第十三話:女の子になって二日目。
次の日の朝。歩が着替えていると、ドアのベルが鳴る音がしたので、瞳は玄関にむかった。
「歩ちゃん。お友達が来たから、はやくしなさい」
「もうすぐいくから」歩は制服のリボンを結ぶのに手間取っていた。鏡にうつる女の子の制服姿に、歩はまだ慣れていなかった。
「ママ、おそくなってゴメンなさい」歩は瞳にあやまった。
「昨日、お姉ちゃんとなにをしていたの」
「唯姉さんに、いろんな服を着せられて……」歩は昨日の夜遅くまで、唯に着せ替え人形のように色々な服を着たのだった。
唯は、この前まで生意気だった弟の歩より、素直な妹になった歩をとても可愛がった。
「まったく、唯にも困ったものね……。でも、歩ちゃんも楽しんだのでしょう。どうだった、お姉ちゃんの服を着た感想は」
「唯お姉ちゃんは、カワイイといってくれた……」
「今度は、ママにも見せてね。それじゃ、歩ちゃんいってらっしゃい」瞳は、歩を見送った。
玄関をでると、歩をまっていたのは、恭子と志保、そして鉄也だった。恭子と志保は、眠たそうな顔をしていた。
「どうしたの。そんな顔をして……」歩は恭子と志保にいった。
「おはよう、歩ちゃん。ゴメンねぇ。まだねむくてしかたがないの……」
「わたしもなのよ。夜遅くまで、レポート書いてたから……」
どうやらふたりは、徹夜して反省文を書いたので、寝不足のようだった。
だからだろうか。ほとんどフラフラな状態だった。
学校にいく途中、恭子は歩のリボンが乱れているのを見て、「なおしてあげる」といったが、恭子は寝ていないためか、手元がおぼつかなくてリボンがうまく結べなかった。
「オレに貸してみろ」
恭子の手際がわるいのか、鉄也は恭子の代わりに歩のリボンを結ぼうとした。
「鉄也ったら、いいよ。ひとりで出来るから」歩は断った。
「あらだめよ、歩ちゃんはまだひとりで、リボンを結べないから。ほんとうはわたしがやりたいけど……」
「志保とわたしは、ほとんど寝てないから、歩ちゃんのリボンをキレイにできないから、かわりに柴咲くんにやってもらって……」
「そういうわけだ。歩、うごくなよ」歩は、鉄也のいうとおりにした。
鉄也は、慣れない手つきながらも、歩のリボンを結んでいてた。
「なんだか、ふたりを見ていると、兄妹みたいに見えるよねぇ」志保はいった。
「歩ちゃんが妹で、鉄也がお兄ちゃんなのね」
「おいおい、そんなこというなよ……」恭子のいったことに鉄也は照れていて、歩ははずかしそうに顔を真っ赤にしていた。
「ほら、出来たぞ」
「柴咲くん。うまく結んでいるわね」
「さすが、歩ちゃんのお兄ちゃんね」
「いい加減にしろよ」鉄也は、恭子に怒ったようにいったが、本気で怒ったように見えなかった。
「歩ちゃんも、新しいお兄ちゃんが出来てうれしいでしょ」歩は、志保にいきなりいわれて、おもわず「はい」と答えてしまった。
「歩ちゃんは素直だから、正直に答えちゃって。鉄也も歩ちゃんを見習ったらどう」
「いい加減にしろよ。オレは先にいくからな」
そういって、鉄也は先にいってしまった。歩は、返事をしたので鉄也を怒らせたのではと思った。
「柴咲くんは怒ってなんかいないわよ」志保は歩にいった。「ほんとうは、すごくうれしいのよ」
「うれしいって……」
「だって、こんなにカワイイ妹ができたのよ。柴咲くんは、照れているのよ」志保は、歩の頭をなでた。それは、ちいさい子をあやすかのように。
歩は気付かなかったが、歩は徐々にだが、女の子になじんできた。
だからだろうか。生まれたときから女の子だった恭子と志保は、歩が昨日よりも女の子らしくなっているのがわかったのである。
「……まあ、これでいいでしょう。滝沢さんとは別々にだしたのは、昨日の反省を踏まえたわけね」提出した反省文を見た章子は、志保にいった。
恭子と志保は、昨日みたいなことが、歩の身に起こらないために別々に反省文を提出したのである。
「ほかに、なにか変わったことはなかったかしら。山口さん」章子は、志保に聞いた。志保は今朝のことを詳しく話した。
志保のはなしを聞いて、章子は、あることを思いついた。
昨日、歩に女の子より女の子らしくさせるといったけど、どうしたらいいかわからなかった。でも、志保に今朝のことをはなしてくれたので、章子はあるアイデアが浮かんだのである。
「ありがとう、山口さん。あなたのおかげで、桜坂さんをより女の子らしくさせることが出来るわ」章子が笑顔でそういうと、志保は思った。章子先生には、逆らわないようにしようと……。
「わたし、柴咲くんと歩ちゃんにあやまらなければならないの」教室にもどった志保は、席についていた歩と鉄也にあやまった。
「志保、いったい、どういうことか説明してよ」
「実は……」志保は、今朝のことを章子にしゃべったこと。それと、章子が歩をより女の子らしくさせるアイデアが浮かんだことをいった。
「いったい、どんなことをするの……」歩は、怯えた顔をした。「まだこんなことがつづくのかなぁ……」
章子のアイデアで、歩は女の子よりも女の子らしくされることになるが、これはまだはじまったばかりだった……。
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