうか。精神疲労と体力的疲労で感覚があまりなかった。
「はぁ、はぁ・・・」
ふいに魔人の攻撃がやんだ。そして別の方向を見ていた。
天野が来たのか?
「人間族は500年前となにもかわってねえんだな。」
何かを言っている。それでも今のうちに呼吸を整えて休んでおこうとした。だが
「強いやつを前に、お前以外全員逃げていくとはね。弱いやつには興味はないがな」
え・・・?今、魔人なんて言った?全員逃げた?はぁ・・?
それを聞いて、味方のいた方に目線を向けた。
「なぁ・・・・」
味方は誰一人と目に見える範囲にいなかった。遠くに砂煙が上がっているのが見える。
「おい冗談だろ・・・」
ガロさんは言った。天野を援護に向かわせると。一緒に撤退させると。
現実は誰も援軍には来ない・・・。
呆然としてしまった。
「おいおい。これぐらいで腑抜けてんなよ」
「しまった。」
完全に魔人から気をそらしてしまった。魔人の攻撃が放たれてしまっていた。
それでもなんとか軌道をそらそうとしたが、全部をそらしきれずに吹っ飛んでしまった。
地面をゴロゴロこ転がる。
「まだまだ満足してないんだよ。これぐらいで死んでくれるなよ。」
「くっそ!」
なんとか起き上がる。幸いに骨には異常なさそうだ。だが頭がぐらぐらした。転がっているときに頭を打ったようだ。
立ち上がって魔人の様子を見る。
まだまだ余裕そうだ。それはそうだろう。こちらの攻撃はなにも当たっていない。ダメージがないのだ。
今は俺の様子を伺っているようだ。今のうちに考えろ!
どうやったら生き残れるか!
無い物ねだりをしても意味はない。援軍はない!くそばかのせいで!
どうやったら生き残れる。
逃げるか?無理だ走って逃げたところ後ろから攻撃されておしまいだ。
戦うか?まともにやっても勝ち目はない。
休戦はできないか?魔人が休戦をのんでくれるとは思えない。が一度やってみるか。
命乞い?命乞いをした瞬間に殺されそうだな。
持久戦に持ち込むか?死ぬのが先延ばしになりそうだがこれしかないだろう
できる作戦をすぐに考えてもう”これ”しかない。
「実は俺、勇者じゃないんだ。そこで休戦しませんか?」
「それで?俺は戦うのやめる気はないぜ。」
あっさり第一段階にして、これしか確実に生き残る方法がなかった。
残るはもう・・・
やけくそだ。
体力的にも精神的にも限界に近かった。剣が魔人の攻撃によりヒビが入っていた。
攻撃を避けつつ、一度だけチャンスを伺って反撃することにした。
後は持久戦でどこまで持ちこたえられるかしかない。
はきり言って、絶望だ。
そう生きる望みを絶たれたのだ。人間族に!
魔人との戦闘が再会した。もう体力の限界が近い。一度の攻撃に望みをかけて、後は持久戦しかない。
そして決意した。魔人が剣を上段に構えたのを見て。始めて俺から攻撃を仕掛けに行った。
魔人もそれを見て、俺の剣を自分の剣で受けようと、剣をおろしてきた。その剣に俺は自分の剣の”ヒビ”が入っているところをかさねた。
予想道理俺の剣は折れた、そう予想道理。折れた剣で魔人の首を切らんと剣を走らせる。首に向かって剣が延びる。よし!
ドン!!
次の瞬間、吹っ飛ばされ地面を転がっていた。え?
「やってくれるじゃねぇか。自分から攻撃してくるから何かと思えば。あんなことを企んでいたとはね。」
体が思うように動かなかった。顔だけなんとか魔人に向けると。
魔人の体に真っ黒い煙のような物がまとわりついていた。
「勇者じゃないとは言っていたが、確かに勇者らしいスキルは何も使っていなかったな。勇者じゃないのかもしれないが、だとしたら俺はそんなやつに魔装まで使わされあまつさえ、300年ぶりに自分の血を見ることになるとはね」
よく見ると、魔人の頬に赤い線が走っており、赤い血が流れ落ちていた。
その赤い血を手ですくって口に入れ、自分の血の味を確かめているようだった。
「がはぁ!」
突然魔人が目の前に現れ殴られていた。そして吹っ飛ぶ。
無様に転がった。
仰向け状態になり、それ以上体を動かすことが出来なかった。
気づくと目の前に、魔人が立っていた。
そして、剣を振りかぶっていた。避けられない。
一人の女子の顔を思い描いて、”ごめん、無事に帰れなくなった”と誤った。
目から涙が流れた。
異世界で死ぬのか。
親の元に帰りたかった。
やりたいことがまだあったのに。
結婚だってしたかった。
子供の顔も見たかった。
俺の子供の顔を親に見せたかった。
後悔ばかりだ。
一人の女子との約束も果たせなかった。
魔人の剣が徐々に近づいてくる。
死ぬときって時間がゆっくり流れていくんだな・・・
魔人の剣の動きがスローモーションだった。
意識が段々薄れていく。
「・・・・」
魔人が何かを言っているようだが良く聞こえない。
”ごめんよ”
いろいろな思いに誤った。そして意識は完全になくなった。