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『このゲームには秘密がある』 ~君が目覚めるまでのクエスト~  作者: 月祢美コウタ


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9/17

第9話「高熱のベッドと、場違いな聖騎士(パラディン)」

お読みいただきありがとうございます。

今回から新章突入です。

舞台はRPGから、VR格闘ゲームへと移ります。

しかし、そこにも「アーカーシャ」の影は伸びていました。

ピー、ピー、ピー……。

規則的な電子音が、静まり返った廊下に響いている。

「……こちら、救急隊です。搬送先、確保できました」

「はい。かかりつけのカルテがある『総合病院』へ向かいます」

私は、ストレッチャーに乗せられていく九条の蒼白な顔を見下ろしながら、呆然と立ち尽くしていた。

数十分前。

ゲーム内で「白い病室」を見た直後、九条は現実世界で高熱を出して倒れた。

有馬の迅速な通報で救急車が来たのだが……。

「……また、ここなの?」

搬送された先の病院を見上げ、私は背筋が凍る思いがした。

そこは、九条が毎日通っていた場所。

そして、あのゲームの中で見た「実験場」のモデルになったと思われる場所。

(上の階には、植物状態のお爺ちゃん。下の階には、意識不明の九条……)

まるで、九条家の人間を飲み込む巨大な棺桶みたいだ。

『……部長。今日は帰ってください』

スマホから、有馬の沈痛な声が聞こえる。

『九条先輩のバイタルは安定しましたが、意識が戻りません。脳への負荷が限界を超えています。……今は、休ませてあげましょう』

「……うん」

私はガラス越しに、集中治療室の九条を一目だけ見て、病院を後にした。

その横顔は、ゲーム内で見た「ナイン」の強さはどこにもなく、ただの傷ついた少年のものだった。


【珍獣へのオファー】


それから、3日が過ぎた。

九条はまだ学校を休んでいる。

私は一人で昼食のパンをかじりながら、憂鬱な気分で窓の外を眺めていた。

「もぉー、マツ君ったらー。くっつきすぎだってばぁ♡」

「いーじゃん、エリ」

教室の一角から、甘ったるい声が聞こえてくる。

クラスでも目立つ「清楚系ギャル」の高木たかぎ絵里と、彼氏の松田だ。

見た目は黒髪ロングで優等生っぽいのに、中身はゴリゴリのギャルで、彼氏の前では猫なで声。

正直、今の私には一番キツイ空間だ。

「あ、そーだ。ちょっと待っててマツ君♡」

高木が彼氏から離れ、私の席に近づいてきた。

「ね、二階堂ー」

私に向ける声は、さっきまでの甘さは消え、完全に「女友達(というか格下)」へのトーンだ。

「あんさー、今週末暇でしょ? 『バレット・アーツ』の大会、出てくんない?」

「はぁ? なんで私?」

『バレット・アーツ』。

今、流行りの3on3形式のVR格闘ゲームだ。

でも、私はRPG勢(というよりガチャ勢)だし、アクションなんて無理だ。

「マツ君と出るんだけどさー、あと一人足りないのよ」

高木が私の机に手をつき、ヒソヒソと言う。

「男子入れるとマツ君がヤキモチ焼くし、可愛い子入れると私が気遣うじゃん? 空気悪くなるのヤダしー」

「……で?」

「その点、二階堂なら安心っていうか……ほら、『無害』だし!」

高木は悪気ゼロの笑顔で言い放った。

「……つまり、私は恋愛対象外のサンドバッグってこと?」

「あはは! まーまー! 参加賞で『限定スイーツチケット』あげるからさ!」

「……スイーツ?」

私の金欠センサーと甘味センサーが同時に反応した。

それに、ちょうど昨日、有馬から言われていたのだ。

『部長。その大会に出場するプレイヤーの中に、被験体の生き残り「No.4」がいる可能性があります。接触してデータを取ってください』

サンドバッグついでにスパイ活動。

報酬はスイーツ。

「……仕方ないなぁ。いいわよ、出てあげる!」

「っしゃ! さっすが二階堂! 話早くて助かるー! マツ君、OKだってー♡」

高木は私の肩をバンバン叩いて、すぐに彼氏の元へ戻っていった。

……覚えてなさいよ、このリア充め。


【場違いな聖騎士】


そして、大会当日。

VRスタジアムの控え室。

「おーい二階堂、遅いよー。早く着替えて……えっ?」

ログインした私を見た瞬間、高木と松田の動きが止まった。

二人は近未来的なサイバースーツ(お揃いのカップルコーデ)で決めている。

対して、光の中から現れた私は――。

純白のフリルがついたドレスアーマー。

背中には優雅になびくマント。

腰には(中身はないけど)剣帯。

完全に、ファンタジーRPGの「聖騎士パラディン」スタイルだった。

「……何その格好。空気読めなすぎじゃない? ウケるんだけど」

高木がドン引きしながら笑っている。

「コ、コスプレ大会だっけ……?」

松田も苦笑いだ。

「ち、違うの! 勝手にこのデータになっちゃって……!」

私は慌ててメニューを開くが、「装備変更」のボタンがグレーアウトして押せない。

『……部長、聞こえますか』

有馬の冷静な声が脳内に響く。

『データ解析しました。そのアバター、RPGのデータを無理やり引っ張ってきてます。システム的にあり得ないバグですが……好都合です』

「どこがよ! めちゃくちゃ浮いてるじゃない!」

周囲のプレイヤーからも「うわ、痛いのがいる」「魔法でも撃つ気か?」とクスクス笑われている。

『その姿なら、RPGでのステータス補正が働くかもしれません。……行きますよ、第1試合始まります』


【覚醒の先鋒戦】


「先鋒、二階堂! とりあえず10秒稼いで死んでこい!」

高木に背中を叩かれ、私はリングの中央に転送された。

対戦相手は、全身を機械化したようなゴリゴリの巨漢サイボーグ

「へっ、なんだそのヒラヒラした服は。ナメてんのか嬢ちゃん」

相手が巨大な金属の拳をパチン、と鳴らす。

「ひっ……!」

私は反射的に腰に手を伸ばした。

「け、剣! ナインの剣は!?」

スカッ。

虚空を掴む。何も出ない。

『ダメです。武器データだけはシステムに弾かれてます。素手で戦うしかありません』

「嘘でしょ……私、素手で喧嘩なんてしたことないのに!」

「オラァッ! 消えな!!」

相手が踏み込む。

丸太のような右ストレートが、私の顔面めがけて放たれた。

速い。

当たれば即死(K.O.)だ。

「あーあ、二階堂死んだわ」

ベンチの高木が呟くのが聞こえた。

私もそう思った。

ギュッ、と目を瞑りかけた、その時。


ザザッ……。


視界にノイズが走り、世界の色が灰色に変わった。

迫り来る巨大な拳が、泥の中を進むように遅く見える。

(……遅い)

私の思考ではない。

私の脳に焼き付いた、あの「最強のプレイヤー」の感覚が、勝手に起動する。

剣はない。

なら、どうする?

(――この手が、剣だ)

私の体は、思考するよりも速く動いていた。

フワリ。

ドレスの裾を優雅に翻し、最小限のステップで拳を回避する。

「は……?」

相手の拳が空を切る。

私はそのふところに、滑るように入り込んでいた。

右手を刀のように真っ直ぐ伸ばし、構える。

「……ナインなら、こう動く」

私は、見えない剣を振り下ろす軌道で、相手の顎に鋭い掌底を叩き込んだ。


新章スタートです!

清楚系ギャル高木さんの「無害」認定、なかなかグサッときますね。

なぜかRPGの衣装のまま、格闘ゲームに参加することになった玲奈ですが……?


次回、覚醒した玲奈の「50人抜き」が始まります。

ナインの動きをインストールした彼女は、もう「無害」ではありません。


「続きが楽しみ!」「高木ざまぁ展開期待!」と思っていただけたら、

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