第26話「砕かれた隠れ家と、震えるスピードスター」
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精神攻撃を仕掛けてくるNo.8との決着。
そして、ついに現実世界で「組織」の暴力が牙を剥きます。
『……玲奈。置いていかないで……』
鏡の中の私が、母の声で、娘の声で、私を責め立てる。
『あなたが弱かったから』
『愛する資格なんてない』
私は耳を塞ぐのをやめた。
涙を流しながら、鏡の中の自分を真っ直ぐに見据える。
「……そうだよ。私は弱かった。空っぽだった」
認めるのは怖かった。でも、もう逃げない。
「でも、今は違う。……私を信じてくれるパートナーがいるから!」
私はロケットを握りしめ、鏡に向かって拳を叩きつけた。
「だから、あんたの幻覚には負けない!!」
パリィィィン!!
鏡が粉々に砕け散る。
同時に、私の心の迷いも霧散した。
【小さな迷子】
鏡が割れた向こう側に、黒いモヤのような影がうずくまっていた。
恐怖心を糧にしていた怪物の正体。
モヤが晴れると、そこには体育座りをして震える、小さな子供の姿があった。
『……こわかった……』
子供が掠れた声で呟く。
『……ずっと、ひとりで……こわかった……』
人を怖がらせていた彼自身もまた、暗闇の中で怯えていたのだ。
「……あなたも、怖かったんだね」
私はそっと手を差し伸べた。
「もう大丈夫。おやすみ」
子供が顔を上げる。その目には、安堵の色が浮かんでいた。
『……ありがと……』
子供は微かに笑い、光の粒子となって消えていった。
後に残されたのは、4つ目のカードキーだけ。
「……行こう」
私はキーを拾い上げようとした。
その時。
【現実の崩壊】
『――強制ログアウトを実行します!』
有馬の切迫した声と共に、視界がブラックアウトした。
「えっ、ちょっ……!?」
感覚が浮遊し、ガバッと目を開ける。
そこは、薄暗い隠れ家の天井だった。
ヘッドギアを外すと、有馬が血相を変えて叫んでいた。
「来ます! ドアから離れて!」
「え?」
ドォォォォォン!!
凄まじい爆音が鼓膜を叩いた。
隠れ家の分厚い鉄扉が、外側からの爆破で吹き飛んだのだ。
もうもうと立ち込める黒煙。
そこから、ガスマスクをつけた武装部隊が雪崩れ込んでくる。
そして、悠然と歩いてくる一人の男。
スーツ姿の巨漢。スキンヘッドに走る大きな傷跡。
「……ゲホッ、ゲホッ。……見つけたぞ、ネズミども」
保安部長、黒田。
モニター越しに見た「絶対悪」が、すぐそこに立っていた。
【最強の少女の崩壊】
「あ……」
私の隣で、シノが小さく息を呑んだ。
彼女の顔から、血の気が引いていく。
黒田がシノを見つけ、嗜虐的に口元を歪めた。
「よう、No.4。……いい子にしてたか?」
その声を聞いた瞬間。
「……ひっ!?」
シノがガタガタと震え出した。
彼女の脳裏に、忘れたい記憶がフラッシュバックする。
暗い独房。冷たい床。
『お前は犬だ。主人に逆らう犬は、躾けてやる』
殴られる痛み。蹴られる痛み。
『泣いて許しを請え。そうすれば、今日の分は許してやる』
何度も、何度も、繰り返された地獄。
「……あ、ぅ……」
シノの膝が折れ、その場に崩れ落ちた。
「ごめんなさ……い……ごめんなさい……」
あの最強のスピードスターが、ただの怯える子供に戻っていた。
「ハッ、相変わらず無様だな」
黒田が大股で近づき、シノの髪を掴もうと手を伸ばす。
「教育し直してやるよ」
【守るための拳】
ガシッ!
黒田の太い腕が、空中で止まった。
「……その汚い手を離せ」
割り込んだのは、九条だった。
「あぁ? 病み上がりのガキが」
黒田が鼻で笑い、腕を振り払おうとする。
しかし、九条は引かない。
「逃げるぞ、有馬! 二階堂!」
九条が叫びながら、黒田の鳩尾に膝蹴りを叩き込む。
「ぐっ……!」
黒田が一瞬怯むが、すぐに九条の胸ぐらを掴み、壁に叩きつけた。
ドゴッ!!
「がはっ……!」
「九条!?」
体重差と、病み上がりの体。正面から勝てる相手じゃない。
「俺に構うな! 走れッ!!」
九条が消火器のピンを抜き、黒田の顔面に噴射した。
辺り一面が白い煙に包まれる。
「ちっ、小賢しい真似を!」
「今です!」
有馬が裏口のドアを蹴破った。
私はへたり込むシノに駆け寄った。
「立つんだ、シノ! 行くよ!」
「……無理……私……怖い……」
「私がついてる! あんたは私の友達でしょ!?」
私はシノの手を強引に引き、背負うようにして走り出した。
【狂気のドライバー】
「ハァ、ハァ……!」
裏路地に停めてあった有馬のワンボックスカーに飛び乗る。
「出します!」
タイヤを軋ませて急発進。
隠れ家から遠ざかる風景を見て、ようやく息をついた。
「……逃げ切れた?」
シノはまだ私の腕の中で震えている。
九条も口元から血を流して荒い息をしている。
ギリギリだった。
だが、安堵したのも束の間。
ヴォォォォォォン……!!
背後から、鼓膜をつんざくような重低音が響いてきた。
「……なんだ?」
振り返ると、漆黒のスポーツカーが猛スピードで迫ってきていた。
装甲車のように改造されたボディ。ボンネットからはみ出す巨大なエンジン。
「嘘でしょ……あんなの公道走っていいの!?」
運転席が見えた。
ハンドルを握っているのは、顔中を包帯で巻いた異様な男だった。
彼は私たちを見つけると、包帯の隙間から狂気じみた目を光らせた。
『ヒャッハァァァ!! 逃げろ逃げろォ! 潰し甲斐があるぜェ!!』
車のスピーカーから、割れた声が響く。
有馬がバックミラーを見て絶叫した。
「あれは……被験体No.6! コードネーム『Driver』です!」
「なんでゲームのボスが現実で車運転してんのよぉぉぉ!!」
隠れ家崩壊。
そしてシノちゃんの心が折れてしまいました。
黒田の暴力性と、現実世界での追跡。
物語のステージは、夜の公道へと移ります。
次回、No.6とのカーチェイス!
そして、震えるシノは再び立ち上がれるのか?
「シノちゃん可哀想すぎる……」「黒田絶対倒す」と思っていただけたら、
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