第4話「不運なエースと、500円の女神」
【前書き】
お読みいただきありがとうございます。
頑なな彼を仲間に引き入れるため、部長の「切り札」が火を噴きます。
翌日の昼休み。
キーンコーンカーンコーン……。
チャイムが鳴り終わるのと同時だった。
「……消えた?」
私が九条の席を振り返った時には、すでにそこに彼の姿はなかった。
まるで忍者のような早業だ。
クラスメイトたちは誰も気にしていない。いつものことなのだろう。
でも、私は逃がさない。
「聞き込み開始よ!」
私は廊下に出て、他の生徒たちの会話に耳を澄ませた。
「あ、さっき九条くんが階段登ってくの見たよ」
「なんか、死にそうな顔してふらふらしてたけど……」
情報はすぐに集まった。
目撃情報を繋ぎ合わせれば、行き先は一つしかない。
私は階段を駆け上がった。
屋上への扉を、勢いよく開け放つ。
「見つけたわよ、九条蓮!」
そこには、フェンスに背を預けて座り込む、九条の姿があった。
彼はスマホの画面(おそらく攻略サイト)を睨みつけていたが、私の声に面倒くさそうに顔を上げた。
「……しつこい。ストーカーかよ」
「人聞きが悪いわね! 部員の勧誘よ、勧誘!」
「断る。言ったはずだ、俺はソロだ」
九条の声には覇気がない。
近くで見ると、その顔色は昨日よりも悪かった。
唇はカサカサに乾き、頬がこけている。
このままじゃ、ゲームの中で死ぬ前に現実の体が持たない。
「……足手まといはいらないんだ。帰れ」
彼は冷たく言い放ち、視線をスマホに戻した。
交渉決裂。
普通ならここで心が折れるところだ。
でも、今日の私には「参謀」がついている。
「有馬、出番よ!」
私は自分のスマホを取り出し、スピーカーモードに切り替えた。
『はいはい。……聞こえますか、九条先輩』
部室にいるはずの後輩、有馬の冷静な声が屋上に響く。
九条が怪訝そうに眉をひそめた。
「……誰だ」
『ゲーム部1年の有馬です。単刀直入に言いますね。先輩、あなたが探している「薬」。そのありかが判明しました』
「ッ!?」
九条が弾かれたように顔を上げた。
「どこだ……!? 教えろ!」
『エリア「忘却の都」。その最深部にある神殿です。でも、先輩はそこに入れないはずです』
有馬が淡々と続ける。
『入場には鍵アイテム「王家の紋章」が必要です。ドロップ率は0.01%。特定のレアエネミーからしか落ちません』
九条が歯噛みする。
「……知ってる。近衛騎士からのレアドロップだ」
『ええ。先輩の周回ログ、勝手ながら解析させてもらいました』
「なっ……!?」
『ああ、ハッキングじゃないですよ。ランキングの公開データと、掲示板の目撃情報を照合すれば、大体わかるんです』
有馬の声のトーンが少し下がる。
『祖父が倒れてからの1ヶ月間、あなたはあのエリアを3000周していますね。でも、ドロップ数は……ゼロ』
「…………」
九条が拳を握りしめ、フェンスを叩いた。
「出ないんだ……! いくら倒しても、何千回やっても、カスみたいな素材しか落ちない!」
それは、ゲーマーにとって最も残酷な壁。
確率の壁。そして――「運」の欠如。
彼には実力がある。知識もある。覚悟もある。
でも、決定的に「運」だけがなかった。
「だから、私の出番ってわけ」
私は一歩前に出た。
「アタシと組みなさい、九条。そうすれば、その『紋章』……アタシが出してあげる」
「……は?」
九条が呆れたような目をした。
「何千回やっても出ないんだぞ? お前みたいな素人が……」
『部長のドロップ率は、統計的にあり得ない数値なんです』
有馬が口を挟む。
『昨日の転移事故も、数万分の一の確率でした。彼女のアカウントには、何かしらの「偏り」があります。彼女なら……恐らく、一発で出せます』
「一発だと……?」
九条が絶句し、私とスマホを交互に見る。
私はニヤリと笑って、彼に手を差し出した。
「どうする? プライドを守って一人で野垂れ死ぬか、私と組んで『薬』を手に入れるか」
「…………」
九条の視線が揺れる。
彼は懐から、あのボロボロのクエストメモを取り出そうとして……手が震えて止まった。
背に腹は代えられない。
祖父に残された時間は、もう長くないのだから。
「……わかった」
九条が、歯を食いしばりながら絞り出すように言った。
「組む。……ただし条件がある。俺の足だけは引っ張るな」
「交渉成立ね!」
私は彼の手を強引に握って、立たせた。
「じゃあ早速、部室に来なさい! 今後の作戦会議と……あと、アンタの餌付けよ!」
「……は?」
【餌付けと契約】
放課後の部室。
九条は、居心地が悪そうにパイプ椅子に座っていた。
「はじめまして、先輩。有馬です」
「……どうも」
初めて対面する二人だが、九条の視線は有馬ではなく、彼の手元に釘付けだった。
有馬が引き出しから取り出した、栄養調整食品の箱。
「先輩、昼飯食べてませんよね? これどうぞ」
「……すまん」
九条は箱をひったくるように受け取ると、袋を開けて猛烈な勢いで食べ始めた。
ボロボロこぼしながら、水も飲まずに飲み込んでいく。
よほど空腹だったのだろう。
「(……こいつ、本当に限界ギリギリで戦ってたのね)」
私は呆れるのを通り越して、少しだけ同情した。
3本を一気に平らげ、九条はようやく人心地ついたようだった。
「……で、どうするんだ。今夜」
「もちろん、『王家の紋章』を取りに行くわよ」
私は宣言する。
「条件は一つ。今後、私の管理下でちゃんと食事と睡眠をとること。倒れられたら目覚めが悪いからね」
「……チッ。母親かよ」
文句を言いながらも、彼は拒否しなかった。
満腹になったことで、少しだけ毒気が抜けたのかもしれない。
【不運なエースと、500円の女神】
夜。
ログインした私は、目の前に立つナイン(九条)にパーティ申請を送った。
『プレイヤー「レナ」からパーティ申請が届いています』
ナインがわずかに躊躇し、そして「承諾」ボタンを押した。
ピコン、という軽快な電子音。
私の視界の端に、ナインのステータスバーが表示される。
これで私たちは、一蓮托生のパートナーだ。
「行くぞ。……頼む」
ナインが、ぶっきらぼうだが、確かな信頼を込めて言った。
「任せなさい! サクッと出して、お爺ちゃんを助けに行くわよ!」
私たちは転送ゲートへと向かう。
凸凹コンビと、冷静な参謀。
3人の「薬」探索クエストが、今ここから始まった。
……その裏で。
ナビゲート役の有馬だけが、モニターに表示された数値を見て呟いていた。
『……やっぱり、おかしい』
画面には、部長の運(LUCK)ステータスのログが表示されている。
それは乱数の揺らぎを超えた、異常な固定値。
『ただの強運じゃない。まるで、運営側の人間(GM)みたいな権限だ。……部長、あなたは一体……』
その独白は、誰の耳にも届くことはなかった。
【あとがき】
ついにパーティ結成です!
実力はあるけど運がない男と、実力はないけど運だけはある女。
いいコンビになりそうです。
次回、いよいよ部長の「豪運」が炸裂します。
そして、その強運の裏にある「秘密」とは……?
有馬くんの不穏な独白も気になりますね。
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