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第十四話:新しい兄妹はじまる。

「彩花は、たしか三時間目の授業はなかったよね」章子は彩花に聞いた。


「そうですけど、先輩、なにか……」


「ちょっと休みの間に買い物をたのんでいいかしら」

「構わないですけど、何を買ってきたらよろしいのですか」


章子は、買うものを紙に書いて、彩花にわたした。

それを見た彩花は、「これを、私が買ってくるのですか」と章子に聞いた。


「そうよ。お金は、放課後に返すから。あとはよろしくね」章子は、授業の準備を済ませると、職員室を出た。


「先輩……」彩花は、章子を呼びとめようとしたが、章子は出ていったあとだった。もう一度、紙を見た彩花は思った。これをどうするのだろう……。




歩は、朝のホームルームが終わって、ホッとした。

章子が、歩になにもいわなかったからである。

今日は、章子になにもいわれない。そう信じていた歩だった。が、そうではなかった。章子は放課後、ある計画を立てていたのを歩は知らなかったのである。




放課後になって、教室で章子が来るのをまっていた。章子が来ないと、終りのホームルームがはじまらなくて、家に帰ったり、クラブ活動に出られないからである。


「ちょっとおそくなって、みんなごめんね」教室にはいると章子はいった。章子は、紙袋をもっていた。


「先生。その紙袋はなんですか」ひとりの生徒が章子に質問をした。


「ああ、これね。この紙袋はね、桜坂さんを、女の子よりも女の子らしくするものがはいっているの。桜坂さん、こっちに来なさい」

章子に来るようにいわれた歩は、イヤイヤながら章子のところに来ると、

「桜坂さん。はやくここに来なさい」章子はつよい口調でいった。

「桜坂さん。これは、私からのプレゼントよ。受け取りなさい」


歩は、章子から紙袋を受け取った中身を見た。紙袋の中には、文房具とマンガと雑誌がはいっていたが、女の子向け、それも小学生が読むようなものばかりだった。


「先生、これは……」


「桜坂さんは、女の子のように『わたし』と、わざといわないようにしようとしてるよね」


歩は言い返せなかった。章子のいうように、意識して『わたし』といわなかったからである。

これは、歩の、小さな反抗だったのである。

「桜坂さんは、今から『わたしは〜』とはいわず『歩は〜』ということ」


「そんな、小さい女の子みたいな……」


「そうよ。歩ちゃんは小さい女の子になるのよ。私がいったでしょ。歩ちゃんを女の子よりも女の子らしくするには、クラスのみんなからは同い年ではなく、年下の女の子として歩ちゃんは扱われるの。だから、これからは、桜坂さんとは呼ぶのではなくて、歩ちゃんと呼ぶように。みんなわかりましたね」


章子がいったので、クラスのみんなは、はいと返事した。章子に逆らったりしたらなにをされるか、みんなわかったのである。


「今日はここまでですけども、歩ちゃんと滝沢さんと山口さん。それと柴咲くんは残ってね」




歩たち四人は、章子の前にきた。四人がならぶと、歩の背の低さが目立った。


「こうして見ると、歩ちゃんは、中学生にはみえないわね。あなたたちもそう思うでしょ」

章子は恭子たち三人にいったが、三人は黙ったままだったので「あなたたちがそんな態度にでるならば、歩ちゃんがどうなってもいいの」、と章子は脅迫じみたようにいった。


恭子と志保は、歩が章子になにされるかわからないので、しかたなしにいった。

「歩ちゃんは、とても、かわいいと思います……」恭子がいうと、志保も続けて「わたしと同い年とは、とてもおもえないです……」といった。


「そうよねぇ。滝沢さんや山口さんのいうとおり、歩ちゃんは、かわいらしい女の子ね。柴咲くんもそうでしょ」


「それは……、えっと、その……」鉄也は、いきなり章子にいわれたので、しどろもどろにいった。

実をいうと鉄也は、恭子や志保とちがって、歩をかわいらしく見えた。

鉄也と歩は、恭子や志保に兄妹みたいね、とからかわれた。最初は鉄也は怒ったが、歩を見ていると、なんだか守ってあげたいという気持ちになってきた。


「柴咲くんは、男の子だけど女の子になった歩ちゃんのことがかわいいと思うようになったのね」章子に指摘され、鉄也の顔は赤くなった。


「柴咲くんは、歩ちゃんのことをどう思うの」


「先生。オレ、ほんとうのことをいうと、歩のことを弟みたいに思ったんだ」


「鉄也、それって……、どういうこと……」歩はいった。


「歩を入学式のときに見たんだ。クラスがいっしょになり、席も近かったから、すぐ仲良くなった。歩はいつもオレの後ろについてきた。オレの弟みたいに。それが、健気に見えてきたんだ」


「そうだったの。でも歩ちゃんが女の子になったらどう思ったの。柴咲くん」


「なんか、弱々しく見えたんだ。だから……、だから今度は、歩を守ってあげたいんだ」鉄也はいいおわると、歩は泣きだしていた。

「鉄也が、こんなに思ってくれて……、歩……、うれしくて……」泣きながら歩がいうと、鉄也はもっていたハンカチを、歩にわたした。それを見た章子は、歩にいった。


「ねぇ歩ちゃん。柴咲くんを鉄也と呼ばないで、鉄也お兄ちゃんと呼んだらどうかしら」


「ち、ちょっとまってよ先生……」


「あらいいじゃない。柴咲くん」


「そうよ鉄也。ほんとうは歩ちゃんに鉄也お兄ちゃんと呼んでほしいのでしょ」

「恭子に志保。そういっても、歩はどう……」


「鉄也お兄ちゃんと呼んでいいの……。だったら、歩のことを歩ちゃんと呼んでね。鉄也お兄ちゃん」




歩は、鉄也のことを鉄也お兄ちゃんといった。

新しいお兄ちゃんができたので、歩はうれしかった。


第十四話を終りました。評価/感想などをまっています。どんなことでもいいです。どうぞよろしくお願いします。

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