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第十七話:歩ちゃん、デパートで迷子。

「楽しかったわ。唯さんに歩ちゃん」バスがもうすぐ駅前の終点に着くので、おばあさんはいった。


「こちらこそ。おばあさんに頭をなでてもらって、歩ちゃんもごきげんのようだから、そうよね歩ちゃん」

「ありがとう……、おばあさん」


歩は、はにかむようにいった。

バスが終点に着くと、おばあさんは、歩にいった。


「歩ちゃん。お姉ちゃんのいうことをちゃんと聞くのよ。いいわね」

「わかりました。歩は唯お姉ちゃんのいうことを聞きます」


「それでは、歩ちゃんに唯さん。元気でね」おばあさんは、バスから降りた。


「わたしたちも降りましょう。歩ちゃん、お姉ちゃんの手をちゃんと握るのよ」

「わかった……」バスから降りた歩は、唯の手を離した。


「ダメでしょ、歩ちゃん。手を離したら、迷子になるでしょ」唯は歩を叱った。

「でも、唯お姉ちゃん。歩は……」


「歩ちゃんは、おばあさんになんていわれたの」


「お姉ちゃんのいうことを聞くように……」


「そうでしょ。だから、お姉ちゃんの手を離したらダメでしょ」


「でも、歩はもう中学生……」


「違うわ。いまから歩ちゃんは小学生なのよ。お姉ちゃんのいうことを聞かなかったら、もうデパートにいかないから」


「唯お姉ちゃん。ゴメンなさい」


「わかればいいのよ。それと、学年はと聞かれたら、小学四年生というのよ」唯にいわれておどろいた歩だったが、大丈夫よと唯はいった。

「だっておばあさんは、歩ちゃんを小学四年生とまちがわれたでしょ」


「そんな……」歩は困惑した。

歩は中学生の、しかも男の子である。それが、歳を聞かれたら小学四年生と答えないといけない。つまり、歩は小学四年生の女の子の振る舞いをしなければいけないのだ。


「もっと堂々としなければダメよ、歩ちゃん。ばれて恥ずかしい目にあうのは歩ちゃんだから」


「……うん、お姉ちゃんわかったから……」歩はしかたなくいった。




デパートの中にはいると、唯は歩の手を引っ張っていき、エレベーターの前にきた。


「子供服売り場は、五階にあるのね」唯はいった。エレベーターの前では、歩と唯のふたりのほかに、二組の親子がいた。


「あの中では、歩ちゃんが一番かわいいわ」唯は小声でいった。

しかし、唯の声が聞こえたのか、母親たちは唯を睨みつけた。唯は平気な顔をした。


エレベーターの扉が開いたので、歩は中にはいろうとしたが、後ろのだれかに服を引っ張られた。その拍子で、歩だけがエレベーターに乗れなかった。


歩は、唯が来るのをまっていた。でも唯は、なかなか来なかった。まっててもしかたないので、歩はエスカレーターで五階までいくことにした。


エスカレーターのところに来ると、歩は五階までのぼったが、そこは家具売り場だった。


歩は、売り場をまちがえたと思い、エレベーターでほかの階を見た。しかし、子供服売り場はどこにもなかった。

歩はエレベーターの前に戻ろうとしたが、エレベーターでいろいろな売り場にいったので、歩はエレベーターがどこにあるのかわからなくなった。


歩が途方にくれていると、見兼ねたデパートの店員が歩に声をかけた。


「どうしたのお嬢ちゃん、お家の人はどうしたの」店員がやさしく歩にいった。

「あのね、唯お姉ちゃんといっしょにきたけど……」

「そうなの。唯お姉ちゃんといっしょなの。じゃあ、お姉さんといっしょに、唯お姉ちゃんをさがそうか」店員は、歩の同じ目線になっていった。それは、店員が、歩を小さな女の子として見たのだった。


デパートの店員は、歩の手をにぎった。

店員は、歩の手をとると、歩に合わせるようにゆっくり歩いた。


「お嬢ちゃんの名前は、なんていうのかなぁ」


「桜坂、……歩です」


「桜坂歩ね。歳はいくつなの」


「歩は……、小学四年生です……」


「小学四年生ね。エッ、小学四年生なの」店員は驚いた。


「そうなの。歩は、クラスのみんなからも、いつも年下扱いされるの……」店員は、歩が小学四年生だとは信じられなかった。それほど歩は、小学四年生になりきっていた。本当は小学四年生ではなくて、中学生の男の子だと知ったら、この店員はどういった顔をするのだろう、と歩は思うのだった。




歩が、店員に連れてこられたのは、迷子センターだった。迷子センターの部屋は、幼児がよろこびそうな、かわいらしい部屋だった。

歩は中にはいるのをイヤがった。


「ここでまっていれば、お姉ちゃんがむかえにくるから。この中でまっていてね」店員は、イヤがる歩を迷子センターの中にいれた。幸運にも、センターの中にはだれもいなかった。


「そうそう、この中のおもちゃで遊んでてもいいからね」


デパートの店員が、迷子センターからでていった。一人残された歩は、おもちゃを見た。でも、おもちゃは歩には幼稚すぎていた。

歩が適当に選んだおもちゃは、パンダのぬいぐるみだった。


「おそいなぁ、お姉ちゃんは、ねえパンダちゃん」歩は、パンダのぬいぐるみに話しかけた。

歩は、パンダのぬいぐるみを抱いて眠ってしまった。



唯は、歩が迷子センターに来ていると、館内放送があったので、歩をむかえにきた。店員に案内されて、唯は迷子センターにきた。


「ごめんね、歩ちゃん。さびしかったで……。まあ、かわいらしい寝顔」唯はいった。


「ほんとですわね。もしよかったら、お嬢ちゃんをもう少し寝かしておいても、よろしいですけど」


「お願いします。じゃあわたし、妹のために何か飲み物を買ってきます」




唯は迷子センターを出る前に、もう一度歩の寝顔を見た。

歩ちゃん、寝顔まで女の子になって、かわいいなと唯は思ったのであった。

第十七話を終わりました。この小説の評価/感想をよろしくお願いします。

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