本の紹介52『芸術家の奇館』 デイヴィッド・ハンドラー/著
小さな村で起こった爆破事件。映画評論家と駐在のコンビが謎に挑む。
コネティカット州のドーセットという小さな村を舞台にしたシリーズものの2作目で、主役を張るのは映画評論家のミッチ・バーガー、村の駐在で女性警官のデジリー・ミドリーのコンビです。
性格や生活習慣、趣味嗜好の異なる二人の駆け引きや恋の進展がシリーズを牽引する魅力の一つですが、ドーセットという小さなコミュニティで繰り広げられる複雑な人間模様、綺麗事だけでは済まされない様々な問題をユーモラスに描く筆致が特筆すべき点かと思います。現実感のある描写が物語への没入感を助けてくれるということを実感させてくれます。
ミッチはピンク色の奇抜な家に住む有名な現代芸術家と知り合いになるのですが、ある日、その芸術家と縁のある人物が何者かに車ごと爆殺されるという事件が発生します。
痴情のもつれによるものと思われた事件に、芸術家が保有する資産、村の土地の利権問題、教育委員会内の権力闘争など様々な要素が絡み合って、事態は混迷を極めることになるのですが、最後にはスッキリと一つの線につながる構成の巧みさが光ります。
序章が被害者の主観で進行し、被害者が殺害されるところで幕を閉じ、時間を遡って物語の第1章が始まります。次々に現れる登場人物のうち、序章で死亡したのは誰なのか、被害者を手にかけたのは誰なのかを考えながら読み進めることになるのですが、中々のどんでん返しがあります。
ハンドラーは主観の描写で読者を罠にかけることが上手い印象があるのですが、読み手側の先入観の隙をつく洞察力の賜物だと感じます。
ミッチはニューヨークで売れっ子の映画評論家なのですが、若くして奥さんを病気で亡くし、傷心のために仕事が滞っています。デジリーは警官としての将来を嘱望されながらも、とある事件をきっかけに第一線の現場から外されたという苦い経験をしています。屈折を抱えた二人が惹かれあい、お互いの過去を乗り越えながら、事件の解決のために奔走する姿が描かれます。
映画評論家という設定を活かし、ミッチが実在の映画やドラマ作品などを引き合いに出すのシーンも面白く、言及された作品を観たくなり、古い作品のソフトを探しに行ったことが何度かあります。端的な描写なのですが、妙に人を惹きつけるのです。
本作で思わず吹き出してしまったのは、とある人気テレビシリーズが映画になったことについて言及するシーンで、「テレビでは、シリーズが大ヒットした。すごく内容があった。それでやめときゃよかったんだ。『アヴェンジャーズ』と同じさ。ぞっとするほど下らなかった。1週間で忘れられたよ」というセリフです。例えの納得感が凄まじくないですか。終わり




