第19話「狂戦士の咆哮と、壊れたブレーキ」
お読みいただきありがとうございます。
新たなターゲット、No.2『バーサーク』。
FPSの次は、横スクロールアクション風のステージへ挑みます。
そこに待っていたのは、悲しき怪物でした。
「うわ、鉄くさっ」
ログインした瞬間、鼻をつくオイルと錆の匂いに顔をしかめた。
そこは、薄暗い巨大な廃工場のようだった。
天井には巨大なフックが吊り下がり、床にはボルトや鉄屑が散乱している。
「ヒャッハー! 新入りだァ!」
物陰から、モヒカン頭にチェーンを持った、いかにもな雑魚敵たちが湧いて出た。
「邪魔よ」
ズバッ!
シノ(No.4)が赤い残像となって駆け抜けるだけで、敵が次々と宙を舞う。
「クリアリング、完了」
九条が撃ち漏らしを正確にヘッドショットで沈める。
一瞬で静寂が戻った。
「……ねえ」
私は瓦礫の上に座って頬杖をついた。
「私、やることなくない?」
「囮としての存在価値を忘れないで」
シノが冷たく言い放つ。
「ひどい! もうちょっとこう、ヒロイン的な扱いは!?」
「ないわよ。行くわよ、お荷物」
「キィーッ! 九条、なんか言ってやって!」
「……先行するぞ」
「無視!?」
【鎖に繋がれた怪物】
工場の最深部。
巨大なプレス機やベルトコンベアが稼働する、広大なエリアに出た。
その中央に、禍々しい気配があった。
「……いた」
九条が足を止める。
部屋の中央、太い鎖で全身を拘束された巨人がうずくまっている。
異常に発達した筋肉の塊。身長は3メートル近いだろうか。
スキンヘッドの頭部や、丸太のような腕には、無数の金属プレートやボルトが直接埋め込まれている。
『あれが……被験体No.2。コードネーム『バーサーク』です』
有馬の声が緊張を帯びる。
その時、巨人がゆっくりと顔を上げた。
白濁した瞳孔が開いた目が、ギョロリと私たちを捉える。
「■■■■■――――ッ!!」
言葉にならない咆哮。
ブチブチブチッ!!
巨人が腕に力を込めると、鋼鉄の鎖が飴細工のように引きちぎられた。
「嘘でしょ……あんな太い鎖を?」
私が後ずさる。
人間じゃない。あれは、生物兵器だ。
【絶望的な強度】
「先手必勝!」
シノが地面を蹴った。
速い。FPSの時よりもさらに加速している。
「オラァッ!!」
シノの渾身の回し蹴りが、巨人の首筋に直撃する。
ドォォォン!!
重い衝撃音が響いた。普通の敵なら首が折れて即死する威力だ。
しかし。
「……は?」
巨人は、ピクリともしなかった。
仰け反りもしない。まるで蚊が止まったかのような反応だ。
「嘘……効いてな――」
ブンッ!
巨人の裏拳が、ハエを払うように振るわれる。
「ぐっ!?」
シノがガードする間もなく吹き飛ばされ、鉄骨に激突した。
「シノちゃん!?」
「……いったぁ……何よあいつ、岩!?」
「援護する!」
九条がアサルトライフルを連射する。
火花が散り、巨人の体に弾痕が刻まれる。
血は出ている。ダメージはあるはずだ。
だが、巨人は止まらない。
痛覚がないかのように、銃弾の雨の中を平然と歩いてくる。
『スーパーアーマー状態です!』
有馬が叫ぶ。
『痛覚遮断と筋力増強により、あらゆる攻撃でのノックバック(仰け反り)が無効化されています! 足止めできません!』
「そんなの、どうやって倒すのよ!」
【壊れたブレーキ】
「■■■■■――――!!」
巨人が暴れ始めた。
私たちを攻撃するというより、手当たり次第に周囲の柱や機械を破壊している。
ガシャーン! ドゴォォォン!
工場の天井が崩れ、瓦礫が雨のように降ってくる。
「ちょっ、このままじゃ生き埋めだよ!」
私たちは必死に逃げ回った。
シノの攻撃も通じず、九条の銃も足止めにならない。
ただの災害だ。
その時。
私は見てしまった。
「ウゥ……アァ……」
巨人が、破壊の合間に、頭を抱えてうずくまる姿を。
その体は、小刻みに震えている。
「……あいつ、何かに怯えてる?」
怒っているんじゃない。
何から逃げようとして、パニックになっているように見える。
『……解析しました』
有馬の声が響く。
『彼の脳波、恐怖で塗りつぶされています。実験の副作用で、常に激痛と幻覚を見ているようです。……暴れているのではありません。逃げようとしているんです』
「……っ」
胸が痛んだ。
あんな姿にされて、痛みも感じない体にされて、それでも心はずっと泣いているんだ。
「じゃあ、あいつも……被害者なの?」
【起死回生のスイッチ】
「危ない、二階堂!」
九条の声で我に返る。
巨人が投げ飛ばした鉄骨が、私の頭上へ飛んできた。
「きゃっ!?」
私は慌てて横に飛び退いた。
ガシャーン!!
鉄骨が地面に突き刺さる。
「ハァ、ハァ……死ぬかと思った……」
私は無様に転がり、起き上がろうとして――手をついた先にある「操作盤」に気づいた。
『PRESS MACHINE : STANDBY』
「え?」
私の手が、偶然その起動ボタンを押していた。
ウィィィィン……。
頭上で、巨大な油圧式プレス機が駆動音を上げ始めた。
ステージ中央にある、車一台をぺしゃんこにできそうな巨大な鉄塊。
「……これ、使えるかも」
私の脳内で、パズルのピースがハマった。
どんなに頑丈な体でも、攻撃が通じなくても。
システム的な「即死ギミック」なら?
「九条! シノちゃん!」
私は立ち上がり、叫んだ。
「作戦変更! あいつを……あそこに誘い込む!」
私が指差したのは、巨大なプレス機の真下だった。
「二階堂、お前……」
九条がニヤリと笑う。
「なるほど。力押しがダメなら、知恵比べか」
「■■■■■――――!!」
巨人が咆哮を上げ、私に向かって突進してくる。
さあ、こっちよ。
その苦しみごと、私が終わらせてあげる。
倒せないなら、潰してしまえばいいじゃない。
玲奈の「強運(という名のギミック発見)」が光る回でした。
No.2『バーサーク』の悲しき暴走。
次回、巨大プレス機を使った攻略戦、そして彼の救済が描かれます。
「その手があったか!」「怪物が可哀想……」と思っていただけたら、
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