第25話「忍び寄る亡霊と、嗤う研究者」
お読みいただきありがとうございます。
3つの鍵を手に入れた玲奈たち。
次なるステージは、彼女が最も苦手とする「ホラー」の世界です。
そして現実世界では、ついに組織の「本当の闇」が動き出します。
「む、むむむ無理! 絶対無理! 帰る!」
ログインした瞬間、私は回れ右をして出口を探した。
そこは、雷鳴が轟く古びた洋館の廊下だった。
壁には不気味な肖像画。床は歩くたびにギシギシと悲鳴を上げる。
被験体No.8。コードネーム『Noise』。
ジャンルは、最恐の「ホラーゲーム」だ。
「うるさいわね。ただのデータでしょ」
シノが呆れ顔でスタスタと歩いていく。
「お化けなんて物理で殴ればいいのよ」
「殴れないから怖いのよ! 九条ぉ、手ぇ繋いでぇ……」
「……却下だ。動きにくい」
九条は冷たく言い放ちつつも、アサルトライフルを構えて私の死角をカバーしてくれている。
「いいか二階堂。No.8は『精神干渉型』だ。恐怖心が強ければ強いほど、奴の力は増す。……ビビったら負けだぞ」
「そんな無茶な!」
ヒュォォォ……。
廊下の奥から、冷たい風と共に女のすすり泣く声が聞こえてくる。
私は半泣きでロケットを握りしめた。
【白い部屋の悪意】
一方、現実世界。
某所に存在する『アーカーシャ・コーポレーション』の中枢研究室。
無機質な白い部屋で、一人の男がモニターを見つめていた。
白髪に銀縁眼鏡。白衣を着た初老の男――研究主任、白峰博士だ。
「美しいねえ……」
彼はコーヒーを啜りながら、画面に表示されたNo.7の消滅ログを眺めていた。
「人間の感情が論理を超越し、システムにエラーを引き起こす。……このデータは貴重だ。次世代AIの感情モジュールに組み込もう」
彼はNo.7――かつて生きていた天才少年の死を悼むどころか、興味深い実験結果として喜んでいた。
「博士」
そこへ、荒々しい足音が近づいてきた。
ドアを開け放ち、入ってきたのはスキンヘッドの巨漢だった。
顔には古傷、身体中から暴力の匂いを漂わせる男――保安部長、黒田だ。
「悠長に観察してる場合ですか。サンプルNo.2(玲奈)を逃した責任、どう取るつもりだ」
黒田はイラついた様子で、近くにあったパイプ椅子を蹴り飛ばした。
ガシャン! と大きな音が響く。
「まあまあ、落ち着きたまえ黒田くん。サンプルは順調にデータを集めてくれているよ」
「ふざけるな。……映像を見ろ。あの裏切り者のNo.4(シノ)も一緒だ」
黒田が指差したモニターには、洋館を探索するシノの姿が映っていた。
「チッ……俺の教育が足りなかったか。あの駄犬め」
黒田の目が、嗜虐的な光を帯びる。
「次は手足の骨を全部折ってからカプセルに詰めてやる。……二度と逃げ出そうなんて思わないようにな」
その言葉からは、かつて彼がシノに対して行っていた「躾」という名の虐待が透けて見えた。
【実験動物たち】
「彼らは今、No.8の領域にいる」
白峰は愉快そうに笑った。
「あそこは精神汚染エリアだ。常人なら1時間と持たずに廃人になる。……まあ、もし生き残ったら」
白峰が黒田を見る。
「その時は、君の出番だ。……好きにしていいよ」
「おう。待ちくたびれたぜ」
黒田がボキボキと拳を鳴らす。
「『実力行使』といこうか。……ガキどものお遊戯は終わりだ」
二人の「大人」の悪意が、静かに玲奈たちへと向けられていた。
【お母さんの声】
ゲーム内。
私たちは洋館の広間にたどり着いていた。
「……何かいる」
九条が銃口を闇に向ける。
「えっ、どこ!? やだやだ!」
私がパニックになった、その時だった。
ふと、壁に掛かっていた大きな鏡が目に入った。
そこに映っていたのは、私だった。
でも、顔がない。
「え……?」
のっぺらぼうの私が、鏡の中から手招きをしている。
『……玲奈』
インカムからではない。頭の中に直接、声が響いた。
優しくて、懐かしくて、でも記憶の彼方に消えかけていた声。
『こっちへいらっしゃい。……寂しかったでしょう?』
「……お母、さん?」
私が小学生の頃に病気で死んだ、お母さん。
仕事ばかりのお父さんとは違って、いつも私を抱きしめてくれた人。
でも、その声は少しずつ歪んでいく。
『置いていかないで……ママ……』
「ッ!?」
今度は、あの30歳の世界で別れた娘――ミナの声に変わる。
「やめて……!」
私は耳を塞いだ。
母としての記憶と、娘としての記憶。
私が失った二つの「愛」が、混ざり合って私を責め立てる。
『あなたが弱かったから、私たちは消えたのよ』
「違う……私は……!」
恐怖と罪悪感で、視界が暗転していく。
九条やシノの声が遠くなる。
【現実への侵食】
『……部長! しっかりしてください!』
有馬の絶叫で、ハッと我に返った。
「はぁ、はぁ……今、声が……」
『声? いえ、ゲーム内の音声データにはそんなものありません!』
隠れ家の有馬がキーボードを叩く音が聞こえる。
『おかしい……この信号は、サーバー内部からじゃない』
有馬の表情が凍りつく。
モニターに表示された波形は、明らかに異常だった。
『外部からの強制干渉……!? まさか、現実世界から操作しているのか?』
その時。
フツッ。
隠れ家の照明が、一瞬だけ瞬いた。
『……九条先輩、まずいです』
有馬の声が震えていた。
『敵は、ゲームの中だけじゃありません。……すぐそこまで、来ています』
新章開幕。
今回の敵は、幽霊よりも恐ろしい「人間の悪意」です。
白峰博士と黒田。
被験体たちを道具として扱い、シノにトラウマを植え付けた張本人たち。
読者の皆様にも「こいつらは許せん!」と思っていただけたのではないでしょうか。
次回、ホラーゲームの恐怖と、現実の襲撃が同時に玲奈たちを襲います。
現実世界でのバトル、そしてシノの過去が明らかに!
「黒田許すまじ!」「お母さんの声は卑怯……」と思っていただけたら、
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