第27話「暴走する公道と、友の声」
お読みいただきありがとうございます。
隠れ家を追われた玲奈たち。
舞台は深夜の公道へ。
そこで待ち受けていたのは、現実をゲームと錯覚する狂気のドライバーでした。
ヴォォォォォォン……!!
深夜の幹線道路。
有馬が運転するワンボックスカーの背後に、漆黒の悪意が迫っていた。
ボンネットから改造エンジンが飛び出し、車体中に棘のようなバンパーを装着したスポーツカー。
被験体No.6。コードネーム『Driver』。
『ヒャハハハハ!! 逃げろ逃げろォ! ボーナスポイントだァ!!』
外部スピーカーから、割れた笑い声が響く。
ガンッ!!
No.6の車が、私たちの車の後部に猛烈な体当たりを仕掛けてきた。
「うわぁっ!?」
車体が大きく揺れ、悲鳴を上げる。
「くっ、馬力が違いすぎます!」
有馬がハンドルを必死に抑え込む。
「直線では振り切れません! 一般車も巻き込まれる!」
【AR(拡張現実)の狂気】
No.6――六車迅の視界は、常人とは異なっていた。
彼が装着した特殊バイザーには、現実世界が「ゲーム画面」として変換されて映し出されていた。
アスファルトには緑色の走行ライン。
歩行者や対向車には『OBSTACLE(障害物)』の赤文字。
そして、玲奈たちの車には『TARGET』のマーカーと、懸賞金のスコアが表示されている。
『邪魔だァ!!』
六車は対向車線を走るトラックをゲーム感覚でギリギリにかわし、再び玲奈たちの車へ突っ込む。
『スコア稼ぎの時間だぜェ!!』
彼にとって、ここは公道ではない。自分が主役のサーキットだ。
【檻の中の犬】
一方、私たちの車内はお通夜のような状態だった。
「……あ、ぅ……」
シノ(No.4)が座席の隅で膝を抱え、ガタガタと震え続けている。
黒田の姿を見たショックで、心が過去の牢獄に引き戻されてしまったのだ。
「しっかりしろシノ! お前がいないと勝てない!」
九条が肩を揺さぶるが、シノの焦点は合わない。
「……来る……黒田が……お仕置きされる……」
「くそっ、呪いが深すぎる……!」
ドゴォォォン!!
再び衝撃。後部ドアがへこみ、ガラスにヒビが入る。
もう時間がない。
私は覚悟を決めた。
「九条、どいて!」
私はシノの正面に回り込み、その冷え切った頬を両手で挟んだ。
「シノ! 私を見なさい!」
「……私……犬……主人に逆らえない……」
「違う! あんたは犬なんかじゃない!」
私はシノの目を無理やり覗き込んだ。
「四宮詩乃! 私の友達で、最強のスピードスターでしょ!?」
「でも……黒田が……怖い……」
「黒田なんて関係ない! あいつはあんたの主人じゃない!」
私は叫んだ。喉が裂けそうなほど強く。
「あんたの速さは、誰かに飼い慣らされるためのものじゃないはずよ!」
「……っ」
シノの瞳が揺れる。
「あんたは自由なの! どこへだって行ける! 誰よりも速く!」
私の言葉が、彼女の凍りついた心の殻を叩く。
自由。
その言葉が、彼女の中で燻っていた残り火に着火した。
シノの瞳に、徐々に光が戻ってくる。
「……自由……」
彼女は私の手を握り返した。その手に力が戻る。
「……そうよ。私は……誰にも、追いつけない」
シノが顔を上げた。
そこにはもう、怯える子供はいなかった。不敵な笑みを浮かべる、私の相棒がいた。
「……有馬。窓、開けて」
【人間ミサイル】
「えっ、ここでですか!?」
「いいから開けろ!」
有馬が後部座席の窓を開けると、轟音と共に強風が吹き込んできた。
「行ってくる」
シノは迷いなく窓枠に足をかけ、身を乗り出した。
「ちょっ、危ない!」
「……あいつ(No.6)、うるさいわね」
シノは風圧をものともせず、走行中の車の屋根によじ登った。
時速100キロの世界。
だが、彼女にとっては「止まっている」も同然だ。
「――そこッ!!」
シノが屋根を蹴った。
人間業ではない跳躍。
彼女の体は砲弾のように空を裂き、後方のNo.6の車のボンネットへと着地した。
ダンッ!!
『アァ!? 人間ミサイルだとォ!?』
No.6が驚愕し、急ハンドルを切って振り落とそうとする。
だが、シノは猫のようにボンネットに張り付き、ニヤリと笑った。
「このポンコツが……調子に乗るなッ!!」
【現実の終わり】
シノが右腕のガントレットに力を込める。
「スクラップになりなさい!!」
ドォォォォォン!!
強化された拳が、フロントガラスごとダッシュボードを粉砕した。
さらに、そのままステアリングシャフト(ハンドルの軸)をへし折る。
『ハンドルが効かねェェェェ!?』
制御を失ったNo.6の車がスピンを始める。
シノは直前に飛び降り、ガードレールを蹴って私たちの車に戻ってきた。
キキキキキッ――ドガァァァァァン!!
No.6の車はガードレールを突き破り、側壁に激突して炎上した。
燃え盛る車の中で、六車のバイザーが割れ落ちた。
ノイズが走り、彼の視界からゲームのUIが消える。
『……あ、れ……?』
そこには「ターゲット」も「障害物」もなかった。
あるのは、ただの夜の公道。
自分の血の匂い。熱さ。痛み。
『……ここ、どこだ……? 俺は……何を……』
現実を直視した彼の目に、本当の恐怖が浮かぶ。
自分が何をしてきたのか。ここはリセットできるゲームじゃないと、死の間際に理解したのだ。
『……嫌だ……俺は、ゲームを……ゲームをしてただけ……』
爆発音が響き、彼の声は途切れた。
【夜明けの逃走】
『……キーデータの信号、確保しました!』
すれ違いざまにハッキングを完了していた有馬が叫ぶ。
シノが窓から車内に転がり込んできた。
「……はぁ、はぁ……やったわよ」
髪は乱れ、服も煤けているが、彼女は勝ち誇った顔をしていた。
「バカ! 無茶しすぎ!」
私は泣きながら彼女に抱きついた。
「死んじゃったらどうすんのよ!」
「……痛いってば。……でも、ありがと」
シノが少し照れくさそうに、私の背中をポンポンと叩いた。
「あんたのおかげで、目が覚めたわ」
車は炎上する残骸を背に、夜明けの空へと走り去っていく。
これで鍵は5つ。
でも、私たちは知ってしまった。
この戦いはゲームじゃない。
命のやり取りをする、本当の戦争なんだと。
シノ復活! そして壮絶なカーチェイスの決着でした。
No.6の最期は、現実と虚構の区別がつかなくなった者の末路として描きました。
少し後味が悪いですが、これが彼らの戦っている世界のリアルです。
さて、これで5つの鍵が揃いました。
残る被験体はあと一人?(No.1、3……あと誰だっけ?)
そして組織の追跡を振り切った玲奈たちは、どこへ向かうのか。
「シノちゃんカッコいい!」「No.6怖かった……」と思っていただけたら、
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