第28話「束の間の日常と、高木のサバイバル術」
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壮絶なカーチェイスを生き延びた玲奈たち。
しかし、隠れ家も車も失い、文字通り「詰み」の状態。
そんな窮地を救ったのは、意外な人物でした。
夜明けの空が白み始めた頃。
私たちは郊外のパーキングエリアの片隅で、ボロボロになったワンボックスカーの中にいた。
「……詰みましたね」
ハンドルを握る有馬が、重い口を開いた。
「隠れ家は壊滅。この車も手配されているでしょう。クレジットカードや電子マネーを使えば、すぐに組織に位置を特定されます」
「現金は?」
「僕の財布に2千円。……部長は?」
「500円玉が1枚」
「……終わった」
シノが深いため息をつく。
空腹と疲労、そして絶望的な資金不足。
現代社会において、これ以上ないほどのピンチだ。
「……一人だけ、頼れる人がいるかも」
私は震える手でスマホを取り出した。
通信が傍受されるリスクはある。でも、今はそんなことを言っていられない。
【ギャルの男気】
プルルル……。
数回のコールの後、相手が出た。
『……もしもし?』
寝起きの不機嫌そうな声。
「ごめん、高木。……私」
『二階堂!? あんた生きてたの!?』
声色が裏返った。
『ニュースですごい騒ぎになってるし、学校にも黒服の変なのが来るし! LINEも既読つかないし!』
「うん、ごめん。……あのね、高木」
私は唇を噛んで、絞り出した。
「助けて。……もう、行く場所がないの」
一瞬の沈黙。
高木は、事情も、理由も、何も聞かなかった。
『……場所、どこ?』
「え?」
『迎えに行くから場所言いな。……すぐ行く』
【最強の隠れ家】
1時間後。
派手なピンク色の軽自動車が、タイヤを軋ませてパーキングに入ってきた。
「乗んな! 狭いけど!」
運転席から高木が手招きする。
私たちはぎゅうぎゅう詰めになって車に乗り込んだ。
「……あんた、マジでボロボロじゃん」
高木は私の顔を見るなり、涙目で抱きついてきた。
「生きててよかったぁ……! バカ! 心配させんじゃないよ!」
「ごめん……ありがと、高木……」
彼女の香水の匂いが、ひどく安心した。
連れて行かれたのは、高木の実家が経営しているという、古い木造アパートだった。
「ここの2階、空き部屋だから」
通された部屋は、畳とコタツがある、昭和の匂いがする空間だった。
「ここなら誰も来ないし、親には『家出した友達を匿ってる』って言っといた。ウチの親、そういうの緩いからさ」
「家出少女扱いか……まあ、当たらずとも遠からずだな」
九条が苦笑して荷物を置く。
その時、高木がシノを見て目を丸くした。
「え、誰この小学生? 迷子?」
「……殺すわよ」
シノの目が据わった。
「ひっ、目つきワルッ!?」
「やめて! この子はシノちゃん。……私の命の恩人なの!」
私は慌てて二人の間に割って入った。
「ふーん……まあいいや。腹減ってんでしょ?」
高木はコンビニの袋をドサッとコタツに置いた。
「奢りだ! 食え!」
【温かい食卓】
久しぶりのまともな食事だった。
高木が買ってきてくれた食材を使い、私は30歳仕込みの手際で料理を作った。
野菜炒め、卵焼き、即席の味噌汁。
「……美味い」
九条が一口食べて、小さく息を吐く。
シノは無言でガツガツと食べている。リスみたいに頬を膨らませて。
「あんた料理うまっ!? 女子力カンストしてんじゃん!」
高木が私の肩をバシバシ叩く。
「伊達に主婦やってな……あ、いや、なんでもない」
危ない。30歳設定が出るところだった。
食後、お茶を啜っていると、シノがポケットから何かを取り出した。
「……これ」
コタツの上に置かれたのは、一枚のカードキーだった。
「私のキー(No.4)。……あんたたちに預けるわ」
「え、いいの?」
「私はもう、あんたたちの仲間だから」
シノはそっぽを向いて、少し顔を赤くした。
「……それに、これ持ってると重いし」
「素直じゃないなぁ」
私は笑って、キーを受け取った。
これで6枚目。
私たちの戦力は、確実に整いつつある。
【九条の影】
夜。
みんなが寝静まった頃、九条が一人でベランダに出ていた。
「……眠れない?」
私が声をかけると、彼は夜空を見上げたまま言った。
「高木……いい友達だな」
「でしょ? 口は悪いけど、最高に男前なの」
「ああ。……守らなきゃな、こういう日常を」
九条の声には、重い決意が滲んでいた。
「……玲奈」
「ん?」
「俺も、あの連中と同じ被験体だ。No.9」
彼は自分の胸に手を当てた。
「俺の中にも、鍵があるはずだ。……俺自身のデータが」
「それって……どうすれば手に入るの?」
「分からない。でも、たぶん……俺自身と向き合わなきゃいけない時が来る」
九条は私を見た。
「次のNo.3を倒せば、残るは俺と、ラスボスだけだ。……いよいよだな」
「うん」
私は彼の隣に並んだ。
終わりが見えてきた。でも、それは最大の試練が近いということでもある。
【鉄壁の要塞】
翌朝。
有馬がパソコンを開き、次のターゲットを表示させた。
「次の標的が決まりました」
画面に映し出されたのは、巨大な城塞のようなシルエットだった。
「被験体No.3。コードネーム『Fortress』」
有馬が眼鏡の位置を直す。
「防御力は全被験体中トップ。物理攻撃も、魔法も、ハッキングさえも弾き返す、難攻不落の要塞です」
「要塞……」
「私の攻撃でも、傷一つつけられなかったわ」
シノが悔しそうに唇を噛む。
「真正面からぶつかっても、絶対に勝てない」
「力押しじゃ無理か」
九条がアサルトライフルのメンテナンスをしながら呟く。
「なら、こじ開けるしかないな。……総力戦だ」
日常回、そして高木の再登場でした。
彼女のような「普通の友達」がいると、物語がグッと明るくなりますね。
シノちゃんもすっかり馴染んでいます。
さて、キーは6つ集まりました。
次に挑むのは、最強の防御力を誇るNo.3『フォートレス』。
どうやら一筋縄ではいかない相手のようです。
「高木いい奴すぎる!」「シノちゃん餌付け完了」と思っていただけたら、
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