第21話「逃亡者のバレンタインと、チョロすぎる女神」
お読みいただきありがとうございます。
激戦の後の、束の間の休息回です。
今日は2月14日。
逃亡生活中だろうと、女子高生には外せないイベントがありました。
廃ビルの地下、隠れ家にて。
私はスマホのカレンダーを見て、深いため息をついた。
「……2月14日かぁ」
世間はバレンタインデー。
本来なら、学校でチョコを交換したり、ドキドキしながら本命を渡したりする日だ。
まさか、指名手配(仮)の逃亡犯として迎えることになるとは。
「……でも、準備はした」
昨日の買い出しの際、食費を極限まで切り詰めて、コンビニでチョコを買っておいたのだ。
ついでに昨夜、テンションが上がって「ラブレター」なるものも書いてみたのだが……。
『九条へ。いつも守ってくれてありがとう。その……好き、とかじゃないけど、頼りにしてるっていうか……』
今朝読み返して、顔から火が出るほど恥ずかしくて破り捨てた。
危ないところだった。あんなポエムを渡したら、一生の汚点になるところだった。
私は気を取り直し、ポケットにチョコをねじ込んで立ち上がった。
【VS九条:テンプレの誤爆】
九条は簡易ベッドで、タブレットを見ながらデータの整理をしていた。
「……九条」
「ん? どうした」
彼が顔を上げる。
その顔色はだいぶ良くなっている。
「はい、これ」
私は小さな包みを差し出した。
「……なんだこれ」
「退院のお祝い」
「……俺、入院してないけどな。脱走しただけで」
「細かいことはいいの! とにかくお祝い!」
「そうか。……ありがとな」
九条は素直に受け取ろうとして、ふと手を止めた。
「でお祝い半分……あと半分は?」
「えっ」
九条の鋭い視線。
(ま・ず・い。勢いで来たけど、何も考えてなかった!)
バレンタインだと言うのは恥ずかしい。でも嘘をつくのも……。
思考回路がショートした私は、とっさに昨夜読んだ漫画のセリフを叫んでいた。
「はっ、勘違いしないでよね! アンタのことが好きとかじゃないんだから!」
「……は?」
「義理よ義理! 超義理なんだから!」
シーン……と静まり返る隠れ家。
九条がジト目で私を見る。
「……お前、どこのテンプレ拾ってきたんだよ。昭和か?」
「うっさい! ほ、ほら、受け取れ!」
私は半ば投げつけるようにチョコを押し付けた。
九条は苦笑しながら、それをキャッチした。
「……ん、ありがとう」
その笑顔が、不意打ちで優しかった。
「はぅ……」
「ん? どうした」
「……ありがとうだぁ……なんか急にデレた……どういうことだ……」
私は顔が沸騰しそうだった。
いつも憎まれ口ばかりのくせに、こういう時だけ素直になるのは反則だ。
「……あー、頭痛が痛い」
「トートロジー(同義語反復)だぞ。……俺はVRに逃げる」
九条はチョコを大事そうにポケットに入れると、赤面する私を残してさっさとヘッドギアを被ってしまった。
……逃げられた。
でも、受け取ってくれたから、まあいいか。
【VS有馬:資本主義の敗北】
次は有馬だ。
パソコンに向かってキーボードを叩いている背中に近づく。
(九条の時の失敗は繰り返さない。主導権を握るのよ、玲奈!)
私はポケットから、もう一つのチョコを取り出した。
一個500円。
私の全財産をはたいた、高級(コンビニ比)チョコだ。
まるで本命チョコのような価格設定だが、これは日頃の感謝を示すための投資だ。
10円のチョコにしなくてよかった。それが正解だ。
「はい、有馬君! チョコ!」
私はドヤ顔でデスクに置いた。
「500円のだからね! 500円! 心して受け取るよーに!」
有馬は手を止め、眼鏡の位置を直した。
「……恩着せがましいチョコですね。五月蝿いです」
「なっ……!」
「まあ、糖分補給は必要ですから。もらっておきます」
有馬は淡々とチョコを受け取り、引き出しから何かを取り出した。
「じゃあ、はい。お返しです」
ペラッ。
渡されたのは、一枚のカードだった。
『アーカーシャ・クロニクル 10連有償ガチャ無料チケット』
「……ほぉぉー?」
私の目が釘付けになった。
これ、課金しないと回せない「有償ガチャ」のチケットだ。
現金換算で……約3000円、いや5000円相当!?
「僕はガチャに興味ないんで。ログインボーナス1000日達成の報酬です」
有馬は興味なさそうに言った。
「5000円分だから、5000円。……等価交換にはなりませんが」
「いやぁー有馬君!!」
私はガシッと有馬の手を握りしめた。
「君は将来出世するよー! さっすが参謀! 分かってるぅ!」
500円が5000円に化けた。わらしべ長者もびっくりだ。
玲奈にこにこ。
有馬は私の手を離し、やれやれと首を振った。
(……チョロすぎる。この人、将来詐欺に遭うんじゃないか?)
【天才ハッカーからの招待状】
「シノちゃんも食べる?」
「いらない。……甘いの、苦手だし」
部屋の隅でシノ(No.4)が拗ねている。
たぶん、自分も欲しかったのだ。あとでこっそり分けてあげよう。
「さて、ガチャ回そっと!」
私がウキウキでスマホを取り出した、その時だった。
ザザッ……!
「……ん?」
有馬のパソコンのモニターが、突然ノイズに覆われた。
「有馬、パソコン壊れた?」
「いえ……違います。外部からの強制割り込みです!」
有馬の表情が一変し、キーボードを叩き始める。
「ファイアウォール突破されました! 早い……!」
ノイズが収束し、黒い画面に緑色の文字が浮かび上がった。
『Hello, Cheater(こんにちは、インチキプレイヤーさん)』
『Happy Valentine』
「……誰?」
私が画面を覗き込むと、文字が打ち換わった。
『僕のパズル、解けるかな?』
『by No.7』
「No.7……!」
有馬が眼鏡を光らせた。
「コードネーム『Logic』。……天才ハッカーです」
楽しいバレンタインは、ここまでらしい。
甘いチョコの余韻は消え、ピリついた電子戦の気配が満ちてきた。
バレンタイン回でした。
九条にはテンプレツンデレ、有馬には現金な反応。
玲奈の扱いやすさが際立ちましたね(笑)。
しかし、ラストで不穏なメッセージが。
次の相手は、有馬を名指しで挑発する天才、No.7。
物理攻撃(キックや銃)が通じない「論理の迷宮」での戦いが始まります。
有馬無双編、スタートです!
「玲奈チョロ可愛い!」「有馬との格差w」と思っていただけたら、
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