第37話「崩壊する研究室と、因果応報」
お読みいただきありがとうございます。
VR世界での戦いは終わりました。
しかし、現実世界にはまだ、すべての元凶である大人たちが残っています。
彼らに下されるのは、自らが作り上げたシステムによる「因果応報」の罰でした。
現実世界へ帰還した私たちは、高木の実家のアパートで泥のように眠っていた。
目が覚めたのは、翌日の昼過ぎだった。
「……ん」
体を起こすと、筋肉痛のようなダルさが残っている。
でも、心は驚くほど軽かった。
「起きたか、玲奈」
窓際で九条が外を見ていた。
その横顔は穏やかだ。
「……見てみろ。ニュースだ」
有馬がタブレットを向けてくる。
画面には、黒煙を上げる巨大ビル――アーカーシャ・コーポレーション本社の映像が映し出されていた。
『本日未明、アーカーシャ・コーポレーションの研究施設で大規模なシステム爆発が発生しました……』
【狂乱の研究者】
時間を数時間前に戻そう。
場所は、アーカーシャ本社地下、中央制御室。
「な、何だこれは!? データが……消えていく!?」
白峰博士は、狂乱状態でキーボードを叩いていた。
モニターには『SYSTEM FAILURE』の文字が羅列され、No.1をはじめとする全被験体のデータが光の粒子となって消失していく。
「私の研究が! 人類の進化の結晶が!」
厳が自壊プログラムを発動させたことで、メインサーバーが物理的に融解し始めていたのだ。
「ならん……消させんぞ!」
白峰は錯乱し、自らヘッドギアを装着した。
「私が直接バックアップを取る! 脳にデータを移せば……!」
「博士! 危険です! 負荷に耐えきれません!」
部下の制止も聞かず、白峰はログインした。
その瞬間。
「ギャァァァァァッ!!」
白峰の悲鳴が響き渡る。
流れ込んできたのは、膨大な「感情」のデータだった。
被験体たちの悲しみ、恐怖、そして最後に生まれた「愛」。
人をデータとしか見てこなかった彼には、その「重さ」は猛毒だった。
「あ、あり得ん……これは何だ……データじゃない……心が……痛い、痛いぃぃッ!!」
白峰は白目を剥き、口から泡を吹いて痙攣した。
彼の精神は、彼自身が弄んだデータの奔流に飲み込まれ、永遠の闇へと堕ちていった。
【檻の中の獣】
一方、保安部長の黒田は、崩壊する施設から逃げ出そうとしていた。
「チッ、白峰のジジイがトチりやがったか!」
黒田は金庫から現金を掴み出し、裏口のセキュリティゲートへ走る。
「俺だけでも助かればいい。また別の組織でやり直せば……」
彼はIDカードをリーダーにかざした。
ブブーッ。
『ACCESS DENIED(アクセス拒否)』
「あぁ!? なんで開かねえんだ!」
黒田が扉を蹴り飛ばす。
その時、館内スピーカーからノイズ混じりの声が響いた。
『……残念ね、黒田』
「!? この声……No.4か!?」
それは、高木のアパートからハッキング回線を通じた、シノの声だった。
『アンタのIDは無効化したわ。ついでに、全ての退路のロックダウンを実行した』
「ふ、ふざけるな! 俺は保安部長だぞ!」
『元、でしょう?』
スピーカーの向こうで、シノが冷たく笑う気配がした。
『アンタは私を檻に入れたわね。「お前は犬だ」って』
「ぐっ……!」
『今度はアンタが味わう番よ。……その瓦礫の檻の中で、怯えて震えてなさい』
「やめろ! 開けろ! No.4ァァァッ!!」
黒田が扉を叩く拳の音が虚しく響く。
やがて、天井が崩落し、彼の絶叫は轟音にかき消された。
【完全勝利】
「……確認しました」
有馬がキーボードから手を離した。
「警察と消防が突入しました。白峰博士は廃人状態で確保。黒田は……瓦礫の下で発見されましたが、重体。命はあっても、一生塀の中でしょう」
「……そう」
シノはポツリと呟き、小さく息を吐いた。
彼女の手の震えは、もう止まっていた。
「終わったな」
九条が言う。
「ああ。……本当に、終わった」
私は窓を開けた。
吹き込んでくる風は、少し冷たいけれど、とても心地よかった。
空は青く澄み渡り、どこまでも続いていた。
私たちは生き残った。
そして、日常を取り戻したのだ。
「……ねえ、みんな」
私は振り返り、最高の仲間たちに言った。
「お腹、空かない?」
私の言葉に、みんなが顔を見合わせ、笑い出した。
「全くだ。死ぬほど腹が減った」
「部長、僕はお寿司がいいです」
「私は肉! 高い肉!」
「ウチの実家、寿司も肉もないけど~? カップ麺ならあるよ?」
高木が呆れながら言った。
私たちは笑いながら、コタツを囲んだ。
特別なご馳走じゃないけれど、世界で一番美味しい食事の時間だった。
悪役たちの最期、そして現実世界での完全勝利でした。
自分の欲望のために他人を犠牲にした彼らは、自らの業火に焼かれました。
シノちゃんも、過去の亡霊に自ら引導を渡すことができました。
次回、いよいよ最終話。
エピローグです。
日常に戻った彼らの「その後」。
そして、このゲームに隠された本当の秘密とは?
タイトル回収と共に、感動のフィナーレをお届けします。
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