第二十話:歩ちゃんの心配事。
月曜日の朝。歩はいつもよりもはやく起きた。歩は、学校にいくのが楽しみにしていた。
それは恭子と志保、それと鉄也に会えるからだ。でも……。
歩が食卓につくと、父親の憲一はもう朝食を食べ終わるところだった。
憲一は、歩を軽蔑な目で見ただけで、なにもいわなかった。
「パパ、おはよう……」歩は憲一に朝のアイサツをしたが、憲一は返事をしなかった。歩は、憲一に無視をされるのがつらかった。
憲一が朝食を食べおわっても、歩にはなにもいわなかった。
憲一とすれ違いに、母親の瞳が入ってきた。
「どうしたの歩ちゃん。そんな悲しい顔をして」
「ママ、あのね、パパのことだけど……」
「お父さんがどうしたの」
「パパ、歩のことキライなの。だってパパ、歩が女の子になってから、ずっと無視してるんだよ」歩は、いまにも泣きそうな声をだして瞳にいった。
「そんなことないわよ、歩ちゃん」瞳は、歩に慰めるようにいった。「お父さんは、歩ちゃんが女の子になったから、戸惑っているだけよ」
「ママ。それ、ほんとにそうなの」
「お父さんとは、ながい付き合いだから、お父さんがなにを考えているか、わかるのよ。わかったら歩ちゃん、はやくごはんを食べない。遅刻するわよ」
瞳に勇気づけられた歩は、すこし元気になった。朝食を食べおわった歩は、制服に着替えた。
歩は、制服に着替えおわるり玄関にいくと、唯が玄関に立っていた。
「どうしたの、唯お姉ちゃん」歩はいった。
「今日は、歩ちゃんといっしょにいこうかなと思ってね。いいかな歩ちゃん」唯は歩に聞いた。
だが、唯の本当の目的は、鉄也に会うためだった。
鉄也が、歩のことをだいじにしてくれているか、確かめにいくのだ。
「じや、お母さん、いってくるね。歩ちゃんもいうのよ」
「ママ、いってきます」
「ふたりとも、いってらっしゃい。歩ちゃん、クルマに気をつけてね」
唯は、歩といっしょに登校するのははじめてだった。唯は、歩のうれしそうな顔を見た。
「歩ちゃんは、私といっしょがうれしいの」
「だって、唯お姉ちゃんといっしょだもん」歩は笑顔で答えた。
「歩ちゃんは、健気でかわいいわー」唯は、歩を抱きしめた。
「滝沢さんと山口さんだ」
歩は、恭子と志保が、手をふっているのが見えた。歩も、ふたりに手をふった。
「おはよう、滝沢さんに山口さん。妹の歩ちゃんが世話になっているわね」唯が恭子と志保にあいさつをした。
恭子と志保も、歩の姉の唯にあいさつをした。
「唯さん、おはようございます。わたしは、歩ちゃんとおなじクラスの滝沢恭子です」
「唯さん、はじめまして。山口志保です。わたしも歩ちゃんと滝沢さんとおなじクラスです」
「恭子さんに志保さん。これからも、妹の歩の面倒をおねがいね」
唯は、歩のことを弟といわず妹といった。それに気付いた恭子は、唯に聞いた。
「だって、歩ちゃんは女の子になったのだから、妹といったほうがいいんじゃない」
「たしかにそうですね」恭子は、唯の答えになるほどと納得した。
「それはそうと、歩ちゃんがお兄ちゃんと慕う、鉄也という子は、いったいどんな子なの」唯は、恭子と志保に聞いた。
唯が鉄也のことを聞いてきたので、恭子と志保は、鉄也のことを話そうとした。
「ちょっとばかし、遅れてゴメン」
後ろのほうから、いそいでこちらにむかって来る鉄也だった。
鉄也の声を聞いた歩の顔はうれしそうだった。
「おはよう。歩ちゃん」鉄也は歩にむかっていった。鉄也は、歩のリボンが曲がっているのが気がついた。鉄也は、歩の背にあうようにしゃがむと、歩のリボンをなおした。
「ありがとう……。鉄也お兄ちゃん……」歩は照れながらいった。
「あなたが、鉄也くんなのね」唯がいった。「はじめまして。私は歩の姉の唯です」
「はじめまして。柴咲鉄也です」
鉄也は、歩の姉をはじめて見た。
姉弟だけあって、顔のかたちはいっしょだが、やさしい顔つきの歩とちがい、唯の顔つきはすこしきつめだった。
「鉄也くんのことは、妹の歩ちゃんから聞いているわよ」
「ありがとうございます」鉄也は緊張ぎみにいった。
「うちの歩ちゃんのリボンをなおしたのには、関心したわ。これで歩ちゃんがあなたを慕う理由がすこしだけどわかったわ。これからも、妹の歩ちゃんを大切にしてね」
「ハイ、わかりました」
「歩ちゃん。お姉さん、ここで別れるけど、鉄也お兄ちゃんのいうことをちゃんと聞くのよ」唯はそういって別れた。
唯が去っていくのを見送ると、鉄也はカラダの力がぬけた。歩は、鉄也が唯にみとめられたことがうれしかった。
第二十話が書き終わりました。小説を書くというのがむずかしいです。文章をすこし変えただけで、内容が大きく変わったりしますから。それでも、完結にむかっていかなくてはならないのですから。苦しんで出来た小説を読んでくれてありがとうございます。感想/評価などがあればよろしくお願いします。