第6話「ガラクタたちの逆襲」
お読みいただきありがとうございます。
前回、絶体絶命のピンチに陥った玲奈と九条。
インベントリの「ゴミ」たちが、奇跡を起こします。
「死なない! アタシの運をナメないで!」
私は叫びながら、手に握りしめていた「瓶」を思い切り地面に叩きつけた。
ガシャンッ!!
ガラスが割れる音と共に、中身の白い液体がブチ撒かれる。
『スベスベ床ワックス』。
ハズレガチャで100個くらい出た、正真正銘のゴミアイテムだ。
「ギャッ?」
先頭で突っ込んできたガーゴイルが、着地した瞬間に足を滑らせた。
ズデーン!!
漫画のような派手な音を立てて転倒し、そのまま勢い余って後ろの壁に激突する。
「ギ、ギャァァ……?」
後続の2体も、ワックスまみれの床に着地できず、空中でオロオロとホバリングした。
「よしっ! まず10秒!」
私はガッツポーズをするが、すぐに足元がツルッと滑った。
「わっ、きゃあっ!」
ドスン。
尻餅をつく。痛い。
でも、これでいい。このエリア一帯は、もう立って歩ける場所じゃない。
『部、部長……すごい……』
有馬の呆然とした声が聞こえる。
『あのワックス、摩擦係数をゼロにする効果が……まさか、それを妨害に使うなんて』
「偶然よ! たまたま手に触れただけ!」
私は這いつくばったまま、次のアイテムを探る。
敵は空中にいる。ワックスだけじゃ凌げない。
「ギシャァァァッ!!」
ホバリングしていたガーゴイルたちが、痺れを切らして急降下してくる。
鋭い爪が迫る。
怖い。心臓がうるさい。
でも、背中の九条を守らなきゃ。
「これでも食らえぇぇぇ!」
私は赤い袋を空中に放り投げ、同時に『パーティ用クラッカー』を鳴らした。
パンッ!!
破裂した袋から、毒々しい赤色の粉末が爆散する。
『超激辛スパイス袋』。
料理に使うと「食べると3分間火を吹く」というネタアイテムだ。
それがクラッカーの爆風に乗って、ガーゴイルたちの目と鼻を直撃した。
「ギャッ! ギ、ギャァァァァッ!?」
ガーゴイルたちが目を押さえてのたうち回る。
「げほっ、ごほっ!」
当然、近距離にいた私にも被害が及ぶ。
目と喉が焼けるように痛い。涙が止まらない。
「うぅ……痛い……もう帰りたい……」
私は涙目で、めちゃくちゃにアイテムを投げ続けた。
目覚まし時計、ヌルヌルローション、バランスボール。
ありとあらゆる「ゴミ」が、迷宮の通路をカオスな空間に変えていく。
【エースの帰還】
『残り10秒! 九条先輩の麻痺、もうすぐ解けます!』
有馬が叫ぶ。
あと少し。あと少しだ。
しかし――。
「グルルルゥ……!」
スパイスの煙を抜けて、1体のガーゴイルが突っ込んできた。
目が真っ赤に充血し、殺意に狂っている。
「ひっ……!」
アイテム切れだ。もう投げるものがない。
いや、一つだけある。
私はインベントリの底にあった、ドス黒い液体の入った瓶を掴んだ。
『賞味期限切れポーション』。
回復するか、毒になるか、爆発するか。効果は完全ランダムのギャンブルアイテム。
「お願い、いい効果出て!!」
私は祈りを込めて、ガーゴイルの大きく開かれた口の中に、瓶ごと放り込んだ。
ガリッ。
ガーゴイルが瓶を噛み砕く。
一瞬の静寂。
そして――。
ボォォォォォォッ!!
「ガッ!?」
ガーゴイルの口から、凄まじい勢いで「炎」が噴き出した。
どうやら「火炎放射」の効果を引き当てたらしい。
「やった……!」
と思ったのも束の間。
バックファイアの勢いで吹き飛んだガーゴイルの、太い尻尾が私を薙ぎ払った。
「がはっ……!」
横腹に重い衝撃。
私はボールのように壁まで吹き飛ばされた。
息ができない。肋骨が何本か逝ったかもしれない。
視界が霞む。
「あ……」
倒れた私の前に、別のガーゴイルが舞い降りる。
爪を振り上げている。
もう、動けない。
(ごめん、お爺ちゃん……ここまで、みたい)
私はギュッと目を閉じた。
ヒュンッ。
風を切る音がした。
いつまで経っても、痛みは来なかった。
「……よく耐えた」
頭上から、静かな声が降ってきた。
目を開ける。
そこには、ボロボロの灰色のマントがあった。
ガーゴイルの首が、音もなく地面に落ちる。
「く、九条……」
彼は私に背を向けたまま、使い込まれた鉄の剣を構えた。
全身、毒で変色している。HPバーは残り1ミリ。
触れれば即死の瀕死状態。
だが、その背中からは、先ほどまでの悲壮感は消えていた。
代わりに立ち昇るのは、圧倒的な強者のオーラ。
「ここからは、俺の番だ」
九条が消えた。
いや、速すぎて目に見えない。
銀色の閃光が、暗闇を幾重にも切り裂く。
ギャッ、という断末魔さえ上げる暇もなく。
残りのガーゴイルたちが、次々とポリゴンとなって爆散していく。
たった3秒。
制圧完了。
【相棒への昇格】
静寂が戻った通路で、九条は剣を納めた。
「……ふぅ」
短く息を吐き、膝をつく。
やはり限界ギリギリだったようだ。
「く、九条! 大丈夫!?」
私は痛む体を起こして、這うように彼に近づいた。
怒られる。
私の慢心のせいで、彼はこんなボロボロになって。
私が余計なことをしなければ、無傷で勝てたのに。
「ご、ごめんなさい……! 私、調子に乗って……」
涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔で謝る私に、九条は無言で何かを投げ渡した。
『最高級エリクサー』。
1本数万円はする、超レアな回復薬だ。
「え……これ、私に?」
「使え。顔が酷いぞ」
私は震える手で栓を開け、一気に飲み干した。
甘い光が体を包み、折れたかと思った肋骨の痛みが嘘のように消えていく。
「……無茶苦茶な戦い方だったな。セオリー無視もいいところだ」
九条は自分も安いポーションを飲み干しながら、ぶっきらぼうに言った。
「うぅ……ごめんなさい……」
「だが」
九条が、私の頭にポン、と手を置いた。
大きくて、無骨な手のひら。
「30秒。……きっかり稼いでみせた。悪くない時間稼ぎだった」
「え……?」
顔を上げる。
九条は私を見てはいなかったが、その口元はわずかに緩んでいた。
「助かった。……礼を言う」
その言葉を聞いた瞬間、張り詰めていた糸が切れた。
「う、うわぁぁぁん!! 怖かったぁぁぁ!!」
私はその場で泣き崩れた。
九条は「うるさい奴だ」と溜息をつきながらも、私が泣き止むまで、その場を動こうとはしなかった。
こうして私たちは、ようやく本当の意味での「パーティ」になった。
……はずだった。
ゴゴゴゴゴゴ……。
不気味な地響きと共に、通路の奥にあった神殿の巨大な扉が、ゆっくりと開き始めた。
そこから溢れ出してきたのは、今までとは質の違う、凍りつくような冷気。
『……部長、九条先輩』
有馬の声が、緊張に強張っている。
『マップに反応がありません。いえ、反応が「消されて」います』
開かれた扉の向こう。
そこには、このゲームの――いや、この世界の「裏側」へ続く闇が広がっていた。
玲奈の「ゴミ活用術」、いかがでしたでしょうか?
床ワックスも激辛スパイスも、使いようによっては武器になるのです
(※良い子は真似しないでください)。
そして復活した九条。やはり彼は強かった。
ようやく信頼関係を築いた二人ですが、
神殿の奥にはさらなる「異常」が待ち受けているようです。
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