第23話「天才と秀才、盤上の戦争」
お読みいただきありがとうございます。
今回の舞台は、電脳空間のようなパズルゲームの世界。
ここで輝くのは、我らが参謀・有馬くんです。
「運」も「武力」も通じない論理の戦場で、彼は天才に挑みます。
「……なにこれ。意味わかんない!」
私は頭を抱えて叫んだ。
ログインした世界は、極彩色のネオンが輝くサイバー空間だった。
目の前には巨大な半透明の「壁」があり、そこに無数のブロックが降り注いでいる。
ゲーム名『サイバー・ロジック』。
ルールは簡単。落ちてくる「データブロック」を色ごとに並べて消すだけ。
……なのだが。
「なんで!? 消しても消してもお邪魔ブロックが降ってくるんだけど!」
私が必死にブロックを消すと、相手(CPU)から倍の量のブロックが返ってくる。
九条が腕組みをしてモニターを見上げる。
「ただ消すだけじゃダメだ。連鎖を組んで、相手の盤面に負荷をかけないと」
「連鎖とか無理! こっちは生き残るだけで精一杯なのよ!」
私の「強運」は、ここでは微妙な働きしかしない。
落ちてくるブロックが「欲しい色」になるだけで、それをどう積むかは私の頭脳次第だからだ。
結果、積み上がったブロックが天井に届きそうになる。
『GAME OVER』の文字が点滅し始めた。
「あーもう! 無理! 詰んだ!」
私がコントローラー(のような操作パネル)を投げ出しそうになった、その時。
「……代わってください、部長」
背後から、静かな声がした。
振り返ると、そこには見慣れないアバター姿の有馬が立っていた。
いつもの制服じゃない。
幾何学模様の光が走る黒いロングコートを纏い、片手には指揮棒のようなデバイスを持っている。
「えっ、有馬? ……なんか、カッコいいじゃん」
「アバターの見た目はどうでもいいです。……ここは、僕の領域ですから」
有馬が私の前に進み出る。
九条が彼に問いかけた。
「有馬。相手は『No.7』だ。……勝てるか?」
「正直、分かりません」
有馬は眼鏡の位置を直した(アバターでも眼鏡はあるらしい)。
「相手は、システムが生み出した演算の天才。……でも、やらなきゃいけないんです」
有馬が操作パネルに手を置くと、盤面の空気が一変した。
【傲慢な天才】
『へえ。プレイヤー交代かい?』
空間に、子供の声が響き渡った。
対戦相手のスペースに、ホログラムの玉座が出現する。
そこに座っていたのは、透き通るような銀髪の美少年だった。
年齢は中学生くらいだろうか。
その瞳には感情がなく、ただ冷たい光を宿している。
被験体No.7。コードネーム『Logic』。
「初めまして、No.7」
有馬が静かに挨拶する。
『君のことは知ってるよ。有馬カオルくん。……学校の成績は学年トップ。ハッキング大会での優勝歴あり。いわゆる「秀才」ってやつだね』
No.7は嘲笑うように口角を上げた。
『でも、所詮は人間だ。僕の演算速度には追いつけない。……「努力」で「才能」に勝てると思ってるの?』
痛いところを突く言葉だ。
でも、有馬は動じなかった。
「……お言葉ですが、僕は自分が天才だなんて思っていません。ただの、しがない秀才です」
有馬は指揮棒を振った。
「ですが、凡人には凡人の戦い方がある。……教育してあげますよ、天才クン」
【盤上の戦争】
『READY……GO!!』
電子音声と共に、第二ラウンドが始まった。
「速い……!」
私は息を呑んだ。
有馬の指先が、鍵盤を叩くピアニストのように舞う。
指揮棒が振られるたびに、ブロックが高速で回転し、芸術的な配置で積み上がっていく。
タタンッ!
5連鎖。
相手の陣地に大量のお邪魔ブロックが降り注ぐ。
しかし。
『遅いよ』
No.7は玉座から指一本動かさず、視線だけでブロックを操作しているようだった。
一瞬で10連鎖が返ってくる。
「ぐっ……!」
有馬の盤面が一気に埋まる。
天才と秀才。
その圧倒的な「処理速度」の差が、残酷なほど可視化されていく。
(……ああ、やっぱり)
有馬の脳裏に、苦い記憶がフラッシュバックする。
幼い頃から、言われ続けてきた言葉。
『カオルくんは偉いね。頑張り屋さんだね』
『でも、一番にはなれないね』
どんなに勉強しても、どんなにプログラムを組んでも。
「天才」と呼ばれる人間には勝てなかった。
彼らが息をするようにできることを、僕は血を吐くような努力で習得するしかなかった。
『チェックメイトだ』
No.7の冷酷な宣告。
有馬の盤面は、あと数ブロックで天井に届く。
誰の目にも、敗北は明らかだった。
「有馬……!」
私が叫ぶ。
【凡人の反撃】
しかし。
追い詰められた有馬の顔に、絶望はなかった。
むしろ、その瞳の奥で、冷徹な計算の光が燃え上がっていた。
「……チェックメイト? まだ早いですよ」
有馬の指の動きが変わった。
今までは「消す」ための動きだったのが、「積む」ための動きに。
あえてブロックを消さず、ギリギリまで積み上げていく。
『自暴自棄かな? 無駄だよ』
No.7がトドメの連鎖を組む。
その瞬間。
「……かかりましたね」
有馬がニヤリと笑った。
「天才には、共通する弱点がある」
有馬が最後の一つ、起爆剤となるブロックを落下させる。
「自分が常に正しいと思い込んでいること。……だから、相手の『ミス』を疑わない」
カチッ。
ブロックがハマる。
それは、敗北への一手に見せかけた、大逆転へのトリガーだった。
「――全消し(オール・クリア)、発動」
ズガガガガガガッ!!
有馬の盤面で、信じられない連鎖爆発が始まった。
有馬回、前編です。
天才No.7に圧倒される有馬ですが、彼は諦めていませんでした。
「天才の驕り」を突く、凡人の意地。
パズルゲームならではの大逆転劇が幕を開けます。
次回、有馬の秘策が炸裂!
そして明かされる、No.7の正体とは?
「有馬くんカッコいい!」「ざまぁ展開期待!」と思っていただけたら、
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