第24話「エラーコードの涙と、秀才の答え」
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有馬の起死回生の一手、「全消し」が発動。
論理の世界で、天才と秀才の勝負が決着します。
ズガガガガガガッ!!
有馬の盤面から放たれた光の奔流が、No.7の領域へと雪崩れ込む。
『なっ……!?』
No.7が目を見開く。
彼が積み上げていた「完璧な連鎖」の隙間に、有馬が送り込んだ大量の「お邪魔ブロック」が降り注ぐ。
計算され尽くした彼の盤面は、異物が混入したことで機能不全を起こした。
連鎖が止まる。
ブロックが窒息したように積み上がり、天井へと迫る。
『あり得ない……! 僕の計算では、君はあの時点で詰んでいたはずだ!』
No.7が叫ぶ。その声から、余裕が消えていた。
『なぜだ! なぜ、あえて消さずに積んだ!? リスクが高すぎる! 成功率0.1%のギャンブルなんて、論理的じゃない!』
「ええ、論理的じゃありませんね」
有馬は指揮棒を静かに振るい、残ったブロックを淡々と処理していく。
「ですが、あなたは『僕が論理的な手しか打たない』と決めつけていた。……それが、あなたの敗因です」
有馬の眼鏡が、モニターの光を反射して白く輝く。
「人間は、時に計算違いをする。感情で動く。……だからこそ、あなたの予測を超えられるんです」
【孤独な演算装置】
『う、うわぁぁぁぁっ!!』
No.7がパニックを起こす。
指先が震え、操作が遅れる。
天才ゆえに、一度崩れたリズムを立て直す「泥臭さ」を知らないのだ。
『嫌だ……負けたくない……! 僕は天才なんだ! 選ばれた人間なんだ!』
悲痛な叫びと共に、No.7の姿がノイズ混じりに明滅する。
その背後に、一瞬だけ「記憶」の断片が浮かび上がった。
――真っ白な部屋。
積み木やパズルに囲まれた、小さな男の子。
『すごいね、奏くん』
『君は天才だ。私たちには理解できない』
大人たちは彼を褒め称えたが、その目は「異物」を見る目だった。
誰も彼と遊ぼうとはしなかった。
彼の話を理解できる人間はいなかった。
『つまらない』
世界は退屈だった。すべてが予測通りで、驚きがない。
だから彼は、この「アーカーシャ」に来た。
ここなら、僕の頭脳を満足させてくれると思ったのに――。
『GAME OVER』
無情な電子音が響き渡る。
No.7の盤面は、天井までブロックで埋め尽くされていた。
勝負ありだ。
『……負け、た……?』
No.7は呆然と玉座に座り込んでいた。
『僕が……凡人に……?』
「凡人ではありません」
有馬がアバターのロングコートを翻し、No.7の前に歩み寄る。
「僕は有馬カオル。……あなたのライバルです」
「ライバル……」
No.7が顔を上げる。
その瞳から、冷徹な光が消え、年相応の少年の色が戻っていた。
『……楽しかった』
ポツリと、彼が呟く。
『こんなにドキドキしたのは、初めてだ。……計算通りにいかないことが、こんなに面白いなんて』
彼の目から、データの涙が零れ落ちる。
『ありがとう、有馬くん。……君の演算、美しかったよ』
「……光栄です」
有馬が静かに頭を下げる。
No.7の体が、光の粒子となって崩れ始めた。
呪縛からの解放だ。
『持っていって。……君なら、使いこなせるはずだ』
No.7が最後に手をかざすと、一枚のカードキーと、USBメモリのようなデータ片が有馬の手元に残された。
『バイバイ。……先生』
最後にそう呼んで、天才少年は笑顔で消滅した。
【参謀の勝利】
「……有馬」
元の隠れ家に戻った私たちは、ヘッドギアを外した有馬を見た。
彼はいつものように眼鏡の位置を直していたが、その表情はどこか晴れやかだった。
「勝ちましたね」
「うん! すごかったよ有馬!」
私は興奮して彼の方を叩いた。
「あの最後の連鎖! 鳥肌立った!」
「……まあ、部長の『強運』がないと成立しないギリギリの作戦でしたが」
「えっ、私のせい?」
「おかげ、と言っています」
有馬は珍しく、少しだけ微笑んだ。
「彼が遺したデータ……これはNo.7自身の『演算アルゴリズム』の一部です。これを僕のPCに組み込めば、解析速度が飛躍的に上がります」
「じゃあ、有馬がパワーアップしたってこと?」
「ええ。これで少しは、皆さんの役に立てそうです」
「もとから役に立ってるってば!」
私が言うと、横で聞いていた九条も小さく頷いた。
「ああ。……いい戦いだったぞ、有馬」
「……恐縮です」
有馬は照れ隠しのように咳払いをして、話題を変えた。
「さて、これで鍵は3つ。……残り5つです」
「先は長いわね」
シノがNo.5から奪ったキーを弄びながら言う。
「でも、確実に進んでる」
私たちは顔を見合わせた。
天才ハッカーとの戦いを経て、チームの結束はより強固になった。
「よし。……次はどいつだ?」
九条の問いに、有馬が新たなデータを表示させる。
そこに映っていたのは、これまでとは毛色の違う、不気味な洋館の画像だった。
「次は……被験体No.8。ホラーゲームの領域です」
「うげっ、ホラー!?」
私が一番苦手なジャンルだ。
「しかも、ただのホラーじゃありません。……精神攻撃を仕掛けてくるタイプです」
有馬の言葉に、部屋の空気が冷たくなった。
有馬無双編、完結です。
天才No.7との戦いは、有馬にとっても大きな自信となりました。
「先生」と呼ばれて消えたNo.7。彼もまた、孤独な子供だったのです。
さて、鍵は3つ集まりました。
次なるステージは、玲奈が苦手な「ホラーゲーム」。
精神攻撃を得意とする敵に、玲奈の心は耐えられるのか?
そして、そろそろ「組織」側も本気を出してきそうです。
「有馬くん最高!」「次はホラー回か……」と思っていただけたら、
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