第36話「卒業証書は、別れの言葉」
お読みいただきありがとうございます。
覚醒した玲奈と、復活した九条。
二人の力が合わさった時、最強の祖父・厳(No.1)との戦いに決着がつきます。
それは、悲しくも温かい、継承の儀式でした。
「来いッ!!」
厳(No.1)が吼える。
その拳から放たれる衝撃波は、先ほどまでとは桁違いの密度を持っていた。
「当たる……!」
九条が回避動作を取ろうとする。
「ううん、当たらない!」
私は叫び、視界に浮かぶシステムコードを睨みつけた。
(回避率0.01%……いいえ、100%よ!)
私の意思に呼応して、世界の理が書き換わる。
厳の放った必殺の拳が、あり得ない角度で曲がり、九条の髪を数ミリ掠めて空を切った。
「なっ……!?」
厳が初めて驚愕の表情を浮かべる。
「今だ、九条!」
「ああ!」
九条が踏み込む。
その動きは、システムによる補正を超え、彼自身の魂が加速させているようだった。
黄金に輝く日本刀が、厳の懐へと迫る。
【最強を超える時】
「小賢しい!」
厳が防御障壁を展開する。
物理無効、魔法無効の絶対防御。
「破れない……!」
九条の直感が警鐘を鳴らす。
「破れるよ!」
私は叫んだ。
(防御貫通率、100%!)
パリーンッ!!
九条の刃が触れた瞬間、厳の障壁が薄氷のように砕け散った。
「馬鹿な……私の演算を上回るだと!?」
「これが、俺たちの力だ!!」
九条の刃が、厳の胴体を捉える。
ズバァァァッ!!
光の刃が、最強の老人の体を深々と切り裂いた。
【卒業試験】
厳の動きが止まった。
そのHPバーが、一気にゼロへと向かって減少していく。
「……ガハッ」
厳が膝をつく。
勝負あった。
九条は刀を納めず、油断なく残心をとっている。
しかし、厳の顔には、敗北の悔しさはなかった。
「……く、ククク……」
喉の奥から、笑い声が漏れる。
「……見事だ」
厳が顔を上げた。
その表情は、凶悪なラスボスのものではなく――孫の成長を喜ぶ、ただの祖父のものだった。
「システムごときの理屈ではなく……己の信じた道を貫いたか」
厳が私を見る。
「二階堂の孫よ。……お前の『運命』を変える力、確かに見せてもらった」
そして、九条を見る。
「蓮。……強くなったな」
「……爺さん」
九条が刀を下ろす。
「お前は、ずっと一人で……この場所を守っていたのか」
「誰かがやらねばならなかった」
厳が自嘲気味に笑う。
「強さを求めるあまり、私は怪物を生み出してしまった。……だから、それを殺せる者が現れるまで、門番として待ち続けるしかなかったのだ」
厳の体が、足元から光の粒子となって崩れ始める。
「私を殺してくれて、ありがとう。……これで、私も眠れる」
【別れの言葉】
「……待ってくれ!」
九条が思わず手を伸ばす。
「まだ、話したいことが……!」
「未練を残すな」
厳が厳しく、しかし優しく諭す。
「お前には、もう仲間がいるだろう」
厳の視線が、私や、倒れているシノ、有馬たちに向けられる。
「孤独な強さは脆い。だが、支え合う強さは折れない。……私はそれを知るのに、遅すぎた」
厳の上半身まで光に包まれる。
「行け、蓮。……そして、生きろ」
「……ッ、ああ!」
九条が涙を堪えて、深く頭を下げた。
「……ありがとうございました、師匠!!」
その言葉を聞き届け、厳は満足そうに目を閉じた。
『……卒業、おめでとう』
光が弾け、最強の老人は消滅した。
後に残されたのは、静寂と――崩壊を始める白い空間だけだった。
【崩れゆく世界】
ゴゴゴゴゴ……!
「部長! 九条先輩!」
意識を取り戻した有馬が叫ぶ。
「システムの中核が消滅したことで、この空間が崩壊します! 急いで脱出を!」
「……分かった」
私は九条の手を取った。
「帰ろう、九条」
「……ああ」
九条は一度だけ、祖父が消えた場所を振り返り――そして前を向いた。
「帰ろう。……俺たちの世界へ」
私の手の中のロケット(の欠片)が、最後の輝きを放つ。
『システム・シャットダウン』
『全プレイヤー、ログアウト』
視界が白く染まり、私たちは長い長いゲームの世界から、現実へと帰還した。
VR編、完結です。
祖父・厳との決着。それは悲しい別れではなく、未来へのバトンタッチでした。
最強の壁を超えた九条と玲奈。
しかし、まだ終わってはいません。
ゲームはクリアしましたが、現実世界にはまだ「彼ら」が残っています。
次回、舞台は現実へ。
白峰博士、黒田との最終決戦。
そして物語はエピローグへ向かいます。
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