第32話「空っぽの英雄と、隣に立つ資格」
お読みいただきありがとうございます。
自分の過去を切り捨てようとする九条。
それを止めたのは、玲奈でした。
「弱さ」を知る彼女だからこそ言える言葉が、最強の男の心を動かします。
「どけ」
黒い鎧を纏ったナインが、無感情な声で告げる。
巨大な剣が、私と、私の背中で震える少年――幼い九条に向けられている。
「……弱さなど、俺には必要ない。それは不純物だ」
「どかない!」
私は両手を広げて立ちはだかった。
足が震える。殺気が肌を刺す。
それでも、ここだけは退いちゃいけないと魂が叫んでいる。
「この子は、あなたでしょ!? 自分を殺して何になるの!」
「俺はシステムだ。最強のアバターだ。……惨めな過去など、バグに過ぎない」
ナインが剣を振り上げる。
その刃には、迷いがない。本気で過去を消そうとしている。
【空っぽの共感】
「俺は空っぽだ!」
ナインが吼える。
「才能もない。誇れる血筋もない。あるのは借り物の力だけだ! そんな俺に、生きる価値など……」
「私だってそうだよ!」
私は彼の声を遮って叫んだ。
「私だって……運がいいだけで、中身なんてない!」
自分の胸を拳で叩く。
「勉強もできない。運動もできない。何の取り柄もない。……ずっと、自分が嫌いだった」
30歳の世界で、私はただの主婦だった。
特別な力なんてなかった。
それでも、必死に生きた。
「でも! あなたが言ってくれたじゃない!」
私の脳裏に、あの夜の言葉がよみがえる。
『お前が真ん中にいるから、俺たちは戦える』
「中身がないなら、これから詰めればいい! 弱くても、誰かと一緒なら強くなれる! ……そう教えてくれたのは、あなたでしょ!?」
【最強の理由】
ナインの剣が、ピタリと止まる。
「……」
「あなたが強いのは、システムのおかげなんかじゃない」
私は一歩、彼に近づく。
「才能がないと分かっていても、誰にも期待されなくても……血反吐を吐いて、泣きながら剣を振り続けた、この子がいたからでしょ!?」
背後の少年を振り返る。
あかぎれだらけの手。泥だらけの道着。
それは、恥ずべき過去なんかじゃない。
「この子が諦めなかったから! 今の九条がいるんじゃん!!」
「……ッ」
「自分の努力を、自分で笑うなよ……! バカ九条!」
私の叫びが、雨上がりの道場に響き渡る。
ナインの黒い鎧に、ピキピキと亀裂が入った。
【泣き虫な英雄へ】
「……俺は……」
ナインが剣を取り落とす。
カラン……。
「弱くてもいい。泣き虫でもいい」
私は彼の目の前まで歩み寄り、その冷たい仮面に手を触れた。
「私の前でくらい、カッコつけないでよ」
「……玲奈」
「あなたは、私の最高の英雄なんだから」
パリンッ!!
黒い鎧が砕け散り、光の粒子となって消えた。
中から現れたのは、いつもの――でも、少しだけ泣きそうな顔をした九条だった。
「……はぁ。お前には敵わんな」
九条は苦笑すると、私の後ろにいる少年の前に膝をついた。
『……じいちゃんに、嫌われたかな……』
少年が泣きじゃくりながら言う。
九条は、優しく少年の頭を撫でた。
「……嫌われてないさ。ただ、少し不器用なだけだ」
「……」
「悪かったな。ずっと、無視して」
九条が少年を抱きしめる。
「お前はよくやった。……俺が、引き継ぐよ」
『……うん!』
少年が満面の笑みを浮かべ、光となって九条の体へと溶けていった。
過去と現在が、一つになる。
九条が立ち上がる。
その背中からは、もう悲壮な孤独感は消えていた。
【最後の鍵】
雨が上がり、雲間から光が差し込む。
ふと、道場の入り口に気配を感じた。
あの厳格な祖父の幻影が、そこに立っていた。
彼は去り際に一度だけ振り返り――微かに口元を緩めて、頷いたように見えた。
スゥッ……。
幻影が消え、その場所に一枚のカードキーが残された。
8つ目の鍵。No.9のコードだ。
九条がそれを拾い上げ、強く握りしめる。
「……行くぞ、玲奈」
「うん!」
彼は私に手を差し出した。
私はその、大きくて温かい手を、しっかりと握り返した。
【覚醒】
「……おかえりなさい」
現実世界。
ヘッドギアを外すと、有馬が安堵の表情で迎えてくれた。
高木とシノも心配そうに覗き込んでくる。
「九条! 大丈夫!?」
「……ああ」
九条がベッドから起き上がる。
その顔つきは、以前よりも穏やかで、それでいて芯が太くなったように見えた。
迷いが消えた男の顔だ。
「コード、確認しました」
有馬がPC画面を指差す。
そこには、8つのランプが全て緑色に点灯していた。
『ALL KEYS : COMPLETE』
「揃ったな」
九条が呟く。
「これより、最終エリアへのアクセス権を解放します」
有馬がエンターキーを押そうとして、一度手を止めた。
私たち全員を見渡す。
「……準備はいいですか? ここから先は、もう戻れません」
「当たり前でしょ」
シノが不敵に笑う。
「飯も食ったし、準備万端よ」
高木が親指を立てる。
「やるならとことんやってきな! 留守番は任せろ!」
「……俺たちは、勝つ」
九条が私を見た。
「ああ。……行こう!」
私はロケットを握りしめ、大きく頷いた。
有馬がキーを叩く。
『ターゲット:被験体No.1 The Origin』
『Login Start』
最後の戦いが、始まる。
九条編、完結!
ついに全ての鍵が揃いました。
自分の弱さを認め、過去を受け入れた九条。
玲奈との絆も最強のものとなりました。
次回、いよいよ最終章・突入!
ラスボス・No.1の正体とは?
そして、この残酷なゲームの真実が明かされます。
「九条くんおかえり!」「いよいよ最終決戦!」と思っていただけたら、
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