第二十五話:妹にされた歩ちゃん。
歩は、志保がくるのをまっていた。
志保と待ち合わせにえらんだのは、恭子の家の近くの古本屋だった。
その古本屋はマンガが立ち読みができるのだが、マンガがあまりにも古いのであまり客はいない。
古本屋のドアを開けた志保は、マンガが置いてある本だなをみると歩がいた。歩に近寄った志保は、歩がマンガを読みながら泣いているのに気がついた。
「どうしたの歩ちゃん。誰かにイジワルされたの」志保は、歩がなぜ泣いているのか聞いた。
「ううん、志保さんちがうの。歩ね、このマンガを読んで感動したからなんだけど……」目に涙をためながら歩はいった。
「歩ちゃんは、どんなマンガを読んだの」
「これなの……」歩が志保に見せたマンガは、ひと昔前の少女マンガだった。
「うわぁ、歩ちゃん、このマンガを読んでたの。なつかしいわね。わたしもこのマンガだい好きだったの」
「歩ね、はじめて少女マンガを読んだけどね。すごくおもしろかった」
「わたしの家にきたら、ほかのマンガも見てもいいから」
「ホント。ありがとう志保さん。歩、うれしい」
「恭子さんがまっているから、ここを出ましょ」志保はいった。
歩は、たったいま読んでいたマンガをレジにもっていった。
レジの店員は大学生っぽいアルバイトの女性だった。
「お嬢ちゃん、かわいいわね。小学何年生なの」店員は、歩を小学生の女の子と思っていった。
「歩はね、小学六年生なの……」ほんとうは中学生の歩。だが歩は、この前みたいに小学六年生と店員にこたえた。
「歩ちゃんは六年生なの。かわいいわねェ。歩ちゃんには、プレゼントをあげるね」店員が、歩にキャンディーをあげた。
「お姉さん、ありがとうございます」歩はおじぎをした。
サイフからお金をだそうとした歩。よこにいた志保が先にサイフから千円札をだした。
「志保姉さんが払うから。このマンガ、おいくらですか」
「二百円です。よかったわね歩ちゃん。お姉さんにも礼をいうのよ」
「ありがとう、志保お姉さん……」歩は、志保の後ろにかくれていった。
「歩ちゃんは恥ずかしがり屋さんなのね」店員はいった。志保がおつりを受け取ると、古本屋をでた歩と志保。店員は、歩に手を振った。歩も小さく、店員に手を振った。
「志保さんったら。いきなり妹なんていうから、歩、ビックリしちゃった」
「だって歩ちゃん、その服を見たら、だれだって小学生とまちがえるわよ」
志保のいうとおりだった。
歩の服は、中学生にしては幼なすぎる服だった。
これでは小学生とまちがわれてもしかたがない。
それに、歩のしゃべりかたも、子供っぽいしゃべりかただった。
「歩ちゃん。その服や口調も、やっぱり……」
「章子先生の命令なの」歩はいった。
章子が歩のために買ってあげた服。服のテーマは『かわいい妹』。つまり歩は、クラスメートや近所の人前で、小学生らしく振る舞われなければならない歩だった。
「それで歩ちゃんは、店員のお姉さんに、小学六年生とウソをついたのね」
「……うん」歩はいった。
「歩ちゃんは、恭子さんの家につくまで、わたしの妹になってくれるわね」志保は、ひざを歩の背にあわせてしゃがんだ。
「恥ずかしがることないわよ。もうだれも、歩ちゃんのことを、中学生の男の子と見てないから」
志保のいったことに、歩は反論しようとした。
志保は、歩が口をはさむ前にいった。
「どっちにしろ休み明けになれば、わたしたちクラスの女子は歩ちゃんを妹としてあつかうように章子先生から連絡があったの」
「いくらなんでも、無茶苦茶だ」歩はいった。
「そうよねー。でも今日と明日、歩ちゃんを、わたしと恭子さんが妹として躾なければいけないの」
「そんな、志保さん……」
「ダメよ歩ちゃん。わたしのことを志保お姉ちゃんといわないと。もう妹の躾ははじまっているのよ。わかったわね、歩ちゃん」
歩は、志保に逆らうことをあきらめた。休み明けにはクラスの女子たちから妹あつかいされるのだ。
そして、この休みの間は恭子と志保に妹として躾られるのだ。
「じゃあ歩ちゃん、恭子お姉ちゃんの家におじゃましましょうね」志保に手をにぎられた歩。志保は歩のことを妹あつかいした。
もう男の子に戻れないのではないか。そんな考えが頭のなかを横ぎった歩だった……。