第31話「最強の男の弱点と、記憶の鍵」
お読みいただきありがとうございます。
7つの鍵を手に入れた玲奈たち。
残る最後の鍵は、九条の中にあります。
彼の心、その深層領域へ。
玲奈が見たものは、最強の男の意外な「正体」でした。
高木の実家、古いアパートの一室。
コタツの上に並べられた7枚のカードキーを見つめ、有馬が難しい顔をしていた。
「……やはり、足りません」
有馬がキーボードを叩きながら言う。
「ラスボス・No.1の領域へアクセスするには、8つのコードが必要です。……No.9のコードが欠けています」
「分かっていたことだ」
九条が静かに立ち上がった。
「俺の脳内チップの深層領域に、プロテクトがかかっている。……それを解除すれば、鍵は手に入るはずだ」
「ですが、それは精神へのダイブ(侵入)を意味します。下手をすれば、先輩の自我が崩壊する危険性が……」
「構わん。……やるぞ、有馬」
九条の決意は固かった。
彼は簡易ベッドに横たわり、ヘッドギアを装着する。
「待って」
私は有馬の袖を掴んだ。
「私も行く」
「えっ? 部長はここにいてください。危険です」
「嫌よ。……九条一人に行かせられない」
九条がちらりと私を見た。
「……好きにしろ。ただし、中で何を見ても……幻滅するなよ」
「幻滅なんてしないよ」
私は九条の隣に横になり、ヘッドギアを被った。
「……行こう、九条の心の中へ」
【雨の道場】
『ログイン……深層領域へ接続します』
視界がホワイトアウトし、次に色が戻った時。
私たちは、薄暗い日本家屋の庭に立っていた。
「……ここは?」
しとしとと雨が降っている。
濡れた土の匂い。竹林が風に揺れる音。
「……先輩の記憶によって構築された心象風景です」
隣にアバター姿の有馬(指揮者風)が現れた。
庭の奥には、古びた木造の道場があった。
バシッ! バシッ!
中から、竹刀が打ち合う激しい音が聞こえてくる。
【泣き虫な少年】
恐る恐る道場を覗き込むと、そこには一人の少年の姿があった。
小学校低学年くらいだろうか。
泥だらけの稽古着を着て、自分より大きな竹刀を必死に振っている。
『……うぅ……っ!』
少年は泣いていた。
手はマメが潰れて血が滲んでいる。
息は上がり、足は震えている。
それでも、彼は竹刀を振るうのを止めない。
その視線の先には、一人の老人の後ろ姿があった。
背筋が伸びた、巨岩のような背中。
何も言わず、ただ圧倒的な威圧感を放っている。
「……お祖父ちゃん?」
私が呟くと、少年が叫んだ。
『見ててよ、じいちゃん! ……俺だって、強くなれるんだ!』
少年が渾身の一撃を打ち込む。
しかし、老人は振り返りもせず、片手で軽く竹刀を受け止めた。
パンッ。
乾いた音がして、少年は無様に転がった。
『……違う』
老人の低い声が響く。
『蓮。お前の剣には、迷いがある』
『迷いなんてないよ! 俺は強くなりたいんだ!』
『……才能がない者は、剣を握るべきではない』
老人は冷たく言い放ち、道場を出て行ってしまった。
『待ってよ! じいちゃん!』
残された少年は、床を叩いて号泣した。
『……なんでだよ……なんで俺には才能がないんだよぉ……っ!』
【最強の鎧】
「……これが、九条?」
私は息を呑んだ。
いつも冷静で、無敵に見える九条。
でも、その根底にあったのは、「才能がない」と否定された少年の劣等感だったのか。
「……見ないでくれ」
不意に、背後から声がした。
「え?」
振り返ると、大人の姿の九条――いや、アバターの『ナイン』が立っていた。
ただし、いつもの九条ではない。
全身を黒い甲冑のような機械パーツで覆い、顔もバイザーで隠している。
まるで感情のないロボットのようだ。
「九条……?」
『警告する。これ以上、深層への侵入は許可しない』
機械的な音声。
有馬が杖を構える。
「これは……先輩の防衛本能です! 自分の弱さを見られたくないという拒絶が、具現化しています!」
『消えろ』
黒いナインが、身の丈ほどある大剣を構えた。
『弱さなどいらない。感情などいらない。……俺は、システム(最強)であればいい』
ドォォォン!!
彼が踏み込むだけで、地面が割れる。
殺気。
本気の殺意が、私たちに向けられていた。
【否定された自分】
「やめて、九条!」
私が叫ぶが、黒いナインは止まらない。
『俺に才能はない。だから、システムの一部となって強さを手に入れた』
大剣が振り下ろされる。
有馬が障壁を展開して防ぐが、一撃で粉砕される。
「ぐぅっ……!?」
有馬が吹き飛ばされる。
『この力こそが俺だ。……あの泣き虫なガキは、俺じゃない!』
黒いナインは、道場で泣いている少年を睨みつけた。
『過去などいらない。弱さごと切り捨てる!』
彼はあろうことか、自分自身の過去(少年)に向かって剣を振り上げた。
自分の弱さを許せない。
祖父に認められなかった自分が憎い。
そんな悲痛な叫びが聞こえた気がした。
「ダメェェェッ!!」
私はとっさに駆け出した。
強運? 関係ない。
ただ、彼を止めなきゃいけない。
私は少年を背に庇い、黒いナインの前に立ちはだかった。
九条の心の中。
そこにいたのは、才能のなさに泣く少年でした。
「ナイン」としての強さは、そのコンプレックスを隠すための鎧だったのです。
自分の過去を否定し、切り捨てようとする九条。
玲奈は彼を止められるのか?
次回、玲奈の言葉が、頑なな戦士の心を溶かします。
そして、ついに最後の鍵が……!
「九条くん……辛かったんだね」「玲奈ちゃん頑張れ!」と思っていただけたら、
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