第二十一話:本当の友達。
「ネェ歩ちゃん、昨日、お姉さんと買い物をしたのでしょ。どうだった」恭子がいった。
「それが……」
歩は昨日のことを話した。駅前のデパート騒動や、メイド喫茶のまずい料理のことなどを。
「それは、タイヘンな一日だったんですね」志保がいった。
「そうだけど……」歩は頬を赤らめていった。「唯お姉ちゃんといっしょだったから、楽しかったよ」
歩の健気さに、恭子と志保は、歩になにかしてあげたかった。
でも、歩になにをしたらよろこんでもらえるだろう。恭子と志保は考えた。
「あのさぁ、服をあげたらどうかな」鉄也がいった。
「わたしたちの……」恭子がいった。
「だって歩ちゃん、昨日は服を買えなかったんだろ。だったら、ふたりが、もう着ない服をあげたらどう」
「それいいわね。鉄也にしては上出来ね」
「おい恭子、そりゃないだろう」
鉄也と恭子の掛け合いを聞いていた志保。
志保は歩を見た。歩は、いまにも泣きそうな顔をしていた。
「どうしたの歩ちゃん。やっぱり、お古はイヤなの」
歩はクビを横に振った。
じゃあ、どうしたのと志保はいった。
「歩、うれしいの……。だって、歩のために、滝沢さんや山口さんが、服をゆずってくれるから……だから……」歩は半泣きになっていった。
「だってわたしたち友達でしょ。そうよね恭子さん」
「モチロンよ。歩ちゃんは大切な友達よ」
「ほんとなの。滝沢さんに山口さん」
「ほんとよ。だから滝沢さんじゃなくなく、恭子とよんでほしいの」
「わたしもよ。山口さんではなく、志保とよんでほしいのよ」
「エッ、ほんとに……、ほんとに、いいの……」
「当たりまえじゃない。だって友達同士なんだから」志保がいった。
歩は泣きだした。
恭子と志保に友達といわれた歩は、うれしくておもわず泣きだしたのだった。泣いている歩を見て、鉄也は歩を抱きしめた。
「ちょっ、ちょっと鉄也、歩ちゃんに、なに抱きついているの」恭子はいった。
「いや……、歩ちゃんが泣いているから、なぐさめようかと……。泣いている妹を、なぐさめるのは兄の役目だからな……」鉄也が照れながらいった。
「ありがとう、鉄也お兄ちゃん。歩、もう泣かないもん」歩はいった。
「よかったわね歩ちゃん。鉄也お兄ちゃんになぐさめられて」恭子は、歩にからかうようにいった。
「……恭子さんの、イジワル……」
「歩ちゃんたら、今度は顔を真っ赤だわ。泣き顔もかわいいけど、恥じらう歩ちゃんもかわいいわ」
「ありがとう、……志保さん」歩はいった。
「じゃあ日曜日、わたしの服を何着かあげるから、歩ちゃん、楽しみにしてね」恭子がいった。歩はおおきくうなずいた。
歩と鉄也のあとを、すこし離れた恭子と志保。
志保は、恭子の私服はいつもジャージだったので、どうするのだろうと思い、恭子にそのことをいった。
「それは大丈夫よ。それはね……」
「それは……」
「ゴメン志保。やっぱり秘密。日曜日のお楽しみ」恭子はいった。
恭子がいったことに、それを聞いて残念がる志保。
「やっぱり、このことを章子先生にいうべきなのかなぁ……。恭子さん、どう思います」
志保にいわれて、恭子はどうしようかまよった。
「とりあえず、学校についたら、章子先生にこのことをいったらいいけど。その前に……。歩ちゃーん、こっちに来てー」
恭子は歩を呼んだ。歩が恭子のところにくると、恭子は今のことを章子に話すことにするといった。
歩の顔は、イヤそうな顔をした。
「だって、このことを章子先生にいわなかったら、もっとタイヘンなことをされるのは、歩ちゃんなんだから」恭子はいった。
「そうだけど……」
章子にいってもいわなくても、やることは同じだと、歩は思った。
「大丈夫だから。歩ちゃんを、この鉄也お兄ちゃんが守ってやるから」歩の顔を見た鉄也が、歩を不安がらせないためにいった。
「ほんとなの。鉄也お兄ちゃんが、歩のことを守ってくれるの……」鉄也のいったことに、歩の不安な表情がなくなった。
恭子と志保も、歩ちゃんよかったねといった。
「鉄也お兄ちゃん。歩にしてほしいことがあるんだけど……」歩は、甘えた声でいった。「あのね、教室まで歩の手をつないでほしいけど……」