第29話「鉄壁の少女と、空っぽの揺りかご」
お読みいただきありがとうございます。
6つの鍵を手に入れた玲奈たち。
次なる相手は、No.3『フォートレス』。
彼女はこれまでの敵とは違い、攻撃を一切してきません。
ただ、悲しいほどに頑なに、扉を閉ざしていました。
ログインした世界は、鉛色の空に覆われていた。
荒涼とした荒野の真ん中に、巨大な城塞がそびえ立っている。
「ここがNo.3『フォートレス』の領域です」
有馬が説明する。
城塞といっても、攻撃用の兵器は見当たらない。
ただひたすらに壁が高く、厚く、外部からの侵入を拒んでいる。
まるで、自分自身を閉じ込める牢獄のように見えた。
「行くわよ」
シノが先陣を切って走り出す。
九条と私も後に続く。
【拒絶の結界】
城塞の門の前まで来ると、空気が震えた。
ブゥン……。
半透明の巨大な「結界」が展開され、私たちの行く手を阻んだ。
その結界の中心に、一人の少女が立っていた。
長い黒髪に、白いワンピース。
年齢は私と同じくらいだろうか。
その細い腕には不釣り合いな、身の丈を超える巨大な盾を持っている。
少女は悲しげな瞳で私たちを見つめ、静かに告げた。
「……帰りなさい」
透き通るような、でも絶対的な拒絶の声だった。
【通じない力】
「どきなさい! 私たちが通りたいのはそこだけよ!」
シノが加速する。
目にも止まらぬ速さで結界に突撃し、ガントレットを叩き込む。
「開けぇッ!!」
ガギィィィン!!
激しい金属音が響くが、結界にはヒビ一つ入らない。
逆にその衝撃が跳ね返され、シノが後方へ弾き飛ばされる。
「くっ……硬っ!?」
「援護する!」
九条がアサルトライフルを連射する。
しかし、放たれた弾丸は結界に触れた瞬間、水に溶けるように消滅した。
「物理無効か……!」
「なら、ハッキングで!」
有馬が仮想キーボードを叩く。
「……ダメです! 防壁の密度が異常すぎます! コードを書き換える隙間がありません!」
「嘘でしょ……?」
私は呆然とした。
私の「強運」は、0.1%でも可能性があれば奇跡を起こせる。
でも、可能性が「ゼロ」なら発動しない。
この結界には、付け入る隙が文字通り存在しないのだ。
【守るための盾】
少女――三守琴葉は、攻撃を受けるたびに、悲しそうに眉を寄せた。
彼女は反撃してこない。
ただ、耐えているだけだ。
「……帰りなさい。ここには、何もない」
琴葉の声が響く。
「俺たちは鍵が必要だ。通してもらうぞ」
九条が一歩踏み出すと、結界の光が強まった。
「……ダメ。誰も、入れない」
琴葉が盾を強く握りしめる。
「もう誰も……失いたくないの……」
その声には、深い悲しみと、何かに怯えるような響きがあった。
【空っぽの揺りかご】
「……ねえ、あれ」
私は結界の向こう側、琴葉の背後にあるものに気づいた。
彼女が守るように背にしているもの。
それは、古びた小さな「揺りかご」だった。
「……揺りかご?」
有馬が眼鏡のブリッジに触れ、解析モードにする。
「……反応はありません。あの揺りかごの中身は、空(NULL)です」
「え?」
「データが存在しません。……空っぽです」
私は息を呑んだ。
空っぽの揺りかご。
彼女は、もうそこにはいない「誰か」を守るために、こんな強固な壁を作っているの?
「……あの子、何を守ってるの?」
私の問いに、答えられる者はいなかった。
【子守唄】
「……一旦退くぞ」
九条が判断を下した。
「このままじゃ消耗するだけだ。策を練り直す」
「……くそっ」
シノが悔しそうに地面を蹴る。
私たちは結界から距離を取り、撤退することにした。
去り際、私はもう一度だけ振り返った。
琴葉は、私たちが去るのを見届けると、盾を置いて揺りかごの前に座り込んだ。
そして、優しく揺りかごを揺らしながら、歌い始めた。
「……ねんねん、ころり……おやすみ、琴音……」
美しくも寂しい子守唄。
誰もいない揺りかごに向かって、彼女はずっと歌い続けているのだ。
「……お姉ちゃんが、守ってあげるから……ずっと、一緒だから……」
「……ッ」
胸が締め付けられた。
あの子は、怪物じゃない。
ただ、悲しみに囚われて動けなくなっている、一人の女の子だ。
(助けなきゃ)
鍵のためだけじゃない。
あんな寂しい場所から、彼女を連れ出してあげたい。
私は強くそう思った。
新章・防衛戦。
No.3『フォートレス』の正体は、空っぽの揺りかごを守る少女でした。
攻撃してこない敵ほど、倒すのが難しい。
力ずくでは開かない扉を、どうやって開けるのか。
次回、玲奈の「優しさ」と「覚悟」が試されます。
「切ない……」「どうやって攻略するんだ?」と思っていただけたら、
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