表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『このゲームには秘密がある』 ~君が目覚めるまでのクエスト~  作者: 月祢美コウタ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/19

第2話「無気力王子と、ランキング1位の秘密」

【前書き】

お読みいただきありがとうございます。

今回は現実世界(学校)での探索パートです。

あの「無気力王子」の実態に迫ります。

翌日の昼休み。

教室の空気は、どんよりと澱んでいた――少なくとも、窓際の一角だけは。

「……よく寝るわね、本当に」

私は呆れ半分、苛立ち半分でその背中を見下ろしていた。

九条くじょう れん

クラスメイトであり、我が校が誇る(?)「無気力王子」。

今日も彼は、登校してから一言も発することなく、カーテンを閉め切った暗がりの中で机に突っ伏している。

まるで、生命活動を最小限に抑えているかのように。

「あーあ。二階堂さん、また九条に絡んでるよ」

「本当にもったいないよなぁ、二階堂さんは」

クラスの男子たちのひそひそ話が聞こえてくる。

「黙って座ってれば、学園一の美少女なのに」

「口を開けば金欠、動けばガサツだもんね……」

ほっといて頂戴。

私は無意識に、跳ねた髪先を手櫛で直した。

朝のヘアセットに30分かけるくらいなら、デイリーミッションを消化したい。

見たスキンにお金をかけるより、装備ガチャを回したい。

それが私、二階堂玲奈の正義だ。

(でも、昨日の今日で、よく平然としてられるわね……)

私の制服のポケットには、あの「金のロケット」が入っている。

写真の少年は、間違いなく目の前の彼だ。

祖父が「命の危険」を冒してまでメッセージを託した相手が、こんなやる気のない男だなんて。

「……ちょっと、起きなさいよ」

私はカツカツと歩み寄り、勢いよく九条の机を叩いた。

バンッ!

教室中の視線が集まる。「うわ、部長がまた何か始めたぞ」という空気が背中に刺さるが、知ったことではない。

九条が、のっそりと顔を上げた。

「……ん」

焦点の合わない虚ろな目。

目の下には、病的なほど濃いくまが刻まれている。

肌は白く、生気がない。まるで幽霊だ。

「何……二階堂。うるさいんだけど」

「うるさいとは何よ! あんた、いつまで寝てるつもり?」

「……光が眩しい。カーテン閉めて」

「閉まってるでしょ! それより、あんたに聞きたいことがあるの」

私は机に両手をつき、彼の顔を覗き込んだ。

周囲に聞こえないよう、声を潜める。

「あんた……『ダンジョンカード』やってるでしょ」

九条の眉が、ピクリと動いた。

一瞬だけ、その瞳孔が開いたのを私は見逃さなかった。

図星だ。

「……は? 何それ」

「とぼけないで。あんたの指、さっきから動いてるわよ。コマンド入力の癖でしょ?」

私はカマをかけた。

だが、九条の反応は予想以上に冷淡だった。

彼は興味なさそうに欠伸を噛み殺し、再び机に突っ伏したのだ。

「……馬鹿じゃないの。ゲームなんて、ただのデータの羅列だろ」

「なっ……」

「時間の無駄だ。そんな暇があるなら、俺は寝る」

冷たく突き放された言葉。

でも、私には聞こえてしまった。

その声の底に含まれた、押し殺したような感情の色が。

「時間の無駄」――その言葉を、誰よりも彼自身が憎んでいるような響き。

「……あっそ! 悪かったわね、暇人で!」

私は捨て台詞を吐いて、自席に戻った。

ポケットの中のロケットを、ぎゅっと握りしめる。

(何よ、あいつ……。お爺さんがあんなに心配してるのに)


【疑惑の放課後】


放課後。

昇降口で靴を履き替えていると、視界の端に見覚えのある後ろ姿が映った。

九条だ。

いつもならナマケモノのような速度で歩く彼が、今日はなぜか早足で、切羽詰まったように校門を出て行く。

「……?」

部活に行くはずだった私の足が、勝手に動いた。

尾行なんて趣味じゃない。

ただ、昨日の今日だ。妙な胸騒ぎが消えない。

(ちょっと見るだけ。ゲーセンにでも行くなら、とっちめてやる)

しかし、彼が向かった先は繁華街ではなかった。

駅から離れた、白い巨塔。

――総合病院。

「病院……?」

九条は迷わず救急棟の方へ歩いていく。

私は物陰に隠れながら、彼が入っていった建物の窓を見上げた。

いくつかの窓を目で追ってようやく、一階の病室にその姿を見つけた。

カーテンの隙間から、かろうじて中が見える。

ベッドには、たくさんの管に繋がれた老人が眠っている。

九条はパイプ椅子に座り、その老人の骨と皮だけになった手を、祈るように両手で包み込んでいた。

「…………」

その横顔は、教室で見せる気だるげな表情とは別人のようだった。

何かを悔い、何かにすがりつくような、悲痛な顔。

ズキリ、と胸が痛む。

(……見ちゃいけない)

私は慌てて視線を逸らし、踵を返した。

これ以上踏み込むのは、ただの無遠慮な好奇心だ。

でも、確信してしまった。

あのベッドの老人は、昨日の「老戦士」だ。

そして九条は、「ゲームなんて無駄」と言いながら、何かのために戦っている。


【たった一人のギルド】


帰宅した私のスマホが震えた。

有馬からの着信だ。

『部長、例の件。わかりましたよ』

開口一番、有馬の声は興奮気味だった。

「例の件って……九条のこと?」

『はい。部長に言われて、ネットの掲示板やランキングのログを洗い出しました。「不眠不休のソロプレイヤー」の正体です』

私はごくりと喉を鳴らす。

「もったいぶらないで、教えなさいよ」

『現在の総合ランキング1位。プレイヤー名は……「ナイン(Nine)」』

ナイン。9。

九条の「九」。

「……そのまんまじゃない。捻りがないわね」

『ええ。でも、そのプレイデータは異常ですよ。総プレイ時間は測定不能。ほぼ24時間、ログインしっぱなしです。学校にいる間も、睡眠中も……おそらく、意識の一部を常にゲームに繋いでるんじゃないかと』

「そんなことできるの?」

『普通はできません。脳への負荷が大きすぎる。でも、やろうと思えば……体を壊す覚悟があれば』

学校でのあの居眠りは、ただの怠慢じゃなかった。

脳のリソースを、四六時中ゲームに割いている反動だ。

命を削ってまで、彼は何を求めているの?

『で、ここからが本題です。部長、昨日のあの「老戦士」の名前、覚えてますか?』

「え? 名前までは聞いてないけど……」

『僕、あの後ログを解析して、消滅したアバターのIDを復元したんです。そのキャラ名は「オールド・ソルジャー(Old Soldier)」』

有馬が一拍置く。

『そして、ランキング1位「ナイン」の所属ギルド欄。そこにはこう書かれていました』

私はスピーカーから聞こえる言葉と同時に、手元のタブレットで検索画面を開いた。

そこに表示された文字列を見て、息が止まる。

プレイヤー名:ナイン

所属ギルド:『Old Soldier(1名)』

『……たった一人のギルドメンバー。たぶん、ずっと待ってるんですよ。戻ってこない相棒を』

画面が滲んで見えた。

九条の「時間の無駄」という言葉が、脳内で再生される。

あれはゲームに向けた言葉じゃない。

何もできず、ただ祖父の帰りを待つしかない、現実の自分自身に向けた言葉だったんだ。

「……有馬」

『はい』

「私、決めた」

私はポケットから、あの金のロケットを取り出した。

冷たい金属が、今は熱を帯びているように感じる。

「このロケット、絶対に彼に届けなきゃ。……ログインするわよ」

『了解です。……今夜は長くなりそうですね』

私はこめかみにパッチを貼り付けた。

もう、ただの金稼ぎじゃない。

これは、彼を目覚めさせるためのクエストだ。



【あとがき】

ここまでお読みいただきありがとうございます!


無気力王子の正体は、孤独なトップランカーでした。

祖父を待つための「たった一人のギルド」……。

次回、いよいよ部長がゲーム内で彼を追いかけます。

しかしそこは、一般プレイヤーが決して立ち入ってはいけない危険地帯でした。


少しでも「面白い!」「続きが気になる」と思っていただけたら、

下にある【☆☆☆☆☆】マークから評価を頂けると、とても嬉しいです!

ブックマークもぜひお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ