第十五話:女の子になってはじめての日曜日。
歩が女の子になって、はじめての日曜日の朝がきた。
いつもの日曜日だと、歩はまだ寝ていた。でも今日は姉の唯といっしょに服を買いにいくので、歩はいつもよりはやく起きたのだった。
「おはよう、ママ」
「おはよう、歩ちゃん。いつもこんな時間に起きてくれたら、ママはたすかるのにね」瞳はいった。
「もう、ママのいじわる」歩は、頬を膨らませて、怒ったふりをした。
「しかたないわね。だって今日は、歩ちゃんがお姉ちゃんといっしょに女の子の服を買うのだから。うれしいのね」
「そうなのよママ。歩、とてもうれしくて……」
瞳は、二、三日前まで歩が男の子だとはおもえないくらい、女の子らしくなっていたのがおどろきだった。
歩が中学にはいると、新しい友達の影響なのだろう、歩は乱暴な口のいいかたをして、このままでは不良の仲間入りをするのでは、と瞳は心配した。でも、学校であんなことをして女の子にされた歩を見て、瞳の心配は消えていった。
瞳は、歩の担任である章子に、歩は男の子としゃべってはいけない、などの決まり事を聞かされていた。
さらに章子は、歩を女の子らしくさせるため家族が協力するようにといった。それからは、瞳と唯は、歩を女の子、それも妹として扱い、かわいがった。
「ママ、どうしたの」
「ううん、なんでもないのよ。ちょっと考え事をしていただけ。もうすぐ、唯も起きてくるから、歩ちゃんは先に食べてて」
「わかったわ。歩、先に食べとくね」歩は朝食を食べにいった。
歩が朝食のパンを食べていると、唯も朝食を食べにきた。
「おはよう唯お姉ちゃん」
「おはよう。歩ちゃん、起きるのはやいわねぇ。わたしといっしょに服を買いにいくのがうれしいの」
「だって……。唯お姉ちゃんと服を買いにいくのなんて……、はじめてだから……、歩、うれしくて……」
「そういってもらえて、お姉ちゃんもうれしいわ」唯は、歩の頭をなでた。
歩が女の子にされて、唯は実はうれしかった。
唯は小学生のころ、男の子にスカートをめくられた過去があった。それも、唯の初恋の相手にスカートをめくられたので、唯は男の子が信じられなくなって苦手になった。それは、弟の歩でも同じだった。
歩が中学生になり、男らしくなっていくのが、唯にとってはイヤだった。でも歩が、学校であんなことをして女の子にされたと聞いた唯はうれしかった。朝起きて唯は、女の子になった歩を見て、唯は歩を妹として扱うことにキメたのであった。
「ねえ、唯お姉ちゃん。何時に服を買いにいくの」歩は唯に聞いた。
「そうねぇ……、十時ごろにしましょうか。いろいろな用意もあるしね」
「用意って……」
「それは、ヒ・ミ・ツ。食べたら顔を洗って、ママの部屋に来てね」
朝食を食べおわった歩は、顔を洗いに洗面所へ向かった。
歩は、洗面所にある鏡にうつる自分の顔を見た。
男の子としてはやさしい顔だちで、小さいころから女の子にまちがえられた。歩はそれがイヤだった。
「どうして、こんなことになったのだろう……」
歩は、中学にはいったら男らしくなれるとしんじていたが、学校であんなことをしたために、章子から罰として女の子にされた。
女の子になった歩を見たクラスの女子は、最初は戸惑ったが、女の子らしくなっていく歩を見て、歩を女の子として扱うようになったのである。
そして、歩が女の子にされてから、毎晩、姉の唯が歩を着せ替え人形のように遊んでいた。
唯といっしょに遊ぶのは、歩が小さかったときだけだった。歩が小学生に入るといっしょに遊ばなくなり、中学生になってからは、ほとんど口をきかなくなっていった。
でも歩が女の子になってからは、唯から話しかけるようになったのである。
それからは、今までの分を取りもどすかのように、唯と話したり遊んだりしたのであった。
顔をあらった歩は、瞳の部屋にはいった。部屋の中では、瞳と唯が女の子の服をもって立っていた。
「ねえ、歩ちゃん。私と唯がもっている服、どちらがかわいいかしら」瞳は歩に聞いた。
歩は、ふたりのもつ服を見た。瞳のもっている服はピンク系のワンピースで、唯のもっている服はオフホワイト系のキャミソールだった。ふたりのもつ服は、小さい子が着るようなかわいらしい服だった。
「唯お姉ちゃんの服が、かわいい……」
「わたしの服がかわいいだって」
「まあしかたないわね。今日着ていく服は、唯のもっている服を着ていくのね」
「エッ、歩がこれを着るの……」歩は驚いた声をだした。
「そうよ。これを着て、わたしといっしょに服を買いにいくのよ。だから歩ちゃん、早く着替えてね」唯はいった。
「唯お姉ちゃん、これでいいかなぁ……」服を着替えた歩は、唯にいった。
「歩ちゃんは、今の姿を見たの」瞳はいった。
「ママ、歩は、まだ見てないけど……」
「唯、鏡をもってきて」瞳は、唯に鏡をもってくるようにいった。唯が鏡をもってくると、瞳は鏡の前に歩を立たせた。
「これが……、今の歩なの……」鏡にうつった歩の姿は、小さな女の子そのものだった。