第五話:罰として、女の子になる。
「もうすぐ、朝のホームルームがはじまるから、急いで教室にいかないと、遅刻するわよ」章子はいった。
でも歩は、制服のリボンをうまく結べなくて、モタモタしていた。
「アラ、どうしたの。歩ちゃんは、リボンを結べないの」章子はいった。
「だって、女の子の制服を着たの、はじめてだから、慣れなくて……」
「しょうがないわね。先生が結んであげるから、ちゃんと見るのよ」章子は、歩の制服のリボンを結んであげた。
リボンを結び終わった章子は、歩にレポート用紙を渡した。
「先生、このレポート用紙は、いったい、何なのですか」
「これは、教室で歩ちゃんが、この用紙のとおりにみんなにいうのよ」
「先生、わたしたちにも見せて」と恭子はいって、章子にレポート用紙を見せてもらった。
「えーと、なになに……、先生、これを歩ちゃんにいわすの」
「恭子さん、いったい、どういった事が書いているのか、見せてもらえません」
「志保、見て。すごいことが書いてあるから」恭子はそういって、志保にレポート用紙を渡した。
「ホントだわ。もし、これを歩ちゃんがみんなの前でいったら、わたし、歩ちゃんのことが好きになっちゃうわ」
「ネエ、石川さん。なにが書いてあるの」志保が、歩にそのレポート用紙を渡そうとしたとき、章子が用紙を奪った。
「今読んじゃダメ。教室に着いたらこれを見せてあげるけど。歩ちゃん、これを読んだら、もう二度と男の子にもどれなくなるから。いいわね」
「先生、あの、それは、なにが書いてあるの」
歩は、章子がいった事がまったく理解出来なかった。男の子にもどれない、とはどういう事なのか。
歩が、だんだん不安になってきた。それをよそに、恭子と志保が、歩の手をもった。
「サア、はやく教室にいこう。そして、歩ちゃんがあの用紙のとおりにいうのが楽しみだわぁ」恭子と志保は、歩の手を持った。特に恭子は楽しそうに保健室を出た。
もうすぐ学校の授業がはじまるのだが、教室では、宿題を丸写しをする生徒、昨日見たテレビのドラマのことを話す女子生徒たち、持ち込んだらいけないマンガをまわしよむをする生徒などがいた。その光景は、いつもの日常だった。
この時までは……。
授業がはじまるチャイムが鳴ると同時に、章子が教室にはいってきたから、急いで席についた。
「おはよう、みなさん。今日は、あるお知らせがあります。そう、桜坂歩くんのことです」
章子が、歩のことをいったので、教室はざわつきはじめた。
「ちょっと、静かに」章子はいうと、教室は静かになった。
「みなさんは、桜坂くんがあんな事をした原因が、この教室の中にいる、男の子たちとあることをしたのが原因でした。でも桜坂くんは、その男の子たちの名前を出さなかったのです」
教室では、その男の子たちが誰なのか知っていた。
また、その男の子たちも、知らん顔をしていた。
「だから桜坂くんは、男の子たちをかばったので、罰として、桜坂くんは今日から女の子になることになりました」
章子の発言に、教室中は大きなどよめきがおこった。章子は、さらに続けていった。
「だから、あなたたちみんなは、桜坂くんのことを男の子として扱ってはいけません。桜坂くんではなく桜坂さんと呼ぶことになるから、わかったわね」
章子の発言に、教室中が大騒ぎになった。それは廊下で待っている歩たちにも聞こえた。
「滝沢さんに山口さん、この紙に書いてあることをよまなきちゃいけないの」
「そうよ歩ちゃん。だってこれをいわなきちゃ、教室のみんなから、歩ちゃんは女の子として認められないじゃない」恭子はいった。
「もし、それでいじめられそうになったら、わたしや恭子さんが歩ちゃんのことを守ってあげるから」
「本当に、守ってくれるの……」
「本当よ。でも、歩ちゃんのことを男の子と見る人はいないでしょうけど」
「山口さん。それは、どういう意味なの……」
「それはね、歩ちゃんの姿かたちが、もう女の子だからよ」
「そうそう。志保のいうとおり。だって歩ちゃんは、わたしよりもカワイイ女の子になってきたから。逆に男の子たちに言い寄られたりして」
「そうなったらわたし、歩ちゃんに似合う男の子を選んであげて、ステキなカップルにしてあげるわ」
恭子と志保が、そういうことをいって笑っていたが、歩には笑えなかった。二人ならやりかねない、と歩は思った。
「あなたたち、もう教室の中に入っていいわよ」章子がいった。
歩は、教室にはいったら、もう二度と男の子にもどれないと思ったが、いつかは飽きて、もどしてくれると考えることにした。
でも、その考えは、もろくも崩れ落ちるのであった……。