またねのその先で
霜月透子さま、鈴木りんさま主催のひだまり童話館「またねの話」参加作品となります。
よろしくお願い致します。
コツンって頭に何かがあたったの。
痛いな〜って上を見たら、桜の木の枝の奥に小さくてきれいなさくらんぼを見つけた!
取りたいって思ったら、
「ごめん!」
って声が聞こえてきたんだ。
後ろを向いたら、地面にクツが片っぽだけ落ちていて……。
そして、わたしと同じ小学一年生っぽい男の子が走ってきたんだ。
「痛い? ほんとごめん!」
なんか、わたしの頭に当たったのは、あっちにあるブランコから飛んできたクツみたい。
小さい神社の前にあるもっと小さい公園だもん。
クツとばしなんてしたら、そりゃ当たるよ。
でも、くりっとした目の上にあるまゆげをおもいっきりハの字にして謝ってきたから、
「痛かったけど、いいよ〜」
って許してあげたんだ。
それよりも、さっき見つけたさくらんぼの方が大事だ!
あそこなら、少し木にのぼれば取れる!
わたしは急いで木に足をかけると、太い枝に足をのせたんだ。
そしたら、その足がすべっちゃった!
「わぁ!」
「あぶない!」
バランスを崩して落ちそうになったら、さっきの男の子がパッてわたしの方へ飛びついたの。
木と男の子のからだにはさまったおかげで、わたしは落ちなかったんだ。
「うわぁ、ありがとう」
「いいよ。でもおっきい木にのぼるのってあぶなくない?」
「でも、あのさくらんぼがきれいなんだよね」
わたしがそう言ったから、一緒に並んでその上にあるさくらんぼを見たの。
そしたら、
「あ、シロだ!」
急に、いつも神社の屋根で寝ている水色の目の白猫がきたからついわたし、叫んじゃった。
しかも、枝をたーって走っていったから、それでそのさくらんぼがポトリって落ちたんだよね。
「シロがおとしたー! アハアハ」
「ほんとだしー! アハアハ」
わたしと男の子は面白くなって同時にむちゃくちゃ笑っちゃった。
「あの猫、シロって言うの?」
「分かんないけど、白いからシロってみんな呼んでるよ。ねえねえ、一緒に遊ぼうよ」
「うん、いいよ」
それから二人でたくさん遊んだんだ。
落ちているさくらんぼを潰したり、ブランコのクツとばしで競争したり、滑り台を反対からのぼり競争したり——。
もう、すっごいすっごい楽しかったの!
ずっと二人で遊んでいたいくらい。
でも、夕方になってママが迎えに来ちゃったんだ。
「また遊ぼうね! ぜったいに!」
「うん! ぜったい、ぜ〜ったいだからね!」
そう約束したわたしと男の子は、公園の入り口で、手をうんとう〜んと振って最後は大きい声で言ったんだ。
「またね〜」
「またね〜」
でも、その約束を守る事ができなかったんだ。
このあとすぐに、お別れも言えないまま、わたしは引っ越してしまったから……。
〜♢〜♢〜
それから数年後の早朝。
春休みなのに、私はふいに目が覚めて布団の中でぼんやりしていた。
(またあの時の夢、見ちゃった。そんなに心残りなのかな私は)
数日前、パパの転勤期間が終わってまたこの町に戻ってきた私は、1週間後の入学式で中学生になる。
とりあえず、目が冴えてしまったからベッドから出ると伸びをした。
そのまま窓のカーテンを開いてみると、二階の部屋の窓から遠く桜の花が満開になっているのが見えたのだ。
「あれは、あの神社の桜……。綺麗だね〜見に行こうかな」
誘われるように家を出た私は、日の出前の藍色に染まる景色の中を足早に進んでいった。
春先のひんやりした空気でマフラーに顔を半分うずめていると、すぐに公園の入り口が見えてきたのだった。
「わあ、花がすごいね〜。写メ撮ろ〜」
朝の静けさの中にたたずむ華やかな桜の存在に感動しながら、スマホを向けたその時だった。
画面の奥にある神社の屋根の上で、真っ白な何かが映っている。
「あっ、シロ!」
その声に反応したのか、毛糸玉のような丸からにょっと顔が持ち上がったのだ。
スマホを下ろしたのと同時に、シロが神社の屋根からひらりと降りてきた。
そして着地したポーズのまま止まると、その水色の瞳をカッと開いて私をじっと見つめたのだ。
「おひさ〜シロさん。元気〜?」
ひらひらと手を振って話しかけたせいか、シロは顔をこちらに向けたまま、つつっと少し歩いてまたじっと見てくる。
「昔、一緒に遊んだじゃ〜ん。そんなに警戒しないでよ〜」
まあ、鬼ごっこだけどね。
あの綺麗でつやつやな白い毛を全力で追いかけていた頃を思い出していると、シロさんがととっと歩いて振り向いて、またじっと見つめてくる。
「なになに? また鬼ごっこするの? いいよ〜」
私はポケットにスマホをねじ込むと、不敵な笑みを浮かべ、両手をひらひらさせてタッと走り出した。
ツンとした顔でシロもまた走り出す。
「まてまて〜ふふ〜」
早朝とはいえ車に気をつけながら、私は楽しくなって追いかけた。
真っ白な輝きが公園から出て素早く小道を横切り、ヒョイッと塀の上にあがる。突き出た庭木の枝を飛び、垣根の間を潜ってしまった時は一瞬だけ見失ったが、すぐに奥の垣根からひょっこりジャンプして出てきた。
そんな事を繰り返していた時、シロが曲がり角の向こうに消えてしまったので、私は急いでその角を曲がってみると——。
「おっ、シロさんじゃないか。おはよー」
するとそこに、ランニングウェア姿の男の子が、走りをやめて足を止めているシロに話しかけていたのだ。
(あ、あの人って!)
慌てて急ブレーキをかけた私に気がついた男の子が、こちらを向いた。
くりっとした形が変わっていなかったので、その瞳をみてすぐに気がついたのだ。
(あの子だ! 絶対にそうだ!)
確信したとたん、私の胸が急にドキドキしてきてしまった。
(どうしよう、私のことなんて覚えていないよね。いっかいしか遊んでないし、そもそも名前も聞き忘れていたんだから……)
緊張して立ち尽くしたまま、内心でまごまごしている私を、男の子は目をぱちぱちさせて見ていたけど……。
次にはふわりと笑ったのだ。
「久しぶりだね」
あっと私は驚いてしまった。
(覚えてくれていたんだ!)
もう、もう、それだけで、どうしようもなくドキドキする!
嬉しくてしょうがない私は、日の出のオレンジ色に負けないくらい明るく元気な笑顔で、男の子に向かって言葉を返していたのだった。
「また会えたね!」
読み手として訪れておりました「ひだまり童話館」が、このたび休館されるとの事で、またねのその先に願いを込めました。
またいつの日か扉が開きますように。
たくさんの素敵なご企画をありがとうございました。




