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『このゲームには秘密がある』 ~君が目覚めるまでのクエスト~  作者: 月祢美コウタ


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8/16

第8話「バグだらけの神殿と、白い病室」

お読みいただきありがとうございます。

今回は少しホラーな展開になります。

ファンタジー世界にあってはならない「異物」が登場します。

「……なに、これ」

夜のログイン直後。

神殿の内部に足を踏み入れた私は、思わず声を漏らしていた。

そこは、さっき足を踏み入れた神殿の奥のはずだった。

石造りの壁、苔むした床、魔力を帯びた青い松明。

しかし、その光景のあちこちに、奇妙な「ノイズ」が走っている。

まるで、接触不良のテレビ画面のように、景色がザザッ、と砂嵐に書き換わるのだ。

『……部長、気をつけてください』

インカム越しの有馬の声も、どこか遠く、ノイズ混じりに聞こえる。

『このエリア、マップデータが存在しません。いえ、正確には「壊れて」います。無理やり別のデータを継ぎ接ぎしたような……』

「別のデータ?」

私が尋ねようとした時、九条が足を止めた。

「……おい。あれを見ろ」

彼が指差した先。

通路の瓦礫の山に、場違いなものが埋もれていた。

「え……?」

錆びついた剣でも、宝箱でもない。

銀色の金属ポールと、プラスチックの車輪。

それは、現実世界リアルの病院で見かける「点滴スタンド」だった。

「なんで……こんなところに点滴が?」

ファンタジーの世界観をぶち壊す、無機質な現代の遺物。

それが石壁にめり込むようにバグって(グリッチして)存在している。

寒気がした。

ここは、ただのゲームのマップじゃない。

誰かの記憶か、あるいは悪夢の中なんじゃないか。


【徘徊するノイズ】


『……警告。接近反応あり』

有馬の鋭い声。

通路の奥から、ズルズルと何かを引きずるような音が近づいてくる。

「構えろ、二階堂」

九条が剣を抜く。

しかし、その手はわずかに震えていた。

現れたのは、モンスターではなかった。

いや、かつてモンスターだった「何か」だ。

輪郭が定まらず、黒いノイズの塊となって明滅している人型。

テクスチャが剥がれ落ち、中身のワイヤーフレームが剥き出しになっている。

「な、なにアレ……気持ち悪い……」

生理的な嫌悪感が胃からせり上がってくる。

『……クスリ……』

不意に、ノイズの塊から声がした。

獣の唸り声じゃない。

機械音声で合成されたような、無機質な日本語。

『……クスリ……ハ……ドコ……』

「ッ!?」

九条が息を呑む。

私もギョッとして彼を見た。

その声は、第1話で出会ったあの「老戦士(祖父)」の声に、酷く似ていたからだ。

「まさか……爺さんなのか?」

九条が動揺しながら一歩踏み出す。

「九条、だめ! 近づかないで!」

私の制止も聞かず、彼は剣を振り下ろした。

しかし。

ブンッ。

剣はノイズの体をすり抜け、虚しく空を切った。

「なっ……!?」

物理判定がない。

『……イタイ……クルシイ……』

ノイズが悲鳴を上げ、黒い霧のような腕を伸ばしてくる。

その腕が九条の体に触れた瞬間。

「がぁぁぁぁっ!!」

九条が絶叫して膝をついた。

HPバーは減っていない。

なのに、彼は頭を抱えて激しくのたうち回っている。

精神汚染マインドハックです!』

有馬が叫ぶ。

『ダメージじゃない! 脳に直接「苦痛」の信号を送ってきてます! 部長、そいつと戦っちゃダメだ! 逃げてください!』

「九条! 立つってば!」

私はのたうち回る九条の襟首を掴み、無理やり引きずった。

「うぁぁぁ……あぁぁ……」

九条の瞳孔が開いている。

現実で見えている「NPCカーソル」と、目の前の「祖父の声」。

虚構と現実の境目が崩壊し、彼の精神を蝕んでいるのだ。

「しっかりしなさいよ! あんたがイカれたら、誰が私を守るのよ!」

私は涙目で叫びながら、めちゃくちゃにアイテムを投げつけた。

しかし、『床ワックス』も『激辛スパイス』も、すべてノイズをすり抜けてしまう。

「嘘でしょ……物理無効なんて聞いてないわよ!」

『部長! 右の扉です!』

有馬の指示が飛ぶ。

『そこの部屋だけ、データが安定しています! そこに逃げ込んで!』

私は九条を抱えて、死に物狂いで右側の鉄扉に飛び込んだ。


【被験体No.9】


バタンッ!

扉を閉め、背中でロックする。

外からは、あの『……クスリ……』という呻き声と、扉を引っ掻く音が続いているが、入ってくる気配はない。

「はぁ、はぁ……九条、大丈夫?」

私は床に座り込んだ九条の顔を覗き込んだ。

彼は顔面蒼白で荒い息をしていたが、焦点はようやく定まってきたようだ。

「……悪い。不覚を取った」

「ほんとよ……死ぬかと思った」

私は安堵のため息をつき、顔を上げた。

そして、息を呑んだ。

「……ここ、どこ?」

そこは、石造りの神殿の中ではなかった。

白い天井。

消毒液の臭い。

窓から差し込む、夕暮れのオレンジ色の光。

パイプベッドに、心電図モニター。

そこは、紛れもなく「現代の病室」だった。

「……爺さんの、病室だ」

九条が、ふらつく足で立ち上がり、呆然と呟く。

「俺が毎日通っている……現実リアルの病室と、同じだ」

なぜ、ゲームの中に現実の場所があるのか。

侵食は、一方通行じゃなかった。

ゲームが現実を変えるように、現実の記憶もまた、このゲームを形作っている。

「……九条、これ」

私は、ベッドサイドのテーブルに置かれた一枚のカルテ(クリップボード)に気がついた。

古びて黄ばんでいるが、文字は読める。

そこには、無機質な明朝体でこう記されていた。


『プロジェクト・アーカーシャ 臨床実験記録』


そして、その下の被験者名欄を見て、私の心臓が凍りついた。


『被験体No.9 : 九条 蓮』


「……え?」

九条が私の手からカルテを奪い取る。

彼の手が小刻みに震えている。

「なんだよ、これ……。俺が、被験体……?」

彼は何も知らなかったようだ。

祖父を救うためにプレイしていたはずのゲーム。

しかし、その実験台として名前が刻まれていたのは、祖父ではなく、九条蓮自身だった。


『……ようこそ。適合者アダプター


不意に、病室のスピーカーからノイズ交じりの放送が流れた。

それは感情のない、合成音声。

『お待ちしておりました。9番目のサンプル』

白い病室が、夕日に赤く染まっていく。

私たちは踏み込んでしまったのだ。

ただの都市伝説だと思っていた、この世界の「本当の姿」に。

ホラー回でした。

物理攻撃が効かない敵、そして突如現れた「現実の病室」。

九条自身が実験体だったという衝撃の事実が判明しました。


「1〜8」はどこへ行ったのか?

そして「プロジェクト・アーカーシャ」とは?

謎が深まる中、物語は急展開を迎えます。


「続きが気になる!」「ゾクッとした」と思っていただけたら、

下にある【☆☆☆☆☆】マークで評価していただけると嬉しいです!

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