第二話:女の子になる不安。
滝沢恭子は背が高くスポーツ万能。山口志保は頭がよくて、テストの成績は学年トップでクラス委員で、二人は昔からの親友で、歩と同じ中学一年生で、クラスもいっしょだった。
「どうしたの、歩ちゃん。気分が悪いの」
志保が、心配そうにいったが、恭子は笑いながらいった。
「ちがうよ志保、歩ちゃんは、恥ずかしいのよ。だって男の子なのに、女の子の制服を着てるのだから」「そうだったのね。でも歩ちゃん、その制服とても似合ってるわね」
「そんなこというなよ。オレ、こんなの着たことねえしよ」
「ダメでしょ。『オレ』じゃなくて、『わたし』といわないと。わたしと恭子さんは、歩ちゃんの教育係なんだから」
「そうそう、志保のいうとおりよ。先生に、歩ちゃんを女の子にするようにいわれたのよ。もとはといえば歩ちゃんが、あんなことをするのがいけないのよ。わかっているの」
「……わかりました、滝沢さんに山口さん」歩はいった。
「わたし、そういう素直な歩ちゃん、スキよ」恭子はいった。
「それはそうと、歩ちゃんはちゃんと処理はすんでいるの」志保は歩にいった。
「山口さん、処理っていったい……」歩は、志保に尋ねた。
「やっぱりね。恭子さん、アレをもってきてくれたかしら」
「ああ、志保にいわれたからもってきてけど。それは教室でするの」
「いいえ、学校についたら保健室でするから。ちゃんと保健室の先生には許可を得たから」
「ねえねえ、保健室でなにをするの……」
「それはね、歩ちゃんをもっと女の子らしくするためよ」
「だから、まず教室にいくまえに、保健室で準備をしなくてはいけないから」
二人は、歩の顔を見ていった。だけど、歩は、それがどういうことなのか、わからなかった。
歩の不安そうな顔をしていると、さらに追い打ちをかけることを二人はいった。
「たしか、今日は体育があったわね。歩ちゃん」
「ええ、今日の4時間目にあるけど、志保さん、それがなにか」
「だったら、体操服はもちろん女子用をもってきたわね」
「エッ、まさか、いくらなんでも体育まで女の子扱いはないだろう」
「なにいってるの、歩ちゃんは女の子なのよ。だからとうぜん、女の子として授業を受けなきゃ」と志保がいった。
「だったら、歩ちゃんはわたしと同じチームに入ったらいいわ。ねっ、いいわね歩ちゃん」
歩は、それが冗談でいっているのではと思ったが、恭子のいってることは、本気のようだった。
もうすぐしたら学校につくので、歩はこの場から逃げ出したかった。
でも、恭子と志保に挟まれた状態では、その考えはあきらめざるえなかった。
「学校についたら、まず最初は、保健室にいくから」
「その後で、わたしたちのクラスにいくから。みんな歩ちゃんを見てどう思うかしらね」
恭子と志保が、歩を見て笑みを浮かべた。だが、歩は二人の笑みを見て、ますます不安がましていった。